雷雲
「魔道具はもうちょっと離せ!」
「もたもたするな、もう所定位置につけ」
「迷彩障壁、起動しましたー!」
死の島の北東側は現場スタッフの叫ぶ声で、大騒ぎだ。
後数時間もすれば、勇者たちの船が到着する。
私は最初の仕事、雷雲を呼ぶタイミングまで座って待機である。
「なあ」
自作魔道具の最終チェックをしながらレスターが地面を指さした。
「ここに天候魔法陣を敷くと思って、周囲を焼いておいたんだが」
「雷雲を呼ぶだけでしょ、魔法陣の助けはいらないわ」
雷雲を発生させた後は、レスターの魔道具で捕まえておくだけだ。
維持はベイリウスが魔力を提供する。
「うーむ、魔法陣マニアなのに魔法陣無しで魔法を連発っておかしくないか」
「あら。魔法陣マニアだからこそ、必要な魔法陣しか使わないのよ。それに積乱雲って前もって作れないのよ……寿命が一時間くらいしかないから」
勇者たちが到着する頃には雷雲が感じ悪く上空に浮かんでいるのがベスト。
雨は撮影に支障が出るので、作る雷雲は到着時の一個だけ。
雷のみ、雨無しでベイリウスが加減するから呼ぶタイミングさえ間違わなければ問題ない。
「雷雲はどうやって作るんです? 魔法で一気に構築するのか、自然現象通りに作っていくのか──」
ベイリウスは魔道具に魔力を通しながら質問してきた。
「相手パーティがエルフばかりだったら、自然現象通りに構築一択だけど……今回は半々かなぁ」
「ほう……」
「そろそろ準備し始めるけど、理屈は簡単。上空は低温、地上は高温。これを風で上に送る……ここは海、空気には水分がいっぱいだから──上空の低温で冷やされて雲ができる」
ここ掘れ組のコボルトたちが手を留めて目をキラキラさせて聞き耳を立てている。
気象学に興味があるのだろうか。
「……その雲の中に適宜の氷粒を発生させて、しばらく魔力で動かして摩擦で電気を発生させる。いい感じに溜まってきたらゴロゴロいい始めるから、そしたら魔道具に固定ね」
全部魔法でやるし、自然現象をなぞっただけなのだが一応半々ということで。
野良雨龍を呼んでくる案もあったけれど、島中びしょ濡れはちょっと困る。
それに、屍龍たちは湿気は嫌だと思うのよね。
私は死の島上空に魔力を送り、しっかり冷却し始めた。
その後温風を巻き上げていく。
魔法で行なっているので自然現象の数十倍のスピードだ。
「おお……」
「本当に雲だ……」
「凄いなー」
コボルトたちが尾を振って喜んでいる。
悪い気はしないが、手が止まったままだとそろそろゴンタさんに怒られそう。
「エルフって一体どうなってるんですか、こんなことしたら魔力枯渇しますよ……三地点で大規模魔力の行使に制御……」
ベイリウスが呆れたようにレスターに話しかけている。
「エルフは確かにでたらめだが、ジューンはその中でも相当おかしいからな。気にしたら負けだ、魔神かなんかだと思っとけ」
「はあ。しかし凄い魔力量ですねえ」
雲は密度を増し、氷粒は順調に電気を発生させはじめた。
飽和状態になると放出されて雷が落ちるわけだが……今回は雷を落としてはいけないので、滞留電気量は調整が必須。
あくまでゴロゴロと不吉な音と薄暗さを提供するだけ。
勇者たちが野営をする頃にはベイリウスが遠くの海上に雲を持っていくので、島に雨は降らせない。
「うん、いい感じ。じゃあレスターお願い」
「おう」
レスターが魔道具を操作すると、地上数ヶ所に設置された魔道具から雲へと細い光が一瞬伸びて消えていった。
私の次の仕事は最終決戦での影武者だけだし、ちょっと周囲を見て歩いてみるか。
遠目にミシュティたちが招待客受け入れの打ち合わせをしているのが見える。
(誰かに会って仕事を押し付けられたら大変だわ。隠蔽魔法で消えておこう)
死霊の森にある一番大きな木に登って、ちょうどいい枝に座る。
「死霊の森だけあって、驚くほど爽やかさがないわね……」
見晴らしはいいが、陰惨すぎて全く気分が上がらない。
だが、ここからは勇者の船らしき船影も目視できる。
あと一時間程度で着岸しそうだ。
(いや、岸辺についてからにかかる時間。着岸位置や下船タイミングを決めてからだろうし……上陸は二時間以上あとになりそうね)




