公国③
「でね、なんでホクロが右かと言うと、左だとありがちだから、フィフティストームが差別化って事でぇ……」
「は、はい」
酔っ払ったエルフのメイサに絡まれるミシュティ。
途中、それを見たケット・シーの魔女ハニービーがすっ飛んできてミシュティとメイサの間に身体を割り込ませた。
「なによぅ、ハニービー」
メイサが二杯目のワインに手を伸ばし、フワフワした真っ黒な猫の手にブロックされる。
真っ黒な短毛ボディ、輝くパライバトルマリンの瞳……魔女、ハニービーはとても美しいケット・シーだ。
「お酒が弱いのに、何故二杯目を飲もうとするんですか」
「だぁってぇ……」
なんと、エルフがケット・シーに叱られている。
そして、下戸のメイサが何故酔っているのか。
(一体何が起きてるんでしょ)
ミシュティはハニービーの背後にうまいこと隠れている。
ハニービーはケット・シーのミシュティを保護するために間に割って入ったようだけれど、メイサとも仲は良さそうだ。
「あれぇ、ジューンじゃん」
「さっきからいるんだけど?」
「そう? そうなのぉ? ああああもう」
(ワイン一杯でここまで酔えるとは。すごく経済的ね)
テーブルに突っ伏したメイサを見ながら、私は状況を整理した。
メイサのテーブルにうっかり近づいたのは私、ミシュティ。
あとから来たのはハニービー。
他にこのテーブルに近寄った人はいない。
サロンには数人魔女がいたが、全員メイサからかなり距離を置いて座っている。
「メイサって普段からこうなの」
「普段は飲まないんですけどね……」
私の質問にハニービーは頬に肉球を当てながら、答えた。
同じ種族だから当たり前だが、ミシュティと仕草が良く似ている。
「ところで暴風の魔女、この可愛いケット・シーを少し借りていっていい? 多分直系子孫なの」
「え、そうなの」
「ええ、玄孫だと思うのよね。家に母系家系図があるの、連れて行ってもいいでしょう?」
「いいわよ、自由行動で」
ミシュティが暫定祖先と一緒に立ち去り、私の目の前に残ったのは銅色の髪をバサバサと跳ねさせているメイサの後頭部だ。
周囲を見渡すと、どの魔女も肩を竦めたり手を振ったので飲まされたわけでもなさそう。
お酒好きじゃなかったと思うのよね。
お祝いの席なら、メイサが一人ってのはおかしいし。
私はメイサの髪を掴み、顔を上げさせて酔い覚ましの薬液を原液のまま流し込んだ。
「ぶえっ? おべぇー、なにごれぇ……」
手渡した水を慌てて流し込み、メイサはぐにゃぐにゃと椅子の背にもたれかかった。
「しっかりしなさいよ」
「おろろ……あれ、ジューン……」
「さっきからいたのよ、しっかりして」
だんだんきちんとした顔になってきたメイサは、周囲を見渡し自分の失態を悟ったらしく、頬を染めた。
「あー……やだ、ホクロちゃんとついてる!?」
「ついてる」
「良かったぁ! ふう、お酒はやっぱりダメね。憂さ晴らしにいいかと思ったけど」
きちんとしていれば、メイサもエルフなのでとても美しい。
やや垂れ目で整った顔立ち、銅色のフワフワした髪に煌めくゼリーのような甘いぶどう色の瞳。
肌色はエルフにしては珍しく浅黒いが、これは彼女の父親が肌色の濃い人間だったからだ。
種族はエルフとして生まれたが、多種族の方の親の遺伝が出る場合もある。
(肌や瞳の色だったり、嗅覚聴覚だったりね。種族としての外見が混じることはないけれど、無影響でもないのがハーフの面白いところよねぇ)
「憂さ晴らし? なんかあったの」
可愛らしい犬獣人のメイドが注文を取りに来たので、メイサにはジュースを頼み私はワインを選んだ。
尻尾を振りながら立ち去る可愛い犬獣人を見送り、メイサに向き直る。
「なんかあったっていうか……」
「なに」
「し、失恋したの」
「ほう? 詳しく」
エルフの失恋話なんてそうそう聞けるものじゃない。
私は手を上げ、メイドにメイサのための果物と自分のつまみを追加注文した。
「さあ、全部吐きなさい」
「ええー言わなきゃダメ?……わ、わかったわよぅ……」
(あれ、なんか大事な用で来たと思うんだけど……ミシュティも居ないし、まあいいか。まずは失恋の話を聞かなければ……)




