栽培
「あ、私このイチゴのタルトと焼きプリン、ベリーパイで」
カフェに移動した私たちは各々注文を済ませた。
メイサは大喜びで三つ頼んでいたが。
「ハニービーに子孫がいたとはねぇ」
ミッチェルはそう呟いた。
「うふふ、私が魔女になったのは連れ合いを亡くしてからですので」
ハニービーはミシュティと同じパライバトルマリンのような瞳をキラリと光らせ、静かに語った。
カフェでは雑談に花が咲き、特段難しい話は出なかった。
ミッチェルとミシュティはメイド紹介の件で次回の約束をしていたようだが、それはミシュティの自由なので私は口を出さない。
目的のものは手に入れたし、日も傾いてきた。
「じゃあまたね」
私は年長者としてカフェの料金を支払い、ミシュティと共にひよこ島へと戻った。
帰ったら帰ったでディーが大騒ぎで、ミシュティはすぐにディーとソフィーちゃんに夕飯を与え、家事に取りかかった。
私はツヨン草をどこで増やすか考えなくては。
温室は気温が高すぎるため、向かない。
地植えは魔馬や魔咆犬、小さいヒドラが放し飼いなのでちょっと避けたいところだ。
「ミシュティの毒草畑……はダメね、温泉近くで暖かすぎる」
(ある程度日光も必要だし……)
ツヨン草は半陰性、日当たり抜群でなくてもいいけれど多少は無いとダメ。
「うーん……」
鉢植えだけでは足りないし、せっかくなので栽培したい。
山がいいとは思うけれど、温泉が近すぎる。
結局、西端の作業所裏手に小さな畑を作った。
氷魔核と魔法肥料を砕いて土に混ぜ込み、栄養と温度を調整して整えたあと、頑丈な魔条網で幾重にも囲って地植えすることにした。
「植物魔法で増やすのは簡単なんだけど、どうしようかなぁ」
植物魔法は得意だから、魔法で増やすのは簡単。
けれど普通に育てた方が成分的には良いのだ。
無理矢理増やすと、成分が薄くなりがち。
便利だけれど、万能ではないのが困ったところだ。
(ちゃんと育つよう、補助する魔法のほうが良いのは間違いないのよね……)
育成魔法で一気に種を取って増やすのが最適解かな。
すでに請け負った納品依頼があるわけだし。
二株あるから、一つはこのまま時空庫で温存してもう一つで種を取ることにしよう。
ちょっと早めに育つよう魔法をかけて、納品は十日後くらいに。
「……でもツヨン草って二万粒くらい種取れるんじゃなかったっけ」
まあ、それだけ種をつけても全部発芽するわけじゃないから珍しい草になっちゃったんだけれども。
魔法ならば、ほぼ発芽させることができる。
(そうなると。種さえあればわざわざ育成しなくてもいい気がするけど、畑一回分は育てるか……)
一回収穫したあとは、ミシュティが変なものを育てるのにつかえばいいんじゃないかな。
念のため、畑の周りに風魔核を使って幾つか魔法陣を設置。
しっかりと上昇気流を作っておく。
収穫に耐えうるサイズになったツヨン草は揮発性の幻覚物資を出すから。
「うちの可愛い馬と犬と蛇がやられたら困るものねぇ」
ツヨン草は苦くて美味しくないから食べたがらないとは思うけれど。
いったん自室に戻ってから鉢植えを一つ取り出し、大きな布の上に置いて一気に成長させる。
小さく赤茶けた花が茎の先にたくさん集まって咲き、枯れていく。
種は極小で、手のひらに収まる程度だ。
私はそれを零さないよう全部革袋にしまい、広げたものを片付けた。
(蒔くのは明日の朝ね)
レスターにはツヨン草入手の件で手紙を出しておこう。
「納品は十日後あたり……っと」
レスターはゴブリンを国に送って行くと言っていたが、どうなっていることやら。
「あれ、アマネの気配がするわね」
外に出てみると、クリムゾンヘルファイアが飛びついてきた。
「泡まみれじゃないの」
どうやら犬を洗いに来たらしい。
「さっき沼に落ちちゃって」
腕まくりをしたアマネもずぶ濡れである。
まず愛犬の世話、なのは愛犬家として正しい姿勢であるが……彼はまだ子供だ。
風邪を引くかもしれない。
「く、クリムゾンヘルファイアは私が洗ってあげるから着替えてらっしゃい」
「わかったー」
妹(多分)が来たので嬉しそうに飛び出してきたディーも濡れてしまったので、ついでに洗うことにしよう。
どうせすぐ汚れそうだけど……。




