密談
──数日後。
私は素の姿でアマンダに会いに行くことにした。
エイプリル=私だと明かす気はないけれど、エルフである私をアマンダの母親であるヘレナさんが既に知っている。
下手な小細工はせずにそのまま接触したほうが都合が良さそう。
彼との約束は『相談を聞くだけ』だ。
私に利があるなら、解決策を一緒に考えてもいいけれど。
時刻は二十の刻。
繁華街が賑わい始める頃合いだけど、ボスであるアマンダは表には出ない。
おそらくいつものように高級娼館の地下の隠れ家にいるはず。
私が目の前に現れても、アマンダは動揺する素振りを見せなかった。
わずかに片眉が上がっただけ。
「……座って」
アマンダは顎で椅子を指し示した。
私が黙って腰掛けると彼は大きく息を吸って、ため息をついた。
「なんでここを知っているのかは聞かないけれど──随分急なお出ましね」
「そうね」
「そうねってあなたねぇ……」
アマンダは首を振って、諦めたように両手を上げた。
「で、相談って?」
「ああ、相談ね。あなたも知ってると思うけれど、うちの母親がね、結婚しろってうるさくて」
「言ってたわねぇ」
「嫁に行ってる姉たちを集めて、アタシを吊るし上げようとしてるのよ」
「吊るし上げ……」
「聞いてちょうだい。アタシには四人の姉がいるの」
「ええ」
「全員、母親そっくりなのよ……性格が!」
「そりゃ大変ねぇ」
私の相槌に、アマンダは大げさに顔をしかめた。
「まずあなたの性的嗜好はどうなの? 後継ぎ目的なら異性一択よね」
「アタシ、どっちもいけるの。男も女も好きになればどちらでもいいの」
「なるほど、で相談って結婚のこと?」
「大まかに言えばね。一応、結婚してもいいかなって女はいるのよ。……ただね 」
「ワケアリ物件ってことかしら」
「ご明察」
アマンダはグラスに氷を入れ、琥珀色の酒を注いだ。
「砂漠の植物のお酒よ。表の商会で取り扱い始めたばかりなの。炭酸とか水はあっちにあるから、お好きにどうぞ」
せっかくなので、ロックのままいただいてみる。
(テキーラじゃないの。これはいいお酒だわ)
「なんというお酒なの? 」
「砂鯨酒って名前で売り出すつもり」
「いいわね。美味しいわ」
会話は雑談になり、空気も緩んできた頃にアマンダがようやく本題を切り出した。
「問題はね、貴族のお嬢さんではあるんだけど問題児でね。いえ、問題児だった、が正しいわ」
「ふうん?」
「今は反省しているのよ。でも既に王太子とか、高位貴族の坊っちゃんたちに派手なちょっかいかけちゃってて」
「んん?」
(王太子にちょっかいかけてるって、もしかして)
「ちょっとややこしいことになっちゃってるのよ」
アマンダはそう言って、グラスをあおった。
「それでね、長生きのエルフならどうにか事態を収拾つけられるような知恵があるかもって、あなたに相談したってわけ」
「貴族にはあんまり関わりたくないわ」
「アタシもよ。あなたがなんでアタシの裏の顔知ってるのかすらサッパリだけど、もう万事休すって感じで」
私はアマンダを見つめ、少し考えを巡らせた。
(結婚、という制度においては相手が異性であるから問題はない。アマンダは平民だけど裕福で信頼もある商人……お相手が跡取りで無い限り、無理な話ではないけれど)
「つまり、お相手に問題があるわけね? それにしたってエルフに相談するって、思い切ったわねぇ……」
「我ながらそう思うわね。でももう抜き差しならない状況でね」
アマンダは引き締まった長い脚を組み替え、数度目のため息をついた。
「その人はね、低位貴族のお嬢さんなんだけど正妻の子じゃなくて婚約者もいない。だから立場的には全く問題はないのよ」
「ええ」
「歳は若いけど、そこも別に問題はないのよ」
「そうね、歳の差婚は普通にあるものね」
(低位貴族の庶子、なおかつ王太子に纏わりついている……心当たりがありすぎるんだけど)
アマンダはゴージャスな金髪の鬘をかきむしる勢いで頭を抱えた。
「その人の事情を聞いたらね、他人事とは思えなくなっちゃって。なんとか助けてあげたいのよ」
アレでしょ。
絶対、あのピンク髪でしょ。




