無表情なアラインさん
「さっそくだけど、幾つか追加の注意事項があるの。まあ座って」
私の言葉を聞いて、アラインの表情筋が益々仕事をしなくなった。
「追加とは?」
「上陸後はこういう順番で誘導して欲しい」
私は詳細なフローチャートをアラインに手渡した。
「ふむ。上陸後、注意深く海岸から見渡すと休憩ポイントの村(北北西2km先)を発見、休憩後一旦魔王城の様子を窺う……その後跳ね橋のギミック発見、探索でキーアイテ……ム……」
アラインの眉間にシワが入った。
「ここにある屍龍(5)追加、とは? 屍龍追加はチラッと聞いたが……」
「上陸に花を添える感じ?」
「(5)と言うのは五歳ではないな? まさか五頭か」
「そう、五頭。でもおとなしくていい子たちだから大丈夫」
「制御下にあると」
「ええ。彼らには適当に戦って適当に撤退するよう言い聞かせてあるから、うっかり昇天させないでね」
「……では一時間程度戦って、屍龍が撤退する動線を作ればいいんだな? 五頭は勇者たちには多いと思うのだが」
「エルフのあなたならどうにか出来ると思って」
「制御されているなら問題はない」
「それが終わったら一旦また休憩か野営に入っちゃって」
アラインがページをめくった。
「なるほど、跳ね橋を動かすタイミングは二日目の午前中……城探索は五時間以内。決戦地である謁見の間には十八刻着、決戦開始は十九刻……」
「決戦開始が夜に差し掛かるのはゴールデンタイムだから仕方ないのよ」
「ふむ」
「あくまであなたの役目は思考誘導だから、無理に動かなくてもいい。二時間くらい前後しても構わないわ。十九刻開始だけ気にしておいてくれれば」
アラインは無表情のまま頷き、転移して行った。
エルフの男ってどうして無表情なのかしら。
女は笑上戸が多い気がするのだが。
(私がエルフ男性にナシだと思われてる確率は……ほぼ百パーセント)
私だってエルフと恋愛したくないし。
円満なうちはいいけれど、破局したら片方は死ぬ、多分。
「人の話は面白いけど、自分が恋愛するのはねぇ……」
お金も困らない程度に稼げる。
ペットもいる。
有能なメイドもいる。
友人だって少なからずいるわけだし……生活や人間関係に不満はないのだ。
恋愛を自分の生活に組み込むデメリットの方が大きい。
もちろん、それをしてもいいと思えるような素敵な人がいれば別。
(この年まで生きて、そういう男にまだ巡り合ってないのよね、ノリで結婚したことはあっても……)
酔った勢いで某ホムンクルス大国の王様と結婚したのは、魔法契約無しの口約束の白い結婚だったからノーカウントだ。
「私の邪魔をしないパートナー。そんな人って存在するのかしらね?」
限りなく居なさそう。
それならミシュティがいるわけだし。
私は鏡に映る自分を見つめ、耳横の乱れた髪を丁寧に直した。
縁が空色に滲んだ明るい灰色の瞳は、静かに見返してくる。
(変身の練習しとこ……後、自分の出番の時に出す黒炎も魔法陣組まないと)
変身からバトンタッチまで勇者たちには動いて欲しくないから、黒炎に軽い麻痺効果つけとこう。
「ふんふんふ〜ん♪」
完璧な真円を一つ。
中央に小さめの真円を一つ。
その周囲を帯状に、魔法行使の記号文字で埋めていく。
二重円に見える、小さい円と大きい円はリンクしているが別の魔法陣だ。
私くらい魔法陣マニアになれば、複数の効果を持たせた多重魔法陣などはお手の物。
何を省いて大丈夫か。
何を省いてはいけないのか。
組み合わせを熟知していれば、限りなくシンプルで限りなく小さなものでも最大威力が出せるようになる。
大きな魔法陣をいくつも使う必要はないのだ。
(ここは省いて、ここと繋げて……空いたスペースに麻痺。麻痺と相性がいいのは窒息だけど、生け捕り用魔法陣じゃないから──サービスでリラックス効果でも入れとくか)
あ、でも戦闘中にリラックス効果のある魔法を食らったら嫌かも。
「うーん……空いたスペースはそのまま空けておいていいか。黒炎の温度設定は25℃がいいかな? あ、 上から大量のドライアイス煙が流れ続けるから、換気はしっかりしないと」
私はカルミラに換気について一筆書いて送り、自分の魔法陣を仕上げた。




