王都では……
「で、どうなの? ホムンクルスの方は」
まばゆいばかりに輝く、手入れの行き届いた金髪の鬘をちょっと直しながらアマンダが野太い声で尋ねてきた。
「順調よ。予定通り二年以内に納品出来るから安心して」
「ならいいわ」
今日はアマンダの店地下にある隠れ家に、進捗の報告に来ている。
進捗もなにも、まだ素材培養中なので何も進んでないんだけど。
「セシリアの礼儀教育開始はもうちょっと待ってて。私も教育係のメイドもあと三ヶ月位手が空かなくて」
「間に合えばいいわ」
「それは大丈夫。うちのメイドは教育になったら厳しいから」
私とミシュティは勇者と魔王の最終決戦があるので、事後処理抜きでも忙しい。
長く見積もって三ヶ月は動けないと思っておくべきだから、提示期間は長い方の予想時期にした。
「そろそろ貴族から制裁が来そうで怖いのよね。最近距離を置いているとはいえ、王太子や側近たちが相変わらずセシリアを追い回すもんだから」
「いっそのこと、卒業まで王太子婚約者のアルエット公爵令嬢に庇護を求めたら?」
「ああ。でもほらアタシたちってワケありじゃなーい? 情報開示出来ないことが多いから、それは難しいかなって」
私はなるほど、と頷いた。
よく考えてみたらギリギリまで貴族の皆様の不興を買っておいて、追放されないとセシリアに自由はないと言っていい。
更に追放先でどこかの貴族に処分される想定で、セシリアの身代わりになる高額なホムンクルスを作っているんだもの。
「卒業まで命があればいいけど。あ、ホムンクルスの返品は受け付けないわよ」
「わかってる。セシリアには、こっそり護衛を付けてるけれど……そこそこ狙われてて監視もされてるみたい。アタシも中々会えないのよ」
「ふうん。まあ、あからさまな暗殺はないと思うわ。だって今セシリアに何かあったら、絶対男の子たちの婚約者とその家が疑われちゃうもの」
「それを装って反王政派が撹乱目的でセシリア暗殺を企てても不思議じゃないしね」
アマンダはそう言って、耳につけた大きなアメシストを煌めかせて大きなため息をついた。
(確かにピンク髪ヒロイン系のストーリーって政治的に非常に危ない展開が多いものねぇ……)
貴族の愛人ならまだしも、配偶者となると家同士の取り決めが優先されるのが常識なのに次から次へと嫡子を籠絡していくのだもの。
(でも……ピンク髪ってなんで低位貴族の庶子とか養子ばっかりなのかしら)
「……まあいいわ、何かあったらまた連絡する」
「そうね、じゃあ帰るからセシリアへの伝達はよろしく」
そう言って、私は王都の家へと転移したあと外に出て周囲を見て回った。
道路を二本越えれば繁華街だ。
この住宅街から離れれば離れただけスラムが近くなるので、場末の飲み屋が多くなっていく。
ここから近い場所は高級な飲食店が多い。
さっきまでいた場所もそのあたりにある。
(高級な娼館は表向きは高級なバーとして営業してるのよね。アマンダの持っている娼館も、外から見たら全くわからないもの)
高級な飲食店から少し離れたところに、日本から転移してきたマサオが営む転移ラメン屋がある。
ある、のだが──。
「…………」
転移ラメン屋の周囲に、お互い距離は開いているものの五人の高魔力保持者が張っている。
(ラメン屋を見張ってる……?)
人間に扮してはいるが、明らかに魔界に多い長命種の方々だ。
一番近くにいた者が私に気が付き会釈したので近づいて何をしているのか、尋ねることにした。
「交代で見ているんですよ」
「それは見たらわかるけど、なんで?」
「店員の女の子をつけ回す輩がいまして」
「へえ……」
「陰ながら出勤と退勤を見守ってるんです」
なるほど。
この人たちは魔界の転生日本人紳士倶楽部だったか、そういう名前のコミュニティメンバーで転移ラメン屋のスポンサーだったはず。
従業員の平和まで守っているのか……。
レスターとフレスベルグもメンバーだから、この監視業務に参加してるのだろうか。
「五人は……オーバーキルじゃない?」
「あ、あの四人は。三人はラメンを食べに来てて、もう一人は交代要員です」
「なるほど、原則一名で監視してると」
なるほど、なるほど。
どんだけラーメン好きなのかしら、この方々。




