偵察の小舟
──船が近づいてくる。
少し離れた海の中からセレナの気配がある。
私は木の上からセレナの近くにある岩礁へと転移した。
ちょうど船からは死角。
隠蔽を解くと、セレナはすぐに気がついてひょっこり頭を出した。
「いよいよねー」
「海の担当、お疲れ様」
「ほんとよー、大変だったわ……」
船旅をずーっとフォローしていたセレナが一番大変だったかも。
私たちは魔法で水中でもある程度は動けるけれど、機動力はマーメイドには敵わない。
「なかなか着岸しないわね」
船は陸地から少し離れて停泊している。
「あ、小舟が出たわね……人間二人が乗ってる」
セレナが双眼鏡を取り出し、小舟を眺めた。
「ジューンは目がいいわね。……乗ってるのは斥候のラウゲン、後方魔術師のカレーニア」
「偵察か。まあ、そうよね。いきなり着岸はしないか」
勇者パーティの最終メンバーは七名。
入れ替わりが多くて大変だったらしいが、最終調整でこのメンバーで安定している。
一、勇者グラン、転移者の人間(男性)
ハナ、聖女の柴犬(雄)
二、前衛タンク、熊獣人ロウ(男性)
三、前衛攻撃、アルシア第五王子殿下、アルフォンス(男性)
フェンリルのニーヴ(雄)
四、後衛回復魔術師、聖女代行夢魔のアンジュ(魔界仕込み要員のジーン)性別不明。
五、後衛攻撃魔術師、エルフのアライン(男性)
六、後衛補助魔術師、人間のカレーニア(女性)
七、斥候ラウゲン。中衛担当、人間(男性)
「あー、ラウゲン。なんか二股かけてハゲの呪いかけられた人ね」
「アラインに解呪してもらったって聞いたけど」
「うん、髪の毛あるわ」
「ブハッ、それは良かったわね」
セレナが吹き出し、尾で水面を叩いた。
「……なんか喋ってるけど集音魔法使っても、この距離じゃ私には聞こえない」
「そこは私に任せて」
どの種族より耳が良いのがエルフだ。
私は普段人間と変わらないサイズの耳をしているが、エルフ仕様に戻した。
「いつ見てもエルフの耳っておかしいわね。収納可能ってどうなってるの」
「収納可能じゃなくて、魔力を送ると展開するだけなのよ」
「へえ……?」
展開した耳は大きく尖っていて、斜め上に伸びている。
集音魔法を使えば遠くで落ちる木の葉の音も逃さないが、当然他の音も大量に入ってくるので煩わしい。
なので普段はしまっておくのが良いのだ。
「これやると聞こえるのはいいんだけど、うるさいのよね」
「ピアスいっぱいつけれそうね。音だけなの?効果は」
「いいえ。魔脈を広げるアンテナにもなってるから、戦闘能力も跳ね上がるわよ」
「……二段階変身って魔王みたいね。怖っ」
「でも普段は使えないのよ。こんなに横に張り出してたら怪我しやすいし、いいことないわ」
「確かにあちこち引っかかりそう」
「でしょ? それに耳って骨でくっついてるわけじゃなくて、軟骨だから出しっぱなしにしてると重量で耳が垂れてくるのよ」
「あ、年取ってるエルフの耳が真横を向いてるのって……」
「加齢よ、加齢。エルフにもいろいろ文化があってね、耳が大きいほど強いとされているから出しっぱなしで生活してる層も居るの」
「なるほど、そういうエルフは耳が垂れちゃうのね……」
「怪我しやすいからオススメしないけどね」
「ふーん、でハゲ未遂の人たちは何を喋ってるの」
私は小舟に集中し、会話を拾い始めた。
「どこから侵入可能か、接岸にあたって深さは足りているか……まじめに調査してるっぽい。あ、勇者とハナちゃんは船酔いでぐったりしてるらしいわ」
「船酔い……そうなると上陸後は休憩が入るわね。カルミラに伝えてくるー」
セレナはそう言うと、小さな水飛沫を上げて海中へと消えていった。
(アラインがいるから、船酔いは魔法である程度は回復するはず)
どちらにせよ、しばらく海上にいた勇者たちは陸地にまた慣れるまで時間がかかるはずだ。
ずっと揺れ続けている甲板と、動かない陸地では歩き方も変わってしまうから。
船酔いの後は陸酔いが起きる可能性が高い。
時刻はまだ明け方。
着岸はしっかり明るくなってからになるだろう。
休憩、周囲の観察で用意した「荒れた村跡地」で午前中を過ごし、午後から探索開始であればスケジュール通りだ。
(順調、順調。夜に屍龍たちを村の近くに引率すれば完璧ね)




