カルミラとラウバッハ
「あ、あらジューン。速かったわね。聞いたわ、あの屍龍ちゃんたちはラウバッハの龍候補なんですって?」
頭にパヤパヤした毛が生えてきて、赤ちゃんの頭のようなカルミラが頬を染めたままそう言った。
話しながらもその身はラウバッハにピタリとくっついている。
どうやらラウバッハはうまいことカルミラを言いくるめてくれたようだ。
(後でお礼しとこ……)
別にカルミラに怒られるのは怖くも何ともないし、なんなら戦っても勝つ自信はある。
だが、カルミラの説教は長いのだ。
避けられるなら避けたほうが絶対いい。
筆談メインのラウバッハは、私に紙切れを手渡した。
「ふうん、半分腐ったあの子がいいのね。確かに大きいし立派な子だものね」
また紙切れが来る。
「あ、鱗が残っててオスだって確信したから?」
厳かにラウバッハが頷いた。
そしてもう一枚。
「なるほど、騎龍に? それならオスの方が楽しいかもね」
雌はおとなしめだから、言うことを聞いてくれる子が多いが雄は永遠の子供龍みたいな性格が多いので移動ではなく騎龍を楽しみたいなら雄の方が楽しいのかもしれない。
半分腐ってる子にどうやって乗るのか、非常に興味がある。
ラウバッハとカルミラが紙切れのやり取りを始め、カルミラが頬を上気させて叫んだ。
「聞いて、ジューン! あの屍龍がもし島に残ってくれたら──彼ったら、私が名前を付けて良いって!」
ラウバッハは頷き、手を上げて退室していった。
「ああ、そう……良かったわね」
「とりあえず屍龍の件は魔王組合の誘致ってことにしておくわ」
「それでお願いします……」
「でも、勇者たちって人間よね。五匹も大丈夫かしら」
「言い聞かせたから大丈夫よ。あ、でもアラインには屍龍イジメないように手紙を書いておくか」
私はそう言ってアラインに一筆書いて転送した。
「じゃあ問題解決ね。いきなり五匹が飛来したから現場スタッフが大騒ぎだったんだけど、危険がないならみんなもう気にしないと思うわ」
「問題は起こしてないんでしょ?」
「ええ、あちこち探検してるだけで誰も噛まれてない」
「衣装出来たけど、どう思う?もうちょっと──お、ジューンじゃん」
ドタバタと部屋の前に来たのはフレスベルグ。
禍々しい真っ黒な甲冑に真っ黒なマント。
「衣装ってか鎧よね」
「細かいこと言うなって。なあ、肩の突起もっとカーブがあったほうがカッコよくね?」
「頭に刺さるでしょ」
「あー……横向いた時ヤバいな。じゃあこれでいいや」
フレスベルグはすぐ納得し、後ろにいたドワーフたちに最終調整のため鎧を脱がされた。
「意外と重いんだよ」
「そりゃそうでしょう、装飾すればするほど重いのよ」
カルミラが呆れたように呟く。
「後で重量制御の付与してあげるわ」
私の言葉にフレスベルグは大喜びした。
「ありがたい!……ついでに蒸れ防止も頼むわ」
「いいわよ」
どこから見ていたのか、私たちの話が一旦落ち着いたタイミングで侍女がお茶のワゴンを押して現れた。
美味しい紅茶を淹れてもらい、寝そべっていたケルベロスに場所をよけてもらってソファーに腰掛ける。
ケルベロスは迷惑そうにのそのそと移動して、フレスベルグに鼻水を飛ばした後、カルミラの足元に横たわった。
「ほんとさぁ……ケルベロスのこの鼻水」
「三方向からってことはやる気でやられてるのよ」
「…………」
フレスベルグがケルベロスにこういう扱いなのはいつものことだ。
カルミラに育てられたフレスベルグは、子供時代をこの城で過ごした。
先住のケルベロスたちにとっては、格下なのだ。
面白いのは先達を見習ってか、若いケルベロスもフレスベルグを格下扱いしているところだ。
仲がいいのは間違いなく、フレスベルグが来れば喜んでいるのだが。
「で、差異なく進んでる? 明日最終会議をおこなうけれど」
「問題ないぞ」
「……もう何もしてないわ」
「ならいいけど」
「最終会議のあと、現地視察をするから時間は空けておいてね」
カルミラはそう言うと妙にそわそわし始めたので、私とフレスベルグは空気を読んでおとなしく帰ることにした。
「ふー、明日は最終調整か。いよいよね」
砂浜に素足で立ったまま私は呟いた。
今回は決戦地到着まで本当に長かった。
半年近く遅れている。
(全部、フレスベルグのせいよ)




