代理?
「ふぅ。次はフレちゃんの決戦の件……変身三回希望、と」
「多い」
「いいんじゃないの」
「だろ? だろ?」
「問題大アリよ」
カルミラがクビを振って肩をすくめた。
「最終ボスの変身というのは、やったか? と思わせる演技力と、やられたようでやられない精密な魔力調整が必要でしょう?」
「それはそう」
「それを二回やって、勇者たちをうっかり殺さないように立ち回るのよ?」
「あー……」
フレスベルグは強い。
普通に勇者に勝てると思うのだけれど、若いから小細工が上手くない。
精密な魔力調整はまだまだ、といったところだ。
「でも、見せ場は幾つかないとだろ」
「そこなのよ。なので変身前後は身代わりを立てたらいいんじゃないかと。戦闘力に関してはフレちゃんは充分持ってるから、繊細な部分だけ入れ替える」
「フレスベルグが戦闘、変身だけ身代わり……」
「えー、自分でやりたい」
「お前にゃまだ早い」
「フレちゃんに変化して、変身して勇者たちが戦闘準備にはいるまでにフレちゃんとまた入れ替わる」
カルミラ案は非常に現実的だ。
フレスベルグの得意不得意を熟知している。
さすが、育ての親だわ。
「変化と調整が上手いのってェ〜……」
全員が私を見た。
「嫌よ!」
カルミラが静かに口を開いた。
「ジューン。嫌でもやらなきゃいけない時はあるのよ」
「嫌よ」
「私の髪の毛全部あげるから」
「! まさか、その頭はそのために──」
(なんと言う策士……! 断れないよう事前にこんな手段を)
確かに吸血鬼……しかも幻魔族っぽい色が定まらない髪は欲しい。
いい媒体になるのは間違いないから。
「でも……嫌、でも……うーん」
「え?」
「なんでスキンヘッドなのよ」
「珍しいパック剤が手に入ったから、全身に使いたかっただけ〜。頭皮ケアも大事でしょ」
確かにカルミラの頭はしっとりと滑らかだった。
保湿は万全なのね。
(カルミラはそう言ってるけれど、なんか違う理由がありそうね……)
この前のエルフの話のように、呪術を返されたわけではなさそうだ。
フレスベルグの魔力操作が云々と言っているが、カルミラ本人もさほど魔力操作が得意ではない。
難解な編み物のような呪術には向いていない。
(どっちかって言うとカルミラも脳筋魔術なのよね……)
彼女が呪って反撃される相手って、魔王組合のメンバーくらいしか……
「あっ」
「なぁに?」
「いえ、なんでもないわ」
私は替え玉案は拒否しつつ、黙った。
(ラウバッハ、今この城に客人として滞在してるラウバッハならあり得る)
こっそり探ればカルミラの頭からラウバッハの魔力の微かな残渣がある。
いったい何があったのか……そのうちラウバッハを訪ねる機会があったら聞いてみよう。
「でも、現実的に考えても替え玉作戦をこなせそうなのはジューンかレスターくらいよね」
セレナが熱々のスープに苦戦しながら、意見を述べた。
「二回変身するなら、一回ずつやれば負担も少ないのでは」
「そうね、レスターは派手だから一回目、調整に長けたジューンが二回目……」
「三回目は?」
「三回変身するんだっけ」
カルミラが気を取り直したように、私を指さし
た。
「一回目の変身で変身後、がレスター。二回目の変身までレスターがやる。その後フレスベルグがまた出る」
「で、三回目はジューンが交代後に変身して適当なところで最終形態になってフレスベルグと交代」
「二回ずつになってるじゃないの。しかも最終形態が増えてるわ。三回目が最終形態なのでは──」
私はいささか混乱した頭を休めるために、バルコニーに出た。
少し強い潮風、目下に広がる整然とした城下町。
(おかしい、私がなぜ最終決戦に出演する前提になっているのか)
おかしいが、納得は出来る。
適任はレスターか私だけ……レスターは立ち居振る舞いが派手なのでフレスベルグを食ってしまう可能性がある。
中盤、調整しながら何かするなら事故確率が低い私と言いたいカルミラの気持ちもわからないではない。
「面倒なことはしたくないのよね……」
だって、私が目指しているのはスローライフなのよ。
魔王代理とか、おかしくない?




