ツヨン草収穫
ミシュティのコカトリスは、私のことは嫌っている。
懐いたら可愛いですよと言っていたが、 そもそもコカトリスが懐くことってあるんだろうか。
必死に茂みに顔を突っ込み、私を居ないことにしているコカトリスを尻目に餌箱に指定された袋からザバっと飼料をいれる。
数日に一回餌箱を満杯にしておく──それだけのお仕事である。
「全く失礼なコカトリスね」
家に帰ってディーを撫で回し、私はテレビをもう一度つけた。
勇者チャンネルは飽きたので、マダムヒドラのお料理番組でも観るか。
(マダムヒドラはヒドラって名乗ってるけどメデューサなのよね)
テレビ越しで石化させられることは滅多にないが、マダムヒドラが興奮してくるとチリっと焼かれたような感覚が来る時がある。
なので、お料理番組だと言うのに未成年禁止の番組である。
ちなみに放送事故で石化した人の治療費は無償で、番組が出してくれるらしい。
「へえ、哭き痺麦って食べられるんだ……」
哭き痺麦は実ると慟哭しているような音で魔物を引きつけて食べさせて次世代に繋ぐ麦っぽい植物だが、文字通り食べると半永久的に舌が痺れる。
《何事も、叱るよりは言い聞かせ──何故いけないのか、理解させる必要があります》
マダムヒドラは、おんおんと泣き叫ぶ麦束に向かって優しく諭すように言い聞かせ始めた。
どうなることかと数時間見守ったが、言い聞かせは成立せず切断された麦の方が先にタイムアップとなり静かになった。
マダムヒドラは満足気に微笑み、麦束を叩きつけて実を外し始める。
《このように、素材との対話は料理のクオリティを上げるのです》
《脱穀はいつものように風魔法の応用で簡単に出来ます。さあ、しつけ終わった哭き痺麦を挽いていきましょう》
いや……哭き痺麦、枯れたというか力尽きただけだよね?
マダム、それでいいの?
一体どんな料理が出来上がるのか見守っていると、マダムの頭の蛇たちがざわつき始めた。
《あら? 挽かれたくないのかしら……臼が動かないわ。もう少し言い聞かせが必要なようです》
皮膚に軽い刺激が来る。
マダムヒドラは言うことを聞かない麦に、ちょっと怒っているようだ。
また長いお説教が始まった。
臼まで怒られている。
「まあ、この番組一品仕上がるのに十日くらいかかるから仕方ないか」
今日はちゃんとベッドで寝よう。
私はテレビを消し、ディーを抱えて立ち上がった。
ベッドに転がり、ツヨン草納品の日時を考える。
もうそろそろ収穫出来そうだから、明日の朝見てから決めよう。
(そうか、ツヨン草の納品のことを忘れていたのね)
もう他に約束は無いはず。
ホムンクルスはまだまだ先の納期だし、誰かと遊ぶ約束もしていない。
私は安心して目を閉じた。
カーテン引かずに寝たので朝日が眩しい。
私は想定外に早起きになってしまったが、二度寝はしないでちゃんと身支度を整えた。
ツヨン草を見に行くために、だ。
「おお、なんかもう収穫できそう」
花が咲くと効果がなくなるので、蕾をつける前に収穫しないといけない。
周囲の魔法陣がいきおいよく空気を巻き上げているおかげで、揮発する幻覚成分は周囲に漏れ出していない。
「すんすん……結構濃い」
幻覚成分たっぷりのツヨン草は甘く清涼感のある香りで、畑に入ってみるとかなり濃厚に香っている。
エルフとはいえ長くいたら幻覚にやられるかもしれないので、手早く根っこごと引っこ抜いて時空庫に入れていく。
植えた数十本を全て回収したあと、土のチェック。
根にも毒性があるので、残しておくのは危険だからだ。
(よし、土壌は無害……)
風魔法陣は数日すれば魔力切れで自壊するので放置。
レスターにツヨン草取りに来るよう手紙を出したところで、何か届く。
「ん? アラインから……」
あ、そうだったわ。
アラインに会う約束をするんだった。
どうやら私は手紙を書いたことを、すっかり失念していたようだ。
ヴィランテ南端の港町に寄港するはずだから、そこで王都に来てもらってポーションを渡す予定。
「あっ」
(ポーション作ってないわ……)
材料は全部揃っているから、忘れないうちに作っておこう。
「あ……ミスリルのボウルはディーの餌入れにしちゃったんだったわ」
魔法陣付きではないが、ボウルなら他にもある。
私は気が散らないよう西の作業場に転移して、ポーションを作ることにした。




