ステファニーの本屋さん
「この本屋が一番品揃えがいいのよ」
私の言葉に半信半疑と言った表情で頷くアマネ。
朝ごはんを終え、私のお気に入りの古書店に来たのはいいが、もしかしたら店のチョイスを間違ったかもしれない。
「手を出すなよ。見たい本があったら俺に言え」
店主のグレムリンが、ボロボロのハタキを振り回して叫んだ。
「う、うん……触っちゃダメってことだよね」
「そうね。噛みつく本も多いし、紐で括られてるのは脱走するからだし……呪ってくる本もあるから」
「……」
「ステファニーの言うとおり、見たい本があったらステファニーに言ったほうがいいわよ。うっかり触っても私がいるから大丈夫、安心して選ぶといいわ」
「ステファニーって女の子の名前じゃないの」
「ステファニーは男性よ。あら、でもなんでステファニーなのかしら……ねえ、なんであなたはステファニーなの」
夏を思わせる鮮やかな新緑のグレムリンは、バン!と飛んでいた何かの本をハタキで叩き落とした。
自分と同じサイズの本を片足で踏みつけ、手際よく紐で括る勇姿に思わず見惚れてしまう。
「そりゃあ店主の名前はステファニーと決まってるからだ」
「ああ、そうなのね。アマネ、芸名みたいなものらしいわよ」
「ふうん……ねえ、あの本がめっちゃ悪口言ってくるんだけど」
「なんて言ってるの」
「チビ、バカ、ガキって」
「バカ以外は合ってるじゃないの。でもね、ここで本に舐められると腹立つことばかり言われるから……人差し指に炎を灯せる?」
「得意!」
「指先の炎を見せつけてやりなさい、勝てるから」
アマネが指先に小さな炎を灯す。
色は白、熱々のやつだ。
(出力が安定している……小さい火ほど難しいんだけど、大したものね)
アマネが笑顔で指を振りながら近付くと口の悪い本はすぐに降参し背表紙を上に、開いたまま床に落ちて静かになった。
「触っちゃダメよ。油断して近付くと噛むかもしれない」
噛まれたところで、この子には傷一つつかないだろうけどね。
「開いたまま床に落ちてる」
「それは本の降参ポーズではあるけど、降参するふりだけの悪いやつもいるから」
「じゃあ、どうすれば──」
「俺を呼べ!」
ステファニーが上から降ってきて本を踏みつけ、くくり始めた。
「あいつはお仕置き部屋行きね」
「お仕置き部屋……」
「乾燥室行きだ! 静かにする約束をするまで、店には出さない」
「へえ……」
「あ、黒いカバーが付いているのは禁呪関係だから触らないようにね」
「うん、ねえステファニー。死霊について知りたいんだけど──」
グレムリンは賢そうに顎を片手で押さえた。
「死霊か。喚ぶのか?」
「えっ、呼べるの?」
「そりゃあ本屋だから召喚本も扱ってるからな。坊主のレベルならコレだな!」
意気揚々とグレムリンが抱えてきたのは『はじめてのしりょうしょうかん』だ。
「図解がわかりやすくていいぞ。中古だから媒体のおまけはついてないが」
「へえ、ちょっと見せて……ああ、近くにいる死霊に来てもらってお話を聞く感じなのね」
「三十分経ったら死霊は帰っちゃうけどな!」
「要る?」
「要る」
「じゃあこれは買う。後なんかある?」
グレムリンが目の前に数冊の本を積んだ。
一冊ずつ、タイトルを見ていたアマネの瞳がギラリと光った。
「これ! これ欲しい」
『月刊死霊通信限定版・君もゴーストタイプの魔光剛蟲を呼び出せる!免責指定許可12227』
「お前、いいもんに目をつけたなぁ……これは昨日借金のカタに分捕ってきた希少本だ。マニア垂涎の幻の限定版だぞ」
「なあに、ああ、この琥珀のなかに剛蟲が……?」
「死霊とはちと違うが、半分幽体の幽玄剛蟲が入ってるからな」
「欲しい」
「白金貨四枚」
「高っ! 雑誌なのに」
「プレミア価格だからな」
「まあいいわ、本にはケチらない主義なの」
アマネはこの他にもう一冊、生き物図鑑を希望したので分厚い図鑑も買った。
「たまに本物が出てくるから、読むときは大人と外だぞ」
「わかった!」
「また来いよ、割引券とスタンプカードをやろう。今日は三冊だから三つな!」
「うん!」
アマネとステファニーは固い握手を交わし、我儘な本の叩きのめし方をレクチャーされている。
私はその間、欲しい本がないか店内をウロウロすることに。
(やはり店のチョイスは間違ってなかったわね!)




