我儘?
少ししてバルコニーから戻ると、サロンからは飲食物が下げられて書類が各自の椅子の前に並んでいた。
(あ、もう代理は決定事項か……)
勇者イベントが終わったらゆっくりすればいいか。
あと二、三ヶ月の辛抱だ。
私は諦めて、自分がさっき座っていた椅子へと腰を下ろした。
「では変身関係はそういう事で。次は最終決戦見学席について」
そう、エンターテインメントである以上必ず観客は居るのだ。
テレビ中継が主になるものの、観戦席は用意されている。
大口のスポンサーのBOX席、勇者チャンネルのイベントで配布されたペアチケットの席。
あとは関係者招待席で、一般販売はしていない。
「何か問題でも?」
「いいえ、勇者側から見えないよう幻惑魔法と障壁で隔てるから特に問題はない」
「ふむ、全員来たとして……四百席あまりか」
「観客のもてなしと制御はミシュティにやってもらうわ」
「適任過ぎるゥ〜」
(ミシュティにうってつけの仕事ね。完璧にやり遂げると思うわ)
「救護室はベイリウス」
「ゼグは巨人の体格的に厳しいので、決戦後の後始末の音頭を取ってもらうわ」
「瓦礫とか出そうだもんなー」
「ティティは勇者チャンネルで実況中継するから除外、私とネモはイレギュラーに備えて会場に待機──セレナは勇者を死の島まで、気が付かれないよう護衛すれば任務完了よ」
おおよその役割分担は確定。
派手な立ち回りが好きなレスターの後の変身はちょっと考えなくちゃいけない。
あとはフレスベルグにどう繋ぐか。
最終形態でラストまで戦うフレスベルグに、最終形態の似姿をもらっておかないと。
レスターとフレスベルグは似た体格だからいいけれど、私との体格差をどう誤魔化すか……。
変化と言っても幻覚魔法みたいなものなので、自分を作り変えられる訳じゃない。
うん、第二形態はレスターに言って靄でなんだかよく見えない感じにしてもらおう。
(魔王組合、人手不足過ぎる。次回は増やすよう言っておこ……)
「じゃあ後は何かある?」
カルミラは一束の髪を私に押し付けながら、朗らかに言った。
(一束……? 他の髪はどこへ?)
とりあえず礼を言ってしまい込んだが、なにか腑に落ちない。
「あー、護符どうなった?」
「死霊たちに配る昇天防止札? それなら三枚ずつ配布してある」
「三枚で足りるか?」
「前面に出る隊には多めにあげたほうがいいんじゃない」
「今のところそんな兆候はないけど、ハナちゃんが万が一聖女の浄化陣を展開しちゃった場合、一網打尽になっちゃう」
「犬が魔法陣張るかなァ〜?」
「張る可能性がゼロじゃない。多分張らないけど」
「追加注文しておくか」
「死霊率もうちょい下がらないの?」
「んー、じゃあうちの軍隊も出すわ。吸血鬼ばっかりだけど」
「吸血鬼……死霊みたいなもんじゃねーか」
「強いから簡単に召されないのよ」
「あ、確かにね」
「それより予算が──そうだ、ジューンとレスターの出演を発表してグッズ売り出しましょ」
「あー、歴代人気一位と同率二位だもんな」
「とりあえずぬいぐるみとブロマイド、後はグッズ買い上げ抽選で握手会……」
「握手会は嫌」
「……そうね、握手会は準備時間が難しいか……なら過去映像を焼き増しして、今季特別パッケージで」
「ふむ。それならばサービス映像も撮らねば……ただの焼き増しではない方がいい」
「なら、撮影日時は早いほうがいいんじゃない?」
「吾輩が手配しておこう」
「水着姿とかいいんじゃ……」
「嫌!」
「ジューン、さっきから嫌しか言わないわね」
「わがままだぞ」
「そ、そうかしら……でも握手会も水着も嫌よ」
「レスターはいいって言ってるぞ」
レスターと私を一緒にしないで欲しい。
そもそも性別も種族も違うんだし。
レスターの水着姿とか、誰が買うというのか。
「水着はまあいいとして……追加撮影は絶対ですからね!」
カルミラが、決定だと言わんばかりにふんぞり返った。
「そんなことばかり言って──その頭に髪の毛、二度と生えなくしてやるわよ」
「なんですってぇ!?」
「ひどい」
「さすがエルフ」
「怖い」
「何よ、代理もやるんだからこれ以上仕事振らないでよ! スローライフがしたいのよ、私は!」
「何を馬鹿なことを」
「スローライフ?」
「ジューン、正気なのか?」
私とカルミラの言い争いは、メンバーの飛ばす野次の中でしばらく続いた。
━第三章・完━
※第四章に続く




