謎は深まるばかり
勇者たち一行は先の襲撃で奴隷美少女の双子を失った勇者が中々気持ちを切り替えられずにいるようだ。
まだヴィランテの港町に滞留している様子。
私はカルミラ城に行って、客人として過ごしている決戦地の主、ラウバッハに会いに行った。
(最終戦闘場所は謁見の間。不壊魔法を掛けてもいいか聞いてみなくちゃ)
何しろ不壊は壊れないのが前提なので、かけてしまったらもとに戻すのが厄介なのだ。
なので、不壊魔法が残ったままでもいいか聞いておかないといけない。
通りがかったメイドにラウバッハの部屋を聞いて、先触れを出した。
来訪を受け入れるという返事を持ってきたメイドに案内され、客室へと向かう。
カルミラ城は元々仄暗いのだけれど、ラウバッハの部屋はいっそう暗かった。
死の島にあるラウバッハ城もかなり暗かったので、ラウバッハの好みなのだろう。
(え、かつら?)
リッチの外見はミイラに近く、前に会ったときは髪はまばらだったのだが。
(髪!)
今のラウバッハは紺色と群青の間を揺らめく、艷やかなロングヘア。
(色がゆっくり揺らめく……幻魔族のはもっとチカチカ変わるし、ハッキリ色変わりがわかるけどこの特徴は──)
幻魔族の血が少し入っている吸血鬼のものだ。
「え、カルミラの髪じゃないの」
カルミラがスキンヘッドだった理由が、ラウバッハの鬘だったとは。
全く思いもよらなかったわ。
ラウバッハと筆談で交渉を行い、不壊魔法の許可を取り付けたあと。
私は足早にカルミラの私室へ向かって、理由を追及することにした。
「そうなの。彼、私の髪が美しいって」
カルミラが頬を染めて俯いた。
「……だから進呈した?」
「そうなの。うふふ、彼ったら髪がなくても可愛いって言うのよ」
「!? それって、つまり──」
「まだみんなには内緒よ? 私たち、お付き合いを始めたの」
「ブハッ……失礼、ちょっとむせたわ。おめでとう」
「ありがとう」
「そうか、その頭は愛の証なのね……」
カルミラはますます頬を赤くして身をよじった。
(ええー……)
カルミラがラウバッハとの晩餐のために着るドレスとアクセサリーを一緒に選んだあと、私は挨拶をして死の島の謁見の間へ向かった。
(意外すぎて、変な声出ちゃったわ)
悪い話でもないし、いいとは思うけれども。
「んじゃ不壊魔法をば……」
謁見の間床に、私の魔力が這うように進んでいく。
魔力は視認できる人とできない人がいるが、高魔力の者はほぼ視認できると言っていい。
見え方は様々で、光の明暗で見えている人もいれば波のように見えている人もいる。
私の場合は色付きで流れそのものが見えているので、今見えている自分の魔力は青みがかった緑だ。
日常生活には些か邪魔なので、普段は遮断しているけれどね。
視認は目に魔力が乗るかどうかで決まるので、体質的に出来ない場合も多い。
眼球は繊細な器官なので、鼻や耳を強化するより難易度が高いのだ。
ミシュティはイメージ的にはピンクとか優しい色かと思いきや、彼女の魔力は鮮烈な赤。
ピンクと言えばレスターの魔力は桜色だから、見た目と魔力の色は一致しない気がする。
「フレスベルグ側は不壊処置で良いけれど、勇者側は……壊れたほうがいいのよね?」
私は側で作業していた現場スタッフに聞いてみた。
「そうッスね! やっぱ派手に崩れたほうがいいかと」
ここ掘れ組の腕章をつけたコボルトが、勢いよく返事をした。
ということは、撮影スタッフではなく土木方面。
撮影スタッフにも聞いてみよう。
「あ、ジューン様! ご要件は──ああ、床の」
「そうなの。フレスベルグの立ち位置付近は不壊魔法掛けてきたけれども」
「ふむ、勇者の立ち位置は入り口側ですから……逆にそのあたりを、ところどころ脆くしようかと思ってるんですよ」
「あ、そうなの? じゃあ私はもうやること無さそうね」
ウロウロしたら邪魔になりそうなので、私はそのまま自分の家に戻った。
ミシュティからマッサージを受けてウトウトつつ、アレコレ考えを巡らせる。
勇者たちよりカルミラとラウバッハがどういう経緯で意気投合したのかが気になる。
カルミラはすごい面食いなのに、ミイラっぽいリッチに恋してるとはいったい……?
ミイラといっても元々はエルフだから良いのだろうか?
「謎は深まるばかりよ」




