打ち合わせ①
「まあ、大丈夫だろ。フレスベルグは基本範囲魔法で撹乱すればいい」
「そうね、相手の攻撃は受け流す感じで──」
「あー、俺たちが勇者側に防御結界張ってるときは最大威力で戦ってもいいが……」
「合図がないとわかんないでしょ、アナウンスするわけにもいかないし」
カルミラがスクリーンの一箇所を棒で指し示した。
「これ、決戦地の俯瞰した図なんだけど勇者後方、斜め右・上側の第八カメラが」
「ああ、そこか」
「勇者たちからは確実に死角だけど、フレスベルグからはよく見える位置にあるのよ、第八カメラは」
「うんうん」
「ここを光らせるとか、わかりやすくて見落としにくい合図を置く」
「勇者が絶対的防御下にある時の合図だよな?」
「そう、フレスベルグが加減しなくてもいい時のね」
フレスベルグが経験を積んでもっと魔力操作が上手になれば、全く問題はないのだが。
(若い魔王だからそこは仕方ない。あとはやらかさないよう、事前に決めておく作戦ね)
「後でフレスベルグとネモで立ち位置と合図の練習しておいて。他は何かある? 無ければ終わるわよー」
特に発言はなかったので、会議は一旦終了となり雑談が始まった。
ミシュティは城のメイド頭と、招待客に出すワインを選びにセラーへと向かうようだ。
ゼグとベイリウスとティティは帰宅し、フレスベルグとネモは決戦地で現地スタッフとの打ち合わせをしに出て行った。
「ローランに今から行くけど、ジューンはどうする?」
レスターが聞いてきたので、行かないと返事をした。
そのタイミングでカルミラが夕食をとっていかないかと尋ねてきた。
(美味しくないものは食べたくないのよ……)
丁重に断って、久しぶりに辺境の家へと転移した。
島だとペットで気が散る──ちょっと一人きりで、
考えをまとめたいのだ。
「…………」
室内は静かで、外の森が風を受けてざわざわしている。
私は小さなリビングのソファーに座り、自分の予定を書き出した。
フレスベルグと魔王決戦の打ち合わせ、リハーサル。
レスターも同様に打ち合わせが必要。
(あと、なんかあったっけ?)
魔王界隈に無関係な部分で持っている用事は、古代ホムンクルス作成くらいだ。
他は日々の雑用があるだけなのでスケジュールとしてはそんなに忙しいわけじゃない。
(当面は魔王組合の用事が最優先、かなぁ)
他の用事は勇者帰還まで入れないようにしておこう。
「さて、じゃあ明日にでもレスターとフレスベルグと三人で打ち合わせね」
ミシュティの気配がして、部屋の空気が滲むように揺れたあとでその姿が現れた。
転移という魔法は非常に便利だが、魔力感知が鋭い相手には事前察知されるリスクがあるので意外と暗殺や潜入捜査には向いてなかったりする。
私の場合は相手が座標を設定した時点で、魔力の揺らぎを感じる。
もちろんそういう能力が無いものからしたら、目の前にいきなり現れるわけだから「転移」は万能と思われがちだけれど。
実際運用してみると、そこまで完璧な安全性ではないのだ。
「エルフが特にこういう察知が得意なのよねえ」
エルフが嫌われるのは、好戦的な面に加えてこういう能力があるからかもしれない。
転移してくると察知できた時点で、生殺与奪はこっちにあるのだから。
「ジューン様、ただいま戻りました。明日のご都合が宜しければ、レスター様とフレスベルグ様が島に打ち合わせをしに来るそうです」
ふんわりしたミルクティー色の右耳をピクピクさせながら、ミシュティが報告してきた。
「ああ、そう? ちょうどよかった。じゃあ来てもらって」
「はい。アマネさんも来ますが、あの子は私と打ち合わせです」
一緒に厨房に行き、時空ボックス内の在庫チェックをする。
ミシュティは自身の時空庫容量が少ないので、時空ポーチや箱で補っているのだ。
自分の家の食材であるから、在庫を足しておくのは私の仕事だ。
もちろん使ってもいいお金も置いてあるので、ミシュティが買い物をして、箱に入れておくこともあるけれど。
「まだまだいっぱいあるわね。足すものは──ああ、果物類は追加しとこ」
果物は大好きだ。
剥いてある果物は、もっと好き。
ここに入れておけば、間違いなく食べやすいかたちで出てくる。
(いっぱい入れとこ)




