エルフです
「ねえ、どうしてそこで寝ようと思ったの」
柔らかい地面ではなく、断面の鋭い砂利の上に横たわるフレスベルグ。
私を視認して片手を上げたところを見ると、生きてはいるようだ。
私はさらに近寄り、同じ質問を繰り返した。
「なんでわざわざ石の上で寝てるの?」
二十センチ、ズレれば腐葉土の地面なのに。
「あー……ちょっと休憩っていうか……」
「????」
「磁場まで弄る魔法陣ばら撒いたら、もう勇者が森から出てこれないだろ」
「えっ」
「えっ、じゃないぞ。磁場乱しは撮影班が最新機器が壊れるから辞めてほしいと苦情が入ってさぁ。たまたまその場にいた俺が魔法陣壊しに来たんだけど」
フレスベルグはそう言いながら身を起こし立ち上がった。
「数が多すぎて俺まで迷ったし!」
「…………」
磁場を乱すオプションをつけたのは、カレーニアという感覚の優れた魔法使いが先方にいるからなのだが。
少しばかり、効果が強く数も多かったようだ。
「しかも魔法陣壊したら爆発するとか、あんた鬼か?」
「エルフよ」
フレスベルグはなんだか機嫌が悪そうだ。
「とにかく、これじゃ勇者が森から出てこれないだろ」
「お腹空いてるの? ミシュティが唐揚げ作ってるけれど、どうする?」
「とにかくもうちょい数を減ら──唐揚げ?」
「唐揚げ。アマネはひよこ島で保護してる」
「おおー、まあいいや。とりあえず唐揚げ食べに行くわ」
「その前に風呂に入ってもらうわよ、汚すぎる」
アマネとフレスベルグは龍因子のせいなのか、五十℃ほどの湯加減を好む。
アマネがこっちに来た事件の後、作った露天風呂だ。
私の風呂に入れるのはなんとなく嫌だったし、温度も彼らにはぬるいので屋敷の裏手──つまり北側に、数人で入っても余裕があるものを作った。
ここの湯はポチ温泉と同じ湯元だが、距離があるのでフレスベルグとアマネにちょうどいい温度になっている。
目隠しや洗い場などは特になく、風呂のそばの岩の上に木桶と石鹸があるだけなのだがフレスベルグもアマネもそれで良いようだ。
それぞれ腰掛ける用の気に入った石を設置して、カスタマイズしている様子。
丸見えだけど気にしちゃいないようだ。
「……で、なんで迷子になっていたの」
「冷えたラガーが染みるなぁ……なんでってあんな物騒なもんばら撒いといて聞く?」
「方向感覚を狂わせるだけで、物騒じゃないわ」
「まず数が多いし、撤去したら爆発とかないわー。あと、魔導具が誤操作起こすほど磁場がおかしいのホントやめて」
「だって、ただ方向感覚狂うのはおかしいじゃないの」
私は、何故そうしたのか説明し始めた。
魔法陣の近くで方向感覚が狂って混乱しても、立ち止まり周囲を見渡せば、自分がどこをどう来たのかわかる。
幻覚を見せているわけではないので、自分の位置はわかるわけだ。
「それじゃつまんないから、地面なのか空中なのか混乱するよう、三半規管に働きかける魔法を魔法陣第二層中央付近に隠し文字で仕込んで──」
「それ、そのせいで俺は飛行中に地面に激突したんだぞ」
「あ、だから変なとこにねてたのね」
「とにかくあの魔法陣は邪悪すぎるから、もうちょい勇者フレンドリーな迷いの森つくりを目指してくれ」
「わかったわ」
「フレ兄! 唐揚げ出来てるよー」
「おわ、っと、アマネか。心配かけたなー」
子犬のように飛び掛ってきたアマネを軽々と受け止めるー、ラガーを飲み干したフレスベルグは弟分を肩車してダイニングへと去っていった。
(そんなに文句言われるほど劣悪な魔法陣じゃないのに。魔力の流れも完璧だし、見た目も美しい。隠し効果だって見えないようきれいに仕込んであるのに……)
全く、納得はいかないが今季の魔王はフレスベルグがやるのだ。
一応意向通りにしようと思う。
私はそのまま死霊の島にいって、魔法陣を撤去して新しい勇者フレンドリーな惑いの魔法陣を適正間隔で敷いていった。
方向感覚を狂わせる物は却下で、設置したのは軽い幻惑と錯覚を起こす惑いの魔法陣だけ。
なんだかすぐ突破されそうで、納得いかないけれど。
(絶対最初の魔法陣のほうがいい仕事すると思うんだけどな……)




