子守は疲れる
「決戦当日、ミシュティのお手伝いするんでしょ?」
「うん」
「勝手にフレスベルグを見に行かないこと。ミシュティから離れないこと。これを守るならミニドラゴンキットにちょうどいいのをあげるわよ」
「それだけ?」
「そう、それだけ。でも好奇心を抑えるのは意外と難しいのよ。出来る?」
「出来る」
「約束を守れるなら……私の出番が終わったら、最終決戦になるからその時にこっそり近くで見せてあげる」
「ジューンとならミシュティもいいって言うよね?」
「ちゃんと言っておくわ」
アマネは満足して、食事に戻った。
時折わざと食べ物を床に落としているが、それは足元で待ち構える小さなお友達のためだ。
ミシュティならば見逃さないだろうが、たまにはいいだろう。
あっという間に大量の肉をお腹に収め、アマネは犬たちと海水浴に出かけていった。
海岸はすぐ目の前だからよく見える。
「あら」
アマネがペルルに乗って海の上を走らせている。
ユーニウスは雄馬でちょっと気難しいが、ペルルは優しい雌馬だから仲良くなったのだろう。
(ペガサスはちょっと乗るのにコツがいると思うんだけど……あ、落馬した)
ペルルが慌てた様子で着水し、その首に掴まってアマネも海面から顔を出した。
はじけるような満面の笑顔だ。
「子供は子供らしく……か」
自分はどういう子供だったろうか。
私は前世の自分を思い返した。
長女で、年の離れた兄弟がいたのであまり親から心配されるようなことはしなかったと思う。
勉強は得意だったけど、外見は普通で目立つこともなかった。
あんなふうに自由奔放に遊んだ記憶はない。
親とは円満だったけれど、友達も結婚相手も親が嫌がらないかどうかで選んでいたと思うので、今考えてみると大人が考える『いい子』だった気がする。
(まあ、みんな本心を隠して生きているんだから、悪い人生ではなかったと思うけど)
身体ごと耳を揺らすような咆哮が聞こえ、海辺に目をやるとディーとクリムゾンヘルファイアが吠えている。
魔咆犬が本格的に吠えるのは成体になってから。
子犬でさえこの威力、ガラスが割れちゃいそうだわ。
犬たちは怖くて海に入れず、届かない場所で水遊びしているアマネに怒っているようだ。
「ププッ。毎日毎日泥だらけなのに、海は怖いのね」
外に出て砂浜に向かうと、強い日差しが目に眩しい。
「全くあなたたちときたら、ポチよりうるさいじゃないの」
しばらく遊び回る様子をぼんやりと眺めていると、ミシュティが芋揚げ会から戻ってきた。
「水遊びですか? ペルルまで泳いで……」
「アマネが落馬して海に落ちたのよ」
「!」
ミシュティがすすーっとアマネに近寄り、水を掛け合いながら遊んだあとに戻ってきて報告してきた。
「怪我はないようです。あとポテトフライ塩なし十二トンの用意ができました」
「え、もう?」
「八百人で揚げましたから」
「……ああ、そう……」
「塩振ったのはお土産に持ってきました」
ミシュティがポテトフライの入った紙箱を見せつけると、龍人の子と犬がすごい勢いで戻ってきた。
ミシュティが大きなタオルでアマネを包み、簡易テーブルを出してポテトフライの箱を開けた。
(さっきいっぱい食べてたけど……まだ食べるのかな、食べるのよね)
「美味しいー」
「あとはよろしく」
慣れない子守はミシュティに任せ、ポテトフライの入った時空ボックスを受け取って私は自室に戻った。
(ん? 十二トン?)
頼んだものよりちょっと多い。
ミシュティに限ってこういう間違いはないはず。
「あ」
ポチか。
ポチの分ね、きっと。
やはりミシュティは有能だ。
公式ファンクラブとか毒物研究家に弟子入りとか、かなりおかしなことをやっているが有能なのは間違いない。
「……誘拐されたらどうしよう。どうしてくれようか……」
うん、ミシュティには防御魔法をかけておこう。
バングルはもうあるし、家事の邪魔にならないアクセサリーは……。
(アンクレットね。悪意のあるものが近付いたら冥界に引きずり込むアレ……媒体残ってたかな)
それか、悪いヤツは転送で私の眼の前に出てくるようにするか。
どっちがいいだろうか。
ミシュティに聞いてみないとだわ。
私は手持ちのアンクレットを机に並べ、ミシュティに似合いそうな華奢な金のアンクレットに決めた。
夜にミシュティに聞いたところ、はっきりと断られたが念のため作っておこうと思う。
(いつか必要になるかもだし)




