公国②
魔女公国は特に変わった外観はしていない。
木造住宅に、何かの施設は石造りの大きめのもの。
ローランのように統制はされていないが、奇抜な部分などは見受けられない。
買い物をする使用人らしき者、のんびり散歩を楽しむ魔女……長閑なものだ。
「見ればわかる……あ、ホクロですか」
数人の魔女を見かけたあと、ミシュティが口を開いた。
「当たり。正魔女は右の目尻と口元にホクロを付けているの」
付けホクロだけどね。
これは初代公国代表の魔女が定めたしきたりだ。
なんでも、友人の転生者の強いすすめがあったという。
『その方がセクシーだから』
と、いう理由である。
なので正魔女は全員右目尻と口元にホクロ。
獣人や死霊などの物理的に無理な種族は免除されている。
「免除される場合もあるのですね」
「ええ。あ、ケット・シーの魔女も居るはずよ」
「まあ!」
「サロンにいけば会えるんじゃないかしら。コルルのことも聞きたいし、まずは魔女の社交サロンに行ってみましょう」
魔女は仕事を受けている間は忙しいが、そうでなければ暇を持て余している。
サロンにはそういう魔女が遊びに来ているので、情報収集にはうってつけだ。
「……猫が多いですね」
足元をすり抜けていった黒猫の後ろ姿を見送り、ミシュティが微笑んだ。
「ホクロと一緒に決まったルールで、使い魔はカラスか黒猫なのよ」
『その方が魔女っぽいから』
と、言う理由らしい。
その当時に一緒に決まったのが、黒い大きなとんがり帽子に黒いロングワンピース。
これが魔女の正装である。
この提案をした転生者は公国の記録によると、フィフティストームという名の女性。
公国建国の際、要職に就いていた人物だ。
彼女はなんと、飛行スタイルまで指定しようとしていたそうだ。
(ただ……箒にまたがって飛ぶ、というのはとても難しくて浸透しなかったと資料にはあるわね)
飛ぶ+座る……。
これは難しい、すごく。
私でも上手に出来る自信がない。
初代宰相フィフティストームが残したのは、風習だけではない。
公国特有の、福利厚生制度を作った偉人なのだ。
「老齢福祉制度、ですか」
ミシュティがピンと張ったヒゲを揺らしながら、首を傾げた。
「そう。正魔女が魔女でいられなくなるくらい、年を取ったり障害を負った時、その後の生活を保障するという制度ね」
「国が個人の面倒見てくれるのですか」
「うーん、厳密には本人たちのお金を『国の名』で再分配している……かな?」
「本人たちの、お金……」
「要は税金ね。魔女公国は税金が高い。正魔女でいるための税金がある」
「なるほど」
「その正魔女税をちゃんと払っていると、不慮の事故や老後でも困らないというわけ。あ、死霊たちはこの税金を使うことがないので、すごく安いらしいけれど」
金額はその種族の平均寿命から算定されており、金額は種族によってまちまちだと以前聞いたことがある。
「ああ、多種族で寿命も違うから、国が一括して正魔女たちを守っているのですね」
「察しがいいわね。そういう事よ。引退魔女たちは魔女の村に家を貰えるから、村で店番してることも多い……あ、あの建物が集会サロンよ」
私は見えてきた石造りの建物を指さした。
近寄ると、紅茶の香りを含んだ風が鼻をくすぐる。
「こんにちは……あら、準魔女がサロンに来るとは珍しいわね」
建物の前まで行くと、例のホクロをしっかり付けた可愛らしい人間の女性が声を掛けてきた。
(この国の素晴らしいところは、誰もエルフを表立っては差別しないところよね)
怖がられたりはするが、逃げられるほどではない。
初対面で、エルフと話が成立するのは──エルフ側からしても本当にありがたいことなのだ。
(変人のエルフには、ね)
「こんにちは。せっかく久しぶりに来たので顔見知りに会いたくて」
私はニッコリ微笑んで、返事をした。
「顔見知り。エルフだからミッチェルかサーラ、メイサ? ──メイサなら中にいるわよ」
「そう、ありがとう。行ってみるわね」
(エルフに用があるわけじゃないんだけどなぁ……)
が、朗報ではある。
公国にいるエルフの中で、メイサが一番変なエルフだからだ。
つまり、社交的なエルフ。
ミッチェルは短気だし、サーラは気難しい。
どちらも話せば楽しい相手だけれど、情報収集するだけならメイサが一番いい。
「良かったわね、なかにいるのは社交的エルフよ」
「は、はぃ……」




