死の島が静かすぎる
「いい本があって良かったわね」
「うん、フレ兄に見せびらかす」
「ああ、幽玄剛蟲ね。きっと悔しがるわね」
「へへへ、でも出すのはフレ兄が暇になったらにしようと思って」
「そうね、そっちはタイミングを見てゆっくりやればいいと思うわ」
ステファニーの本屋はクーンの城下町にあるので、外に出ても寂れているわけではない。
お昼に差し掛かって、周囲の飲食店からいい香りが漂ってきている。
「何か食べていく? それとも帰ってミシュティのパスタを食べる?」
「うーん、いっぱい食べたいからミシュティのパスタ!」
質より量のお年頃だものね、十二歳なら人間だとしても食べ盛り。
ましてや龍人の子なら必要な食事量は跳ね上がる。
私たちは寄り道はしないで、ひよこ島に戻った。
「この前食べたアサリのパスタが美味しかったんだ」
「アサリの時期は終わっちゃったけれど、ミシュティなら時空ボックスに在庫を確保してるはずよ」
「あるといいな」
「そうね」
帰宅後、手を洗った私たちはミシュティにアサリはあるか確認してみた。
思ったとおり沢山あったようで、ランチはアマネのリクエスト通りアサリと春キャベツのパスタとなった。
「私は出掛けるから、要らないわ」
龍人の子をミシュティに任せ、私はもう一度死霊の森へと転移した。
(うん、迷ってる死霊はいない。魔法陣の配置はこれでいい)
死霊たちは仲良く談笑しているし、困っている様子もなかったので森に関してはこれ以上触らないほうがよさそうだ。
外周をグルっと回ってみたが、不具合も見つからなかった。
「万事順調ね」
魔王城の周辺で行われていた工事も終わっているようで、機器の類も全て引き上げられている。
陰惨で実にいい感じである。
「工事後の地面が新しい……植物で覆っておくか」
メア・バインでも植えて攻撃させてもいいけれど、どうせ焼かれるか切られちゃうとわかってて植えるのはちょっと可哀想だ。
おしゃべりこそしないが、メア・バインはこちらの命令や話しかける言葉にちゃんと反応するから、ただ殺されるために植えるのは罪悪感がある。
結局植生は弄くらず、時間加速で元々あったものを茂らせるだけにとどめた。
(頼まれてることはないし、もういいや)
──本当に静かな島だ。
長年死霊しか住んでいなかったこの島は、生と死のあわいに近い存在になっている。
厳密に言えば同じ世界線にあるので、異界のようなズレた位相ではないのだが。
この島で生存していたのは菌やバクテリアくらいで、虫すら居心地が悪くて逃げ出すから動物なども皆無。
こういうものを退廃美というのだろうか。
動いているのは風と死霊だけ。
「決戦地にはもってこいだけど……」
でも、静かすぎる気がする。
出迎えが風と木のざわめきだけというのは風情があるけれど、映えない。
魔王城に乗り込む前に、派手な戦闘があってもいいじゃない?
「そうだわ、屍龍でも誘致しましょ」
ナイスアイデアだと我ながら頷き、私はポチ温泉に沈む可愛い古龍の元へと転移した。
「ポチー、ちょっと来なさい」
上から声をかけると、温泉の底に沈んでいたポチはゆっくりと浮上してきた。
彼はもう冬はとっくに終わったというのに、一向に温泉から出てこない。
まさか、寒がりなんだろうか?
なんだと言いたげなポチ。
惰眠の邪魔をされて若干不機嫌な様子。
「ちょっと知り合いに屍龍とかいない? アルバイト頼みたいんだけど」
ポチは黙ったまま思案し始めた。
龍は喋らないし、コミュニケーションを取るのも難しいがポチは別。
一万年以上のお付き合いだし、私の魔力で孵化した我が子みたいなものだ。
なんとなくコミュニケーションは取れるのだ。
龍同士は何らかの意思疎通方法があるらしいけどね。
知能という点では私たちに引けを取らないので、人語は完璧に理解していると思う。
ただこちらが龍のランゲージを読み取れないだけ。
「んぎぁ」
ポチがバカみたいな声を出し、のそのそと温泉から出てきた。
「心当たりがあるのね? 紹介してくれる?」
わざわざ龍を殺して死霊として禁術蘇生させるより、ベテランの屍龍を雇ったほうが楽だから良い屍龍がいると良いんだけれど。
龍の魔力は莫大だし、それを従えるには大量の媒体が要る。
何より、自分が禁術蘇生させてしまったら永久に私が主人になってしまう。
龍のペットは一匹いれば十分だもの。
(それにずーっと自分の魔力で維持しなきゃいけないし、めんどくさい)
「え、なに?……前払い? あなた私から紹介料を取る気なの」
「ぐぇ」
「…………」
私は時空庫から大量のポテトフライをポチに与え、ジャムの瓶の蓋(限定品)も進呈した。
ポチが満足げに伏せたので、意気揚々と背中に乗った。
「いい子を紹介してよね。有能だったらもう一個瓶の蓋あげるわよ、色違いのやつ」
「んぎぁー」




