ツヨン草ゲット
「へえ、密造酒にツヨン草を……」
ツヨン草の鉢を受け取り、しまい込んだ私は事の経緯をミッチェルとメイサに話した。
「量によっては酔いから覚めないわねっ」
メイサがケラケラと笑い声を上げる。
「薬師にも少し分けるから、家で増やすわ」
「で、なんでコルル?」
「それがね、山でゴブリンを見つけて──」
「ブハッ! 確かにあの家の周りをゴブリンがウロウロしてるの見たことあるわ」
「犬と友達かー、あ、でもでもコルルってコボルトよね。頑なに喋んないけどさ」
「愛犬勢には愛犬勢のルールがあんのよ」
「そうそう、犬じゃないってバレたらアウトだから」
ミッチェルとメイサは魔界出身なので、愛コボ事情を知っている。
コルルを飼っている人間の魔女は、多分知らないで飼ってる。
「コルルの飼い主はさぁ、今寝込んでるから隣の魔女んちでご飯もらってるみたいよ」
「あー知ってる〜。先月呪い返し食らって、村の店も一旦閉めたんだよね」
なるほど、閉店したのは本当だったのね。
魔女が呪い返し食らうって凄い話だけども。
「でもさぁ」
メイサが勝手に棚からビスケットを出して食べ始めた。
「ちょっと! ポロポロこぼさないでよっ!」
「まあまあ。あとで掃除するからさぁ……でね、呪ったはいいけど先方が解呪しちゃって」
「正魔女の呪いって結構なもんよね?」
「ウンウン、でも先方はエルフを使ったんだって〜」
「…………」
「……それはそれで、よく生きてたわね?」
「そこはほら、人間でも正魔女になるくらいの魔力持ちだし」
「なんでも、勇者一行の斥候に呪いかけたらしくて」
(なら呪い返ししたの、アラインじゃないの。世間は狭いわねえ)
それならば魔女が生きているのも納得だ。
絶対片手間で適当に解呪したからだ。
真面目に返されたら、間違いなく死んでる。
メイサに無理矢理エプロンをつけさせたミッチェルは、散らばったビスケット屑に若干キレかかっていたがまだ大丈夫だ。
「なんでまた勇者パーティに手を出したの」
(うん、私もそれ聞きたい……)
「斥候に、よ。人間のね。依頼主は女で二股かけられてたんだって〜」
「あんたの既婚男と大差ないわね!」
「うぐぐ」
メイサは悔しそうにビスケットを頬張った。
「なんの呪いをかけたのかしらねぇ」
「何もかもハゲる呪いって言ってた!」
(あ、命を取る系じゃないから魔女が生きてるのね……)
眉間にしわを寄せたミッチェルがビスケット屑を回収し、窓の外にある板の上に落とした。
小鳥でも来るのだろう。
「ミッチェル〜」
のんきな声が外から聞こえてきた。
「なんなのよ、今日は! ……え、かわいい……」
怒りながらドアを開けたミッチェルは、ハニービーの後ろにいたミシュティを目ざとく見つけた。
「ちょっとちょっと。なに、ハニービーの娘? すごくかわいいじゃないの!」
「うふふ、そう見える? でも玄孫なのよ、可愛いでしょう」
真っ黒なケット・シーは嬉しそうにミシュティを見せびらかした。
「毛の長いケット・シーってあんまりいないわよね? しかもパステル三毛とか可愛いわね。さあ、入りなさい。美味しいケーキがあるわよ」
「待って! なんで私たちにはケーキくれなかったのっ」
メイサが怒りのあまり、テーブルに手を付いて立ち上がりビスケットの缶が床に落ちた。
「……」
「……」
「……も、もう空っぽだったから、ねえ?」
ミッチェルは怒らなかった。
ミシュティの検分に忙しかったからだ。
当のミシュティは震え上がっているが、ミッチェルは可愛いものが好きなだけなので害はない……と思う。
「ねえねえ、この家狭いからケーキ食べたらカフェ行こうよ〜」
メイサは相変わらず若干失礼でマイペースだが、確かに五人で座れそうな広さではない。
何故か私たちは壁際に立たされ、ミッチェルとミシュティがケーキを食べるのを見守ることになった。
「ねえ、あのケーキいっぱいイチゴ乗ってるね……」
メイサが囁いた。
「カフェで頼めばいいじゃないの」
「メイサのケーキ美味しいのよぅ」
「へえ、ジューンの侍女を? 転職する気はある?」
「いいえ、ジューン様は生涯の主なのです」
「あらぁ、残念」
ミッチェルは物凄く残念そうな声を上げた。
「ミッチェル様、ケット・シーのメイドでしたら紹介できますよ」
優しいミシュティは、うなだれるミッチェルにそう返事をした。




