エルフだけど怖くないよ?
悠々と空を飛ぶポチが向かったのはメア大陸だった。
フェンリルのペロティやラスピが棲む北東とは逆の北西に大きく割れたクレバスがあるのだ。
数キロ続くクレバスには所々ポチが降下できそうな幅があり、ポチは迷うことなく頭から急降下していった。
「急降下するならするって言いなさいよ……」
(死の島と似た雰囲気ね……これは幸先いい感じ)
物質で構築されているのが竜、魔力構築されているのが龍とざっくり分類されている。
長く生きて、何らかの要因で身体組成を物質寄りに持っていった龍が稀に屍龍になるのだ。
ネクロマンサーが使役出来るのもそういう性質の龍だけなので、死んだ龍ならどれでもいけるわけではない。
「で、お友達はどこに……」
「グオオオオオオオォーン」
ポチが吠えた。
振動で氷がバラバラと振ってくる。
しばらくして、数匹の屍龍が嫌そうに近寄ってきた。
少しだけ前足をかがめて寄ってくるところを見ると、ポチの方がえらい立場っぽい。
腐っても古龍と言ったところか。
生きてるけど。
「五匹。全員アルバイトするかしら? 報酬は何がいい? ヤダ、泣かないで。怖くないわよ」
完全に白骨化した子が二匹、龍の姿を保っている子が一匹、ミイラっぽい子が一匹、半分白骨化した子が一匹。
「バラエティ豊かでいいわね」
五匹は体長十メートル、体高五メートルが一番小さくて大きい子は倍くらいある。
全員礼儀正しく伏せをして震えている。
ポチは用事があるのか、のそのそと奥の方に去っていった。
「……五匹は少ないかしらね? でも勇者は人間だし、これくらいにしておくべきか……」
私は前もってメモ書きした募集要項を読み上げた。
「勇者一行を迎え撃つアルバイトね。相手は殺しちゃダメよ。適当に戦って適当に死んだふりして帰っていい。質問はある?」
誰も何も言わないので、質問は無さそうだ。
「じゃあ、次は報酬ね……ねえ、もしかしてポチじゃなくて私が嫌なの? 怖くないわよ本当に!」
とりあえず好みがわからないので、まずは食べ物を色々出してみる。
屍龍たちは遠慮がちに首を伸ばし、あれこれ試食を始めた。
彼らがリラックスしてきたところで一匹ずつ報酬を決めていく。
「みんなポテトフライがいいのね……流行ってるの?」
全員分を賄うには備蓄芋だけでは足りなさそうだ。
芋を入手しなくてはいけない。
「じゃあ仕事終わった後で、ここでポテトフライパーティでいい?」
全員が尻尾を揺らしたので、多分合意している。
それだけでは申し訳ない気がするので、闇属性付与てんこ盛りのギラギラした宝石を配ると全員大事そうにしまい込んだので、死んでいてもギラギラが大好きなようだ。
闇属性の再生魔法なら屍龍の再生も早まるし、彼らから見たら、悪い贈り物ではない。
「もう配置につく?それとも十日後くらいにポチを迎えに出そうか?」
大きい子が十日後がいいという素振りをしたので、戻ってきたポチに十日後の引率を頼み、二番人気だったヴィランテのチーズケーキを全部置いて帰ることにした。
「すんすん……匂いがなかったわね」
服に嫌な匂いはない。
氷の下で生活していたから匂いがなかったのだろうか。
「臭うとしたらあの子だけよね」
半分腐ってる子だけ匂いがきつくなる可能性がある。
他の子は骨だし、乾燥している。
「うーん……ちょっと臭いくらいなら問題ないか」
死の島も寒冷だしね。
「ミシュティ!ミシュティ!」
「はいっ!」
「芋が要る」
「芋」
「ポテトフライが大量に必要」
「何トンくらいですか」
「十トンくらい……? お金はこれを使って──」
「お任せください! 公式ファンクラブでやらせていただきます。三日ほどお時間をいただければ、必ず納品いたします!」
ミシュティは厳かな手つきでティファニーブルーの大きなリボンを取り出し、胸につけた。
「あの、そのリボンって?」
「公式ファンクラブが活動する時に付けるリボンです。このリボンを装備している者の邪魔はしてはいけないルールなのです」
「ああ、そう……」
ミシュティは手早く昼食を私に出したあと、颯爽と魔界へ転移していった。
「うまっ……とりあえず用事は全部済みそうで良かったわね」




