打ち合わせ②
翌朝。
昼前に到着したフレスベルグとアマネは、レスターが来る午後までやりたいことがあるらしい。
東側のポチ温泉から西の作業所の間に、金蛇の実という植物が植えてある。
大きくなるが、草の一種で赤い小花が咲いたあとに小さな金色の実をつける。
ソフィーちゃんとマカロンちゃんの大好物で、成るたびに嬉しそうに足を運ぶので魔法でちょっとだけ生育サイクルを早めてある。
フレスベルグとアマネが欲しいのも、その草の実。
金色の薄皮が目当てだ。
コレを集めて煮詰めると、アマネがこれからチャレンジするホムンクルスキットに使える。
ミニドラゴンのホムンクルスを金色にするための染料になるのだ。
ミシュティに渡された木籠に集めてきて、今はリビングで真剣に薄皮を集めて溶液に落としている。
皮を剝かれた実は、実が欲しくてアマネから離れないソフィーちゃんのお口に入っている。
「地味な作業だなぁ」
フレスベルグがブツブツ文句を言っている。
魔法で剥くことも出来るが、まずは自分で剥いてみるのが大事。
難なく剥けるようになったら、剥くための風魔法を教えてあげる……と言ったらアマネは真剣に取り組んでいる。
フレスベルグより真面目なくらいだ。
「ディーは要らないみたい」
アマネがそう言って、ディーが咥えたものの捨てた実を拾ってソフィーちゃんの口に放り込んだ。
「犬はあんまり食べないかもね」
瓶の中の溶液はだんだんと金色に染まっていく。
好きな色になったら終了だ。
アマネが納得する濃い金色になった頃、レスターが小さな魔突猪を片手に現れた。
「もう血抜きしてあって、腹に野菜を詰めてあるから焼くだけだ」
ミシュティがいそいそと魔突猪を受け取り、厨房へ向かうとアマネとディーがソワソワしてついていった。
ソフィーちゃんは残った実を食べるために木籠から離れない。
「へえ、魔突猪か。あれ美味いよなー」
「だろ? つまみにいいと思って」
「それはいいけれど、どう変化するか決めましょうよ」
私の言葉を聞いたフレスベルグは数枚の紙を取り出して、広げた。
「ほう。うまく描けてるな、俺のはこうか」
「お、いい感じ。もうちょい紫っぽい黒がいい」
「こうか?」
レスターが禍々しい鎧、黒い大きな翼四枚の姿に変じる。
私の担当する二回目は翼が三枚もげている姿だ。
「…………」
「…………」
「な、なによ」
「小さい」
「……小さいな」
「大きさは変えられないから、どうしよう」
変化はどんな姿でも再現出来るが、身体を作り変えるわけではない。
見せたい部分を魔力で構築するわけだから、ある程度までならサイズも寄せられるけれど。
レスターとフレスベルグは骨太で長身だが、私は人間の女性と大差ない身長しかない。
体格差がありすぎるので、事前にサイズも合わせておかないと違和感が拭えなくなる。
「対象が一人なら大きさも誤認させられるけど」
「勇者パーティ、招待客を入れたら数百人規模だから──」
「うーん……じゃあ、もうちょっと大きくしてモヤを纏ってみるわ」
私はどす黒いモヤを周囲に漂わせてみた。
「うわ、凶悪そう」
「いいなそれ」
レスターとフレスベルグが納得したところで、フレスベルグと交代する時は閃光を発して目眩ましでと決まった。
「じゃあ、閃光を発する前に最後の翼をこうやってもいで……」
私はスケッチの空きスペースにもげた姿を描き入れた。
「…………」
「…………」
「なによ」
「ジューン……下手過ぎん?」
「ブフッ、本当に下手くそだな」
「なによ! 失礼ねっ」
「魔法陣はあんなに美しく描くのに……」
「絡まった糸くずにしか見えないぞ、それ」
「なによ!」
確かに上手ではないかもしれないけれど、ちゃんとわかるように書いたのに。
「この黒いグルグルが翼のつもりか……」
「字も綺麗なのに絵心は無いんだな……」
スパイスと肉の焼けた香ばしい香りが漂ってきた。
「お、そろそろ焼けたか。見ろ、フレスベルグ。これローランの凍酒だぞ」
「飲みたい」
「美味いぞ」
二人は足取りも軽やかに、隣のダイニングルームに消えていった。
私は納得いかないまま、スケッチを見返した。
(ちゃんと書いたのに……)




