事情
「……まぁいいわ。約束は約束だから、聞くわ」
私の言葉に頷いたアマンダは、まわりくどい言い回しをやめてストレートに話し始めた。
──とにかく問題児であったその令嬢を合法的に、どうにか目立たないようにしたい。
欲をいうなら、表舞台から降ろしたい。
王族を含んだ高位貴族まで巻き込む事態になっている以上、僅かなミスも許されない。
齟齬が生じると致命打になる──
「あなた、そのワケアリ令嬢の話を聞いてあげてくれない? その子ね、前世持ちらしいから……長命種族の知識をお借りしたいのよ」
黙ったままの私を見て、アマンダは目を細め腕を組んだ。
「長命のあなたは、お金では動かない。お金で買えるものでも、動かない──」
アマンダの腕はゆっくり伸ばされ、トン、トンと指がサイドテーブルを叩く。
「この砂鯨酒、王家にしか卸さない予定なの。まだ契約してないんだけどね」
「いいお酒なのは確かね。ちょっと他にない風味だし」
「まだ契約前だから出来ることだけど、あなたに千本、専用瓶とラベルで提供する」
「ふうん?」
テキーラがオリジナルボトルで千本。
悪くない。
悪くないけれど、ピンク髪と話すのはすごく抵抗がある。
「うーん、それって数十年後には市場に出回る等級よね。最初は王家だけでも」
「それはそうね。ワインのような立ち位置にはならない。最終的にはどの酒場でも見かける酒にしたいわ」
「それじゃ、珍しくも何ともないじゃないの。あなたの話はちゃんと聞いたし、これで終わりでいい?」
アマンダは大げさに慌てて見せ、頭をひねり始めた。
(はてさて、どうしたものか。名前は未だ明かされていないが、間違いなくピンク髪……)
あの非常識の権化が反省している、とはいったい──?
私の知らないところでどんなドラマがあったのかしら。
やだ、興味が湧いてきたわ。
「──何か欲しいものはないの? アタシにやれることなら融通する」
アマンダが降参といった様子で肩をすくめた。
「欲しいものねえ……しいて言うなら、珍しい薬草みたいなものなら」
希少素材とか、お金じゃ贖えないもの。
でも、私が手に入れられないものを人間が入手出来るとは思えない。
「ああもう、エルフとの商談で成功した人がいないってのは本当なのね! いったい何なら引き受けてくれるの」
「それはあなたが差し出すものであって、私の考えることじゃないわ」
「お金じゃどうにもならないもの……人材? いいえ、あなたは人材は要らなさそうだわ。なら、何がある?」
アマンダはブツブツと独り言を言いながら、頭をかきむしった。
(鬘がずれてるわ、アマンダ……)
アマンダは私の顔を見ながら、ズラズラと出せそうなものをあげ始めた。
商人らしからぬ行為だ。
(依頼したいのは商会頭のフレッドではなく、アマンダ個人なのね)
「──危険種族がアルシアで困ること……人脈。コネね。あとは不動産、各種通行許可証、あとは……」
アマンダの声が止まり、私の顔を見たまま獰猛な笑みを浮かべた。
「当たりね? 睫毛が動いた」
「さあ、どうかしら」
(焦っていても、僅かな動きも見逃さない……大したものだわ)
私はアマンダの評価を一段階上げることにした。
力はある、観察力も一流。
取引相手としてはあり、だ。
(何を出すのか、お手並み拝見ってとこね)
「不動産なら融通出来るわ、表でも裏でも」
「ふうん?」
「王都でも他の場所でも都合つけるわよ」
──ピンク髪の話を聞くだけ、ならば悪くはない条件だ。
アマンダなりにエルフである私を正当に高く見積もっているのは、わかったわ。
「どこかに一軒出すわ。あと彼女に会ってもらって有効なアドバイスがあった場合、王都でも一軒出す」
「──随分、彼女にご執心なのね?」
アマンダは脱力したように、ため息をついた。
「こっちも必死なのよ。せっかく見つけた同志を殺されちゃかなわないもの」
「同志?」
「そう。前世持ちって言ったでしょう? その彼女、前世が五十六歳のオネエだったの」
「ああ、だから他人事とは思えないと?」
なるほどねぇ。
私から見たら、合法の拠点を二ヶ所も手に入れるチャンスとも言える。
「いいわ。ローランと王都に一軒ずつ合法的に用意して。アドバイスは出すけれど、解決出来るかどうかは約束しない」
「……手強いわね。いいわ、その条件を飲むわ」
アマンダは嫌そうな顔をして煙を吐き出し、煙管から灰を落とした。
アマンダに物理的な利益が全くない条件。
が、彼女が求める利はそこではないと言うことね。
(では、交渉といきましょうか)




