進まない会議
「えーと……議題は、そうだカレーニアの件ね」
「アラインからの報告では勘が良くて耳と鼻が利くって」
「音と匂いで撹乱がセオリーだが、勇者パーティには犬100%ハナとフェンリルのニーヴがいるからなぁ」
うーむ、と考え込む私たち。
「一番無難なのはアラインがこちらの要望通り動こうとしている時だけ、一過性の撹乱……?」
「ジューンが哭き痺麦と困惑草を供出してくれたから、カレーニアの最終立ち位置の周囲に哭き痺麦を植える」
「困惑草はァ~?」
「アルコール抽出したものを風魔法で拡散?」
「ついでにちょっとツヨン草とかどうよ」
「ツヨン草ダメ、絶対」
戦う前に倒れちゃうからダメに決まっている。
みんなどうしてそんなにツヨン草が好きなんだろうか。
私ははるか昔から時空庫に眠る、使いみちのないツヨン草の濃縮エキスを思い出し、首を振った。
「そうなると、乱戦じゃなくて勇者たちの立ち位置を固定すべきね」
「床を半分崩すか?」
「予算がなー」
一同、ため息をつき書類に目を落とす。
「謁見の間を決戦地にしないで、城の屋上で戦う?」
「いや、それだと撹乱目的の風魔法が半減だな」
私はここでカルミラ案の致命的欠陥に気が付いた。
謁見の間に麦は植えられない。
……鉢植えの予定なんだろうか。
(聞いてはいけない。絶対何か押しつけられる)
黙っておくのが一番である。
「ではカレーニアは要所要所で感覚撹乱ね。次の議題はアマネちゃんね」
「アマネ……フレスベルグの弟分か」
「フレスベルグが魔王だから、近くで見たいってゴネてるんだっけ?」
「そうなんだよ、自分も参加するって騒いでて……」
フレスベルグは頭を抱えた。
禁止して放置は絶対に潜り込んでトラブルを起こす。
何か役目を与えて監視したほうがいい。
「ミシュティの補佐という役目を与えたらどう? 幸いミシュティとは仲がいいし」
「うーむ。まだ幼いが、龍人だからな。流れ弾に当たっても死にはしないと思うが」
レスターの言葉に、フレスベルグは頷いた。
「問題はそこじゃなくて、進行の妨げになると不味いというところね」
「私にお任せください。きちんと言い聞かせます」
ミシュティがキリッとした顔で宣言した。
「ミシュティの言い聞かせ」
フレスベルグが鸚鵡返しのように呟いた。
「ミシュティは招待客のおもてなしだったわね、アマネちゃんを見ながら出来る?」
「大丈夫と思いますが、後ほど会場を見ておきます」
「そう? じゃあそれで」
「酒」
レスターとゼグは紅茶では納得いかないらしい。
程なくワインが配られ、なんとなく乾杯することになったが──確かに今までの会議で、酒が出なかったことはない気がする。
(だからいつもグダグダなのか……)
なるほど、毎回まともに会議が進まないのは酒のせいか。
「はい、乾杯。さて、最後の議題は勇者とハナちゃん限定の話ね」
カルミラが頷きながら、魔道具を操作してスクリーンに資料を映し出した。
「ん、勇者とハナちゃん〜?」
ティティが不思議そうに首を傾げた。
「そう。治癒魔法をどうするか」
「掛けない方向でって話だったような?」
「万が一、勇者とハナちゃんが大怪我を負った場合どうするか決めておきたい。治癒魔法をかけるのか否か──」
私は手を上げ、口を開いた。
「治癒魔法じゃなくては命を救えないといけないと判断した場合は行使すべきだと思う」
死なせてしまっては帰すのが不可能になってしまう。
私が書いた勇者召喚の魔法陣は、召喚したものと同じものを帰さないと終了しない仕組みになっている。
同じものを戻すという制約があるからこそ、言語翻訳自動付与などの多少無理がある条件も無理矢理通せているのだ。
「帰せない」という選択肢は無い。
即死さえ避けられれば、生かすことは難しい話じゃない。
問題は治癒魔法の代償を私たちが持つわけじゃないところだ。
治癒魔法を受けた勇者、ハナちゃんが自分で寿命という代償を払うことになる……という懸念。
データが少ないから、多分こっちの人と同じように寿命が代償だろうと思われているけれど確定している話でもない。
「そうだな。治癒魔法は禁じ手にしないほうがいい」
ゼグがゆっくりと頷き、城の外側にある自分用の椅子にそっと腰掛けた。
「そこまでの外傷は与えないというのが大前提だけどね」
(そう、それが大事。大怪我はさせないようこっちが配慮しないと……)




