8. 口説かせてください
ああ、疲れた。
私のストレス解消に巻き込まれた三人のフォローはできたから、そろそろ帰りたいなぁ。帰る?どこへ?ナディアなんだから公爵家へかな。カイルに聞いてみよう。帰り方が分からない。
さて、カイルはどこかな、と振り向くとカイルとシャルルが立っていた。
シャルルの目はなぜかキラキラとしている。
「ナディア嬢、あなたはなんて優しいのでしょう。私はますますあなたが気に入りました。是非、私との婚約を考えて下さい。」
うん。今のところ腹黒さは見えないね。
「却下。」
即答してカイルに話しかけようとするとシャルルが食いついてきた。
「私はあなたがいい。婚約しましょう。」
「先程お断りしたはずです。聞こえませんでした?」
「聞こえました。ああ、ショタ趣味って何ですか?」
あら、ショタって言葉はないのね。
「ショタ趣味とは年下のしかも幼い少年好きという意味です。パパにおねだりして、おもちゃをもらうお子様には全く興味がないと言ったのですよ。」
「パパ・・・成程、私は4歳下ですね。でも年の差は今は大きく見えるかもしれませんが、年を取るにつれ、気にならないものですよね。」
「そうかもね。でも私はずっと恋は年上派なの。年下はお断りよ。」
「まぁ、そう言わずに。少しは私を知ってから返事をしてもらえませんか。私は初めましてなんでしょう。」
おおっと、何か含みがあるね。腹黒説は正しそう。
それにしても、どうしましょうね。
「いかがでしょう。もう少し、私にあなたを口説く機会を頂けませんか。」
機会ねぇ。うーん、あっ、そうだ。メンドクサイ女してみよう。よくあるよね、物語の中での試練的なやつ。かぐや姫だってやっていたもんね。試練ねぇ、うん、テストねぇ・・・そうだ、テストだ。
「分かりました。機会を設けましょう。」
私はシャルルをまっすぐ見て言った。
「三つの課題をクリアーしましたら婚約いたしましょう。
一つ目は二つのお題についてそれぞれ殿下のお考えをそれぞれレポート用紙一枚にまとめて来てください。お題は『浮気について』と『ナディアと婚約したい理由』です。この課題をクリヤーしましたら、私について話します。その話を聞いて思うところをまたレポート用紙一枚にまとめて下さい。それを読んで私が合格と思いましたら、三つ目、私とデートしてください。そこで決めさせていただきます。どうでしょう。やりますか?」
どうだ。面倒くさいでしょう。やめときなー。断りだよね。
「ええ、もちろんやります。ところで、一つ質問です。レポート用紙って何ですか?それが分からないと書けません。」
そうか。この世界にレポート用紙はないのか。
「カイル、この国の書式は何?」
「この国はすべて同じ規格の大きさの紙です。書類もノートも教科書も同じ大きさです。」
「じゃあ、それで。」
「分かりました。約束ですよ。私は頑張ります。」
きれいな笑顔でシャルルは笑った。
うん。あざとい。自分の顔の使いどころを押さえているよねぇ。スンっとした顔でシャルルを見ていたら、シャルルは今度は面白そうに笑った。
「やっぱり、あなたは思った通りの人だ。」
どういう意味かな。含みありだよね。
まぁいいや。疲れたから帰ろう。どこに?ナディアのうちってどこかなぁ。
カイルが知ってるかな。
「カイル帰りたいんだけど、どうしたらいい?」
「馬車が来ているはずですよ。送りましょう。」
「ありがとう。頼むわ。」
カイルに連れられて公爵家の馬車に乗ることができた。
パカランと連れられて、着いた先はお城のように大きくて、ポカーンとしてたら、きっちり髪を撫でつけたおじ様、多分執事ね、と、エプロンを付けたお姉さんたちとお嬢さんたち、侍女?メイド?さん、が出迎えてくれた。うわぁ、ナディアはやっぱりお嬢様なのよね。で、お部屋にドナドナされて、なんだかドレスとか下着とか脱がされて、お風呂で磨かれて、柔らかいストーンとしたワンピースを着せられて、ベット(天蓋付き、クイーンサイズ)に連れてかれ、はい、おやすみなさい。
「ここ、どこ?」
広いベット、天蓋、肌触りの良いリネン、広いすっきりとした部屋。
ああ、そうだ。ナディアの部屋だ。
うん、寝て頭がすっきりしている。今なら、頭が整理できそうだ。
私は気付いたらナディアになっていた。これは前に読んだことある異世界転生に酷似している。私は電車に轢かれて西城リカとしての生は終わったようだ。で、現在はナディアという公爵令嬢。18歳。学園は昨日で卒業したようだ。そして第二王子とは婚約破棄。異世界転生と言えば、何かの物語なり漫画なりゲームなりの世界に入り込むのが定番だ。けど、私には心当たりがない。物語や漫画はだいぶ読んだけど、ゲームはよく分からない。多くは乙女ゲームの世界に転生するんだよね。やったことないけど、友人たちから聞いたところでは、ヒロインが攻略対象と呼ばれる顔の良い男たちを落としていくらしい。まぁ、元気よねヒロインも。こう言った話のヒロインはたいていピンクの髪でかわいい系の小柄女子。身分は男爵や平民。そう考えると、昨日の桃色頭はヒロインだったのかもと思ったけれど、あんな色狂いじゃ違うのかなぁ。
普通は転生すると前世の物語とかゲームをやった記憶でチート的な動きをしてブイブイ言わせて(いつの時代の表現だ)、ハッピーライフをエンジョイできるはずなのだが、うん、全く私には適応されないらしい。
頬をつねると地味に痛い。生きている。
つまり、ここは夢でも何でもない。生きていかなければならない世界なんだ。
ベットの上で胡坐をかいて腕組をして首を傾げていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「おはようございます。お嬢様、起きていらっしゃいますか。」
「はい、起きています。」
「失礼します。モーニングティをお持ちしました。」
三つ編みをした、推定年齢16歳、のメイドさんスタイルの少女がワゴンを押しながら入ってきた。




