何もしない日
レスターを龍島に送っていったあと、私はすぐに戻ってのんびり過ごすことに決めた。
時折、しつこくボールを持ってくる犬にボールを投げてやるくらいしかしない。
「またなの?……仕方ないわねえ」
アマネが持ってきたピーピーと音の鳴るボールをいたく気に入ったディーは、何度も投げてとやって来る。
「ただの犬よねぇ、あなたって」
フガフガとボールを仕留めている小さな犬を見て、私は笑い出した。
(うーん、一匹では可哀想かしら。遊び相手がいないものねぇ……)
どこかに犬が落ちてたら一匹くらい拾ってきてもいいかもしれない。
それにしても、レスターが競龍好きとはね。
長い付き合いだけど、知らないことがいっぱいなのは面白いけれど。
「ふむ……アーモンドゲイズの価値は見た目の美しさだけではなく、血統にあると」
アーモンドゲイズの欄をじっくり読み終え、龍について考える。
一万年以上生きる龍は全体の二割程度だという推論があるが、それは合っていると思う。
よく見かける龍は三千年位が寿命だから。
同じ種族でも差が大きいので純粋に個体差だと断言してもいいと思う。
人間だって同じ条件で生活していても、寿命に差があるものね。
アーモンドゲイズは正確に出生日がわかっているので、今年の夏で二千と二百一歳。
龍としては中盤の寿命だが、長命タイプだった場合まだまだ若い。
年を取ると産卵はしなくなるから、まだ産卵可能だということは長命タイプの可能性が濃厚。
しかも周期が遅い。
初めての産卵は九百歳、二回目は千五百歳と書いてあった。
「完全に長命種のサイクルよねぇ……」
外から野菜を抱えて入ってきたミシュティが、立ち止まり不思議そうな顔をしている。
「龍に関しては私はバルフィの受け売りで、詳しくないのですが……」
「うん?」
「龍の雌雄ってどう見分けるんでしょうか。大きさは大差ないですし、竜のように外部に生殖器が見えるわけでもないですよね」
「ああ、そうね。確かに竜は見たら分かるものね。龍の場合は鱗の流れで見るのよ」
「鱗の」
「そう。オスは側面……脇腹の鱗が横向きで尾に流れるように生えているけれど、メスは下向きに流れてる」
「向きは気にしたことなかったです」
「個体によっては多少斜めだったりするけれど、だいたいは側面の鱗の先端の向きでわかるのよ」
「オスは尾、メスは下を向いているのですね。アーモンドゲイズちゃんが来たら、見てみます」
「いつ来るの?」
「アーモンドゲイズちゃんがいる龍舎はヴィランテにあるので、明後日バルフィが直接騎乗してこっちに来るらしいです」
「思ったより早いのね」
「はい。ジューン様のおかげで満額決済になったので、引き渡しが早まったみたいです。お手とか伏せができるらしくて楽しみです」
「ポチより賢そうじゃないの……」
ポチは絶対わかってるくせにやらないもの。
本気で叱ったらすぐお腹見せてくるけれど。
「荷物は別便で来るそうです」
「荷物?」
「引き渡し時に、アーモンドゲイズちゃんが自分の宝物を自分で収納してくれれば発生しませんが」
「ああ、宝物……」
「持っていかなかった場合、先方から発送されるそうです」
ポチはジャムの瓶の蓋を集めているが、アーモンドゲイズはなににご執心なのだろう。
匂わないものだとありがたいのだけど。
「バルフィは私がヴィランテまで送っていきます」
「あ、そうなの? じゃあ帰りにフィアン神皇国に寄ってきてくれる? 教会の総本山がある城下町に美味しいチーズケーキの店があるの。注文しておくから、ついでに受け取ってほしい」
「かしこまりました」
私は店の名前を書いたメモをミシュティに手渡し、ソファーに身を沈めた。
野菜を抱え直したミシュティは厨房へ向かい、いつものようにその後を犬と蛇が追っていった。
「んん?」
私は去っていくソフィーちゃんの後ろ姿を見て違和感を覚えた。
「なんか形が変わったわね……?」
後をついて行ってつまみ上げ、手のひらに乗せてじっくり見ると、体の大きさは変わらないが背中部分に小さな翼が生えている。
「…………蛇、よね?」
鑑定は相変わらず文字化けで読み取れない。
ソフィーは身を捩り、ふわりと掌から床へと逃げていった。
野菜の切れ端が大好きだから、捕まったのが嫌だったのだろう。
(今までは身体を伝って移動していたけれど、今飛び降りたわね……)
やはり、蛇ではないのかもしれない。




