頼まれごと
「死霊の森中を探索しないと、城門を開けるギミックが発動しないようになってるのはわかるな?」
死の島の海辺に脚を投げ出して座っているゼグがそう言った。
島は狭い範囲に砂浜はあるが、大部分は水深五メートル以上ある。
死の島の土木関係を統括しているゼグは巨人族なので、海に入っても腰までだから移動はザブザブと海を歩いている。
「ヒントの紙切れと鍵でしょ? 会議で聞いたわ」
「適当に隠してきて欲しいんだよ。俺が森に入ったら悲劇だろ」
「確かに木々はなぎ倒されちゃうわね」
巨人族だから、そこは仕方ない。
「入れない場所は頼むしかないからなぁ。隠し場所は頭の良いジューンに任せる」
「頭がいいかどうかは別として、いま丁度手も空いてるしいいわよ」
海を割るように立ち去ったゼグを見送り、私は渡された数枚の紙切れと大きめの鍵を子細にあらためた。
(一枚目は大まかなヒントか)
死の島、魔王城は毒水の堀に囲まれており中にはいるには跳ね橋を動かさなくてはならない。
色々ゼグが頑張ったおかげで、抜け道は封鎖されているので跳ね橋一択である。
跳ね橋を動かすには七桁の数字と正しい重さの水を三つの水がめにそれぞれ注がなくてはいけない。
城門まで辿り着いたら、森で拾う予定の大外門脇の通用口の鍵で侵入し城の前にいる門番と戦闘になる予定だ。
「……新しい紙じゃ風情がないわ」
紙は何回か折りたたみ、時間加速でボロボロに。
鍵はいい感じに錆びさせておこう。
「勇者の最後のキャンプ地から跳ね橋。跳ね橋がおりないのを確認したあと周囲を探索となると……死霊の森でまず目線が行くのはこの獣道か」
獣道を進み、しばらく立つと自然に道は消え鬱々とした暗い森に取り囲まれる。
一度足を止めそうなこの付近に、端だけ破いたヒントの紙片を落とす。
もちろん切れ端なので文字の部分はないけれど、この森に紙が落ちているのはおかしい。
ヒントがあるのでは、と気付かせるための親切である。
ちぎった紙の本文の方は適当に目についた木の洞に押し込み、植物を軽く成長させて中途半端に隠しておこう。
(死霊しかいないのに、なんで獣道があるのかしら。昔は普通の森だったのかな……)
文字通り虫さえいない死霊の森には死霊の類いしかいないので、自分の足音と風の音、それに揺らされる木々の音しかしない。
「あ、お邪魔してますー」
声をかけると、目の前をスケルトンのレイスがお辞儀をして通り抜けていく。
死霊はいっぱいいるんだけどな。
動物はいないようだ。
すれ違う死霊と挨拶を交わしながら、私は次々とヒント物品を隠していった。
(んー、鍵はどうしようかな)
小さいので、見つけやすいよう小瓶に入れてみたがそれだけじゃ芸がないので栓を抜いた瞬間に死なない程度の毒ガスが出るようにしておこう。
彼らにはアラインも付いてるから大丈夫だろう。
「あ、そうだわ」
昔勝手に木を切ってラウバッハに怒られたあたりに、きれいな泉があったはず。
そこに小瓶を沈めれば良いんじゃないかな。
私は自分の思いつきに満足し、更に死霊の森の奥深くへと足を向けた。
「あったあった」
念のため、泉をのぞき込む。
想定通り、何もない。
この澄み切った泉には生命がないので、当然微生物すらいない。
そうなるとそれを餌にする魚も棲息できない。
毒でもなんでもなく、ただの水。
この美しさは無機質に近く、静かに小瓶を飲み込んでいった。
底に沈んだ瓶もよく見える。
周囲に方向感覚を狂わせる魔方陣と霧魔方陣を敷き、濃霧を噴出させて完成だ。
「いいんじゃないかしら」
隠し場所も一応メモを取ったし、頼まれた仕事以上にきちんとやったと思う。
気分が乗ったので、森中に方向感覚を狂わせる魔方陣をランダムに撒き散らして私は帰宅した。
「いい仕事のあとは温泉。……これぞスローライフよねえ」
私しか入らないのに大浴場を作ってもらったので、広々としていて気分がいい。
乳白色のお湯は細かい気泡を含んでいて、僅かなとろみがある。
(無臭なのがいいのよねえ、泉質が)
ポチ温泉とは湯本が違うので、あっちは透き通っている。
あのポチ温泉は違う意味で生物が棲めない水場になっている。
一年中古龍が沈んでいるし、ほぼ熱湯だしね。




