アーモンドゲイズ
「龍舎ですか? 龍島に作るって先月バルフィから報告があったと思います」
ミシュティがブドウの皮を剥きながら、小皿に盛っていく。
もちろんそのブドウは私が食べるのだ。
「……言われてみたら赤ちゃん龍に才能ありそうな子がいるから育てたいって言ってたわね」
「それです、その時に龍舎を作っていいかって」
「…………」
良いって言った覚えがある。
やっぱり私の龍舎ってことになるのだろうか?
「世話役として来月引退レース龍が来るみたいですよ」
「へえ」
「競龍史上、最強女王と言われるアーモンドゲイズちゃんが来るってバルフィが言ってました」
「最強女王」
「二百三十ほどレースに出て二百勝あげてるそうです。特に四百歳以上の牝龍レースでは負け無しで」
「へえ〜」
「飛行種には珍しい土属性なんですがとにかく速くて、最後の直線航路では他の追随を許さないと言われてたようですよ。暴風のバルフィの受け売りですけれど」
「なるほど……そんなすごい子が龍島に」
「そうなんです! 素晴らしく美しい子なんですよ。満場一致で購入が決まりました」
「そ、そう……」
「もう引退してますし、権利については龍島スタッフ全員の貯金と分割払いで間に合ったようです」
「は? 買ったの?」
「はい。他のオーナーの持ち龍ですので。ですが優しくてお世話好きなので、買う価値はあるって言ってました。もちろん私も出資しました!」
(……私の龍舎なら、私が出すべき? 出すべきよね?)
「ちなみにお幾らで?」
「かなり負けていただいて、フィアン宝貨十一枚らしいです。引退といってもまだ産卵出来る龍ですから」
(引退龍に十一億位払ったってことよね?)
「…………」
好意で来てくれているスタッフが借金まみれなのは困る。
私は無言でフィアン宝貨を十一枚、テーブルに出した。
「これは……」
「アーモンドゲイズは私が買う。その後は任せる」
ミシュティはハンカチで宝貨を包み、龍島へと転移していった。
私はかなり前にバルフィが置いていった名龍図鑑を開いてみた。
(アーモンドゲイズの全盛期は千五百年前。異名は暴風の女王……!?)
なんだか聞いたことがある響きだ。
載っている絵姿は、焦げ茶色の綺麗なボディにティファニーブルーの瞳。
概要を読み進めると『その瞳の類稀な美しさから、現役時代は競龍界の暴虐の女王と称されていた』とある。
「…………」
実質、ミシュティたちの趣味龍なのでは?
ここは余計なことは言わず、黙ってお金だけ出しておいたほうが良さそうである。
「このキレッキレの末脚、ってどういう意味なのかしら。バルフィに聞いてみないと」
数日後、レスターが競龍新聞を片手に現れた。
「龍主になったんだって?」
「は?」
バサリとテーブルに投げ出されたドラゴンニュース・龍、競龍新聞、週刊魔競。
どれもアーモンドゲイズが私に買われたという記事だった。
帰るべき場所に帰った女王
まさに吹き荒れる嵐の予感
ファンが夢見た奇跡のタッグ
あの最強が、もう一人の最強に──
(なんだかとてもセンセーショナルねぇ)
「龍主って現役で飛ぶこの持ち主でしょ? アーモンドゲイズは引退龍よ」
「ジューン、あんまり競龍詳しくないのか?」
「大きいレースをたまにミシュティと見るくらいよ」
「アーモンドゲイズはな、伝説だぞ」
「…………」
「見た目こそ普通の龍と大差ないが、内包魔力からして古龍の血を薄く引いてそうなんだよな」
「古龍は出走できないって前にバルフィに言われたけど?」
「基礎能力が違いすぎてダメに決まってるだろ、アーモンドゲイズは四代前の親まで遡れるが、それ以前に古龍がいたと俺は見ている」
(この人、競龍すきだったのね。知らなかったわ)
「アーモンドゲイズが龍島に来たら、見せてあげるわよ……でもなんでレース新聞のあちこちに私が載っているの?」
「そりゃアーモンドゲイズはドラゴン界の暴虐の女王って言われてたからだな」
「完全に私、巻き添えじゃないの」
「暴虐の女王が暴虐の女王を買ったとなれば業界は黙っちゃいられないだろ、しかもジョッキーに神速バルフィを抱えた龍舎設立と来たら──」
「わかった、わかったから。今すぐ龍島に連れて行くからそっちで語ってちょうだい」




