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乙女の秘密  作者: 安芸
おまけ
12/12

君に贈る言葉

 後日譚です。

 こんな小話いらないんじゃないの、というご指摘には耳をふさぎます。

 だって、映画でテロップが流れた後におまけのワンシーンがつくこと、たまにあるじゃないですか。ああいうの好きなんです。では、どうぞ。

 カリサが紅の騎士団に戻ってから三週間が経った、ある日の休日、突然アスカルディが訪ねてきた。

 その知らせを受け、カリサが面会室まで駆けつけると、野次馬の山ができていた。

 これをかき分け、覗き見禁止! と睨みを利かせてからばたん、と扉を閉める。

「やあ」

「ルディ!」

 カリサは元気よく飛びついた。久しぶりの抱擁。

「元気だった?」

「うん! ルディは?」

「君の顔をみたから、元気になった」

 微笑みながら言うアスカルディは黒のトップ・ハットに灰色のフロックコート姿で、ステッキを持ち、いかにも紳士然としていて格好いい。

「今日はこれから仕事なんだ。もう行かないと」

「えっ、もう?」

「近くまで来たから、一目君の顔が見たかったんだ。また今度、ゆっくり来るよ」

 がっかりするカリサのまぶたに軽くキスが落される。

 が、行きかけて、「そうそう」とアスカルディはいま思いついたというように振り返った。

「そういえば――この前の手紙で書いていた、君の男性恐怖症を直すのに協力してくれた親切な男、って、誰のことかな?」

「え?」

「いるんだろう? 君の心的外傷トラウマを克服させた男が」

 アスカルディの片目に不吉な星がきらりと輝く。

 カリサは答えかけて、一度開けた口をそのまま閉じた。

「あのう、き、訊いてどうするの?」

「お礼をしないとね」

 ほっとする。胸をなでおろす。カリサはぱっと笑って、

「王子様よ。ご主人さまの兄君の中でも一番仲が良くて、わたしにも色々とよくしてくれるの」

 アスカルディの口角が持ち上がる。

 目の奥には殺伐とした暗い影がうごめいていた。

 しかしカリサはまだ気づかない。

「……へぇ? 色々って、たとえば?」

「差し入れをくださったり、ピクニックに誘ってくださったり、花束を届けてくださったり、図書室で勉強をみてくださったり、それから――むぐ」

 やにわに、口に指を突っ込まれた。

 そこではじめて、アスカルディが猛烈に機嫌を損ねていることに気づく。

 そのまま指で口腔をかきまぜられて、カリサはむせた。咳き込む。なのに、動悸は激しく、息があがっていた。

「私以外と、そういうことをしていたんだ」

 いつのまにか、腰を抱き寄せられて、顎先を掴まれていた。問答無用で、顔を覗き込まれる。

「それで? 王子様にやさしくされて? 男が怖くなくなったってわけね。ふうん。ずいぶん念入りにじっくりと口説かれていたようだけど、もちろん、それ以上、手は出されていないよね?」

「く、口説かれて、なんてないもの」

「世間ではそれを口説いていると言うの」

「で、でも」

 カリサは反論を試みた。

 だが、アスカルディはおもむろにマントルピースの上の置き時計を見て嘆息した。

「だめだ、時間だ。仕方ない、今日はここまで。次に会ったとき、この続きを聞くから。ああそれと、君の一番大事なものもいただくから、覚悟をしておくように。いいね」

 一方的に告げて、さっさと踵を返す。

 暇を告げるキスもなしだ。

 カリサは憤然と、その背に向かって声を張り上げた。

「わたしの一番大事なものなんてとっくにあげているわよ!」

 アスカルディは扉のノブに伸ばした手を空中で止めた。

 ゆっくりと、振り返る。

 氷の微笑。

「……なんだって?」

 カリサは頬を紅潮させ、涙目になりながら、一気にまくしたてた。

「わたしが一番大事なのは、ルディを好きな自分だもん! ルディのことばっかり考える心だもん! もうとっくに――とっくに――全部、あげているもの! 他に大事なものなんてない! あってもあげるよ! ルディが欲しいなら、なんだってーーだって、だって、私が一番大事なのはルディなんだから」

 


                                  これにて本当に終幕


 完結です。

 短期連載でしたが、お付き合いくださいました皆様、ありがとうございました。

 少しでも愉しんでいただければさいわいです。

 さて、2009年も残すところあとわずか。

 毎年そうですが、いいことも悪いこともあった一年でした。来年もたぶんそうでしょう。なので、気負わず、のろのろとでも、物語を綴っていければ、と思います。

 今日という日は、世界平和を祈ります。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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