昼飲み最高
「あー、博物館ね。なんか噂はチラッと聞いたわ。あ、お兄さんワインもう一本」
デジュカに住むエルフ、シェイジアはそういう時はくるくると巻いている水色の髪を邪魔そうに後ろにはらった。
「はぁ、昼酒最高」
「なに、ジューンは遊びにデジュカに戻ったの?」
「そうよ。ちょっと休暇を取ろうと思って」
「あなた怠け者なのにいつも忙しそうだもんね」
「失礼な」
テーブルに追加のワインが到着した。
昼間っから飲むお酒は一段と美味しく感じるのは何故だろうか。
「で、博物館に興味があるわけ? 今エルフは入れてもらえないわよ」
「なんで」
「去年だったかなぁ、幼エルフ園の園児が現地見学に行って死傷者を出して」
「あー……」
「エルフは当面、出禁になってるのよー。ま、百年くらいしたら解除されるんじゃないの」
「ふうん。子供は元気だものね」
「結構な騒ぎになったのよ。観光客を巻き込んじゃったから」
「当然加害側はエルフ園児よね」
「そりゃそうよ」
エルフ以外が観光にデジュカに上陸する時に、必ずサインを求められるのが『エルフ免責事項』だ。
エルフが多いこの地で、エルフとトラブルになったら自己責任ですよってやつ。
大体がツアーで来るので、高額な掛け捨てのエルフ被害救済保険に加入必須というから驚きだ。
それでも見に来たいという人が多いのは、デジュカが空を漂う天空大陸だからだろうけど……。
「園児ねえ、園児というとまだ小さいのよね」
「卒園が百歳くらいだったと思う」
人間の幼稚園児くらいかな。
魔法の扱いもよくわかっていないやんちゃな盛りである。
「そもそも見学許可するほうがどうかしてるわね」
私の呟きに、シェイジアは勢いよく頷いた。
「ほんとよー、百歳の子供なんてそこらの魔物より酷いもの。うちの姪っ子なんて一昨日癇癪起こして、爆破事故を起こしたのよ」
「へえ」
「ぬいぐるみの目が取れちゃって、泣き叫んでるうちにドッカーンよ」
エルフの子はこういう事故が多いので、子育て中は魔法で適当な家を作って暮らしているのが一般的。
もちろん集落はあるが、家と家の間には分厚い障壁が必須だ。
ある程度大人になれば都市部に住んだりもするけれど、だいたいは奥地というか僻地で暮らしている。
(転移があるから僻地の方が逆に人気だったりするのよね……)
「……まあ、この大陸ほどエルフに優しいところは無いわ。他の大陸だともっと大事になっちゃう」
「だってエルフの方が先に住んでいたんだもの、人間なんかに構ってられないのが当たり前じゃない?」
「シェイジア、そういうところよ……サランデジュカの総理大臣は人間でしょ」
「確かに! 国交は人間とか獣人のほうが上手よね。何でケンカにならないのかすっごく不思議だわ。あ、お兄さんワインもう一本ね」
シェイジアは陽気に空の瓶を振った。
「あ、そうそう。なんで園児の見学が許されたかって話ね」
「博物館?」
「そう。デジュカのヘソ付近から世にも珍しい魔核が発見されて、展示されてるの」
「……珍しい……魔核」
「デジュカの呪いの魔核ってね」
「呪い? 物騒ねぇ」
「あれ、興味ある感じ? 私は見てないんだけど、こぶし大で紫と赤が入り交じった属性がわからない魔核らしいのよ」
「紫と赤」
「紫の魔核ってアレよね、魔物じゃない。赤は火属性かもだけどさ」
「そうね。属性魔核と違う色は滅多に見ないわね、使い道もなさそうだし」
「うんうん、しかもマーブル模様っておかしいでしょう? だから博物館行きになったんじゃない?」
そう言いながら、シェイジアは顔の周りに落ちてきた巻き毛をどうにかしようと手で撫でつけている。
「ジューンの髪は良いな、サラサラで真っ直ぐで」
「巻き毛も可愛いと思うけど」
「手入れが大変なの。雨の日なんてもっと巻いちゃって縛るしかないのよー」
「短く出来ないわね」
「そうなの。それでね……」
シェイジアとのお喋りは夜まで続き、すっかり酔っていい気分になった私は静かな部屋へと戻った。
温泉に飛び込みたい気分だけれど、この家にはシャワールームしかない。
浴びてからダラダラするか、明日の朝浴びるか。
「…………明日でいいや」
私はソファーに陣取り、朝に読み終わらなかった新聞をのんびり読むことにした。




