頭が
「とうとう……やっと勇者が出航したわね」
カルミラがため息とともに髪をかき上げた。
何故かスキンヘッドだが、聞けるような雰囲気ではないので黙っておこう。
「進捗会議も後数回ねぇ」
目の下の隈が濃くなったセレナも小さな声で呟いた。
カルミラ、フレスベルグ、セレナだけが疲れ切っている魔王組合は今日久しぶりの会議である。
ベイリウスは育休ということで欠席。
ゼグも身内の祝い事で欠席。
そして我が家の侍女ミシュティも祝い事で欠席だ。
なんと弟バルフィの双子の片割れ、ジャレビの奥様が出産したとのこと。
ミシュティは難産だったお嫁さんの産後ケアと甥っ子の保育を十日ほど頼まれ、張り切って出かけていったのだ。
「いよいよ終盤ね、なんか今回は最終決戦まで長かった気がする」
「通常は一年で勇者帰還まで終わってるが、もう一年近いからな……」
「ちょっとオーバーしそうではある」
「船旅は順調みたいなんだけど、勇者とハナちゃんが船酔い酷いらしいわ」
「え、犬って船酔いすんの」
「酔い止めは?」
「ハナは魔物じゃないし、この世界の生き物じゃないから従来の動物の酔い止めはちょっと怖いのよね……人用は論外だし。犬には禁忌って成分多いらしいから」
「聖女なのに自分の体調治せないの」
「犬だからなぁ」
「老犬だし、船旅は厳しいんじゃ……」
「途中で陸に降ろすしかないんじゃね?」
ネモが新調した甲冑をガシャガシャさせながら、座り直した。
「しかし、聖女と勇者は共に戦うものであるからして」
「でもよ、ネモ。今回は聖女つっても犬だぞ」
「オスだし」
「おじいちゃんよ」
「でもグッズ売り上げは一位」
「ふむ……」
コホン、とカルミラが咳をして脱線を食い止めた。
だが、皆が見つめるのはカルミラの顔ではなく頭。
(なんでスキンヘッドなのか凄く知りたい……!)
こういう時こそ空気読まない男として、フレスベルグが率先して聞くべきなのでは?
私は隣に座っていたフレスベルグの足を蹴った。
「痛え、なんだよ」
フレスベルグは私の顔を見た。
「ヤダ」
どうやらフレスベルグも質問はしたくないようだ。
誰か聞いてくれないかな。
私が空気読まないエルフとして聞くべきなのか。
「…………」
「…………」
「…………」
「いい? 売り上げは落とせないの。魔王城は原状復帰で返す約束だし、原状ギリギリ赤字は免れてるけど黒字にならなきゃ意味ないのよ」
「う、うん」
「そ……そうね……」
「なのでハナちゃんの露出は削れないわ」
では、どうするか。
あれこれ脱線しつつ話し合いは続いた。
「じゃあ、船の中に一部だけ『揺れない安定した空間』を設置したらどう?」
私の案に、レスターが食いついた。
「良いなそれ。魔法陣で力押しでいくか、魔道具を作るか」
「予算がないから魔法陣でどうにかならない?」
カルミラが予算を盾に、魔道具案を切り捨てた。
レスターは黙ってカルミラの頭を見たが、何も言わなかった。
「……魔法陣となるとジューンだな」
「えー」
自分でアイデアを出しておいて嫌がるのもどうかと思うが、空間系の魔法陣はめんどくさいからやりたくない。
「魔法陣も安くないのよ。空間維持系は大量の媒体が必要になるから」
「そうなの? 魔力供給でどうにかならない?」
「魔法陣組んだ当人が魔法陣に乗っかっていれば、どうにかなる」
「それは……」
一同は難しい顔になり、黙り込んだ。
「ちなみに媒体ってなに?」
「龍素材ね」
「ポチでなんとかならん?」
「無理。生きてる龍から内臓抜こうとしたら、自分が死ぬ」
「ジューンが頼んだら、ちょっとくらいくれそうだけどなぁ」
「必要なのは古龍の内臓じゃないのよ。使うのは地龍と水龍ね」
「あー、属性龍か」
「揃えたら宝貨二枚はかかる」
「じゃあ、魔道具なら」
カルミラの問いにレスターがのんびり答える。
「そこまで掛からんが、実用化までに時間がかかる」
「……どっちも厳しいわねぇ……」
「あ、じゃあさァ〜。寝かせておくのは〜?」
「それだ」
「ティティ、たまにはいいこと言うわね」
「ひどーい、いつだって真面目なのにィ〜」
寄港から寄港の間に、なるべく眠らせるのは中々良い案だと思うわ。
体力を消耗させないのが目的なわけだしね。
「じゃ、どうやって眠らせておくかね」
カルミラが髪をかきあげようとしたがその手は一瞬止まり、何事もなかったようにスッと降ろされた。




