魔王城の演出と予算
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「はい。王都のヴェラも独り立ちレベルになりましたし、問題なく魔王組合の方に専念出来ます」
「ここまでくればもうひと息よ」
「はい、ジューン様」
ミシュティの話によると、今日はフレスベルグがアマネも連れてくるらしいけれど。
最近城の同じ年頃の使用人の子たちと仲良くなっているらしく、遊んでフレスベルグを待つらしい。
「今日は死の島にも行くって話だから、靴はヒールのないものね」
「はい。念のためジューン様のお着替えも準備してあります」
私たちは準備万端でカルミラ城の魔王組合サロンへと転移した。
「全員揃ったわね。では最終会議よ」
カルミラが機嫌よく宣言した。
「まずは天候制御ね。勇者たちが到着後、空が暗くなり雷雨になる。雷雨を構築するのはジューン、維持はレスターの魔道具。魔道具を扱うのはベイリウスね」
全員が資料に目を落とし、頷く。
「ゼグは死の島の隣で待機。死の島に近づく輩の排除ね」
「おう」
「ミシュティは手筈通り招待客の案内とお茶の用意」
「はい」
「後は……セレナは到着までが忙しいので担当なし。好きにしていいわ」
会議は珍しく粛々と進行していく。
「で、屍龍なんだけど──アレは気にしなくていい」
「そうだ、屍龍! あれなんなの」
「一匹でも厄介なのに」
「五匹も」
「…………アレはポチの友達よ」
「……」
「……」
「……」
「……やっぱり。絶対ジューンだと思った」
「オーバーキルだぞアレ」
「言い聞かせてあるから大丈夫!」
一瞬間があったが、すぐにまたサロンは騒がしくなった。
「言い聞かせ」
「言い聞かせ?」
「でたらめ過ぎる」
「言うこと聞くの?」
「待て、人間社会ではあのサイズの屍龍一匹で軍が出るんだぞ」
「大人しい子達だから」
「何を根拠にしてるんだよ」
しばらく脱線したが、パヤパヤ頭のカルミラが本筋に引き戻した。
「とりあえずそこは大丈夫──あとは魔王城を黒いモヤで囲い込むのは染色した狂煙木ね。勇者たちが島を探索して、ギミックを発動させて跳ね橋を上げてから火をつけて、城に入るまでの五分間。入ったら消す……」
「短すぎる」
「勇者たちが城を認識した時点から燃やしておくべき」
「狂煙木の枝って意外と高いのよ……」
「白くていいならドライアイスでいいんじゃないの、それなら勇者たちが上陸してから帰るまで行けると思う」
時々水を替えたりする手間はあるけれど。
「ドライアイスの水蒸気だと、着色しても狂煙木みたいな濃い色にはならないわ」
「うーむ。だが五分はあまりにも無理だろ、見せ場が無い」
「予算が厳しいなら、早めに演出で黒い煙は出すとしても──勇者たちが城に入った時点で狂煙木の枝は消す。他はドライアイスで誤魔化す?」
「んー、ドライアイスも城の真上から大量に煙らせれば滝みたくなって見応えはあるはず」
「勇者たちが城に入るまでだからな、派手な方がいいぞ」
レスターが紙に何やら計算式を書いている。
「滝のように流れ落ちる演出をするなら、最低でも一時間で三百キロだな」
「ドライアイスが?」
「うん、ドライアイスが」
「勇者たちは上陸後キーアイテム集めで最短で決戦になるのは十五時間後。アラインが所々で休憩入れさせるだろうから、実際は二日後に決戦予定」
「まあ奴らが森にいたり寝てるときはドライアイスを新たに補充しないとしても十五トンは欲しいとこだな……」
「私はやらない」
先に断っておく。
ドライアイス作りは簡単だが、寒いのだ。
絶対にやりたくない。
「そこをなんとか」
「嫌」
「ミシュティ、どうにかなんないの」
「フレスベルグ様。でしたらアマネ様とそのお友達の子供チームにドライアイス作りを発注されては? 彼らはお小遣い稼ぎがしたいようですし」
「子供チームってなに、あの使用人たちの子たちか」
(子供たちに仕事を与えるのはいい考えね。アマネは重力魔法の適性も高いから、炭酸ガスを液状化させる事ならすぐに覚えそうだ)
流石に子供が一人で炭酸ガスを抽出、液状化、吹き付け、押し固めるという流れ作業は無理だろうが、それぞれの得意分野を担当させれば運用可能なんじゃないかしらね。
「良い案だが、時間が足りない」
「……寒いのは嫌なんだけど」
「よし、吹き付けまでやってくれたら押し固めるのは俺らでやるから──」
「あったかい部屋からほら、手だけ出してくれればいいからさ」
布袋などの目標めがけて液状二酸化炭素を放出すると、雪状になる。
それを圧縮して形を整えたものがドライアイスだ。
私は仕方なく途中工程まで引き受け、隣室が急遽ドライアイス圧縮作業所になった。
私は壁際に空いた穴から、液状二酸化炭素を放出するだけだ。
とりあえず子供たちに踏み固めさせ、時折監督はしつつレスターとフレスベルグが仕上げまでやることになった模様。
ゼグも手を挙げたが、巨人が圧縮したドライアイスは大きいから使いにくいという理由で却下された。
大きめで出来ても、割ればいいだけだと思うんだけれど。
ミシュティが子供たちにと作り始めたココアの香りが鼻をくすぐる。
丁寧に練られてツヤツヤしたココアは間違いなく美味しいはず。
カルミラが簡易テーブルを出し、焼き菓子を乗せて子供たちに振る舞い始めた。
(いろんな意味で頭おかしいけど、カルミラって仕事は出来るのよね……)




