6. 婚約破棄です
金髪バカがふっと顔を背け、言った。
「・・・頭でっかちな理屈っぽい女は嫌いだ。」
私は大きく息をわざとらしく吐いて、やれやれと言った顔で話し始めた。
「馬鹿ですか、あなたは。言うに事欠いてそれですか。好き嫌いではない、と言っているのです。
ええ、ええ、そうでしょうね。学園でしたお勉強は女のことだけですものね。あらっ、失礼。ストレートな表現しか思いつきませんでしたわ。まぁ、いいのではないですか。私との縁を切るのであれば、たいして勉強なんてしていなくても構わないですよね。王子という地位にも固執していらっしゃらないのでしょう。あなたは男爵令嬢を嫁に迎えるという。まあ、いいんじゃないですか。好いた相手の為に王子という身分を捨てる覚悟があるのでしょう。男爵家があなたの後ろ盾として、何も効果がないことくらいわかっておいでですよね。
いいですか。人は大なり小なり努力しているんです。私は個人的にはあなたが嫌いでも、あなたの婚約者として恥じなきよう、王子妃としてあなたを支えられるように努力をしてきたんですよ。それが首席という結果です。
あなたの努力の成果は何ですか?
その桃色頭の女性ですか。学力は100位前後でしたものね。
あなたはかわいくて胸さえ大きければ嫁として満足かもしれませんが、国はそんなの求めていません。 考えが足りなければ政治が歪みます。そんな者の為に税が使われるのはおかしな話です。それに、政治が歪んで国が傾けば、その最大の被害者は民です。弱き民が愚かな為政者によって不利益を被るのですよ。あなたは第二王子です。第一王子に何かあればあなたが国のトップとして国政に関わることだってありうるのです。それなのに、あなたのようなバカが立ったら国は滅びます。
あなたは何をこの学園で学んだのです。学園だけではなく幼い頃から優秀な家庭教師の先生方がご指導してくださっていたでしょう。それなのに・・・あなたはひどすぎます。」
多分きっとナディアは努力家で、且つ負けず嫌いだったと思う。じゃなければ、首席なんて取れないよね。ちょっとナディア、あなたのことが分かった気がするよ。このバカより優れていたかったんだよね。意地でも。あら、プライド高かったのね。
金髪バカにやっと言葉が届いたらしい。
「・・・俺が悪いのか?」
「正義だとでも思っていますの?この期に及んで随分おめでたいのですね。」
ふぅぅっと、思いっきり分かり易くため息をついてやった。
あー、言いたいこと言ってすっきりした。
いつも思っていたのよね。借りた本で何故か婚約破棄だっとか言っている男は婚約者じゃない女連れているのよ。完全にお前が浮気していて悪いんじゃないかって思うのに、何故かそいつの方が強く出るの。おかしいよね、浮気男の方が偉そうなんて。まぁ、そんな男との縁が切れて、素敵な男性に溺愛されるから物語的には面白いのだろうけど。
実際同じ立場に立たされて思う。まったく面白くなんかない。私は嫌だ。浮気男が全面的に悪い。
それにね、何か分からないうちに分からない世界に居て、私じゃないけど私な、このナディアになっていて、この先どうなるかも分からない。それがストレスだって言うのに、この浮気男がもっとストレスを与えてくる。ここで解消しないと、ストレスで死んでしまいそうだ。
そう泣きたいのは私なんだよ。
ナディアがたまたま高位貴族で、私がたまたま異世界転生モノを読んでいて、何となく状況を受け入れているから立っていられるだけなんだよ。もういっぱいいっぱい。それなのに金髪バカと桃色頭がストレスを与えてくる。あれ、こいつらがこの私の何だか分からない状況から目を背けるのに役立ってるのか?現実逃避?そう思えば、王子達も悪くない。わけないかぁ。
それに今なら分かる。何で物語の主人公たちが異世界転生をすんなり受け入れていたのか。不思議だったんだよね、ありえない状況を受け入れるなんて。理解できないって思っていたけど、受け入れる以外の選択肢がないんだ。どうやったら戻れるのか分からないし、戻ったとして自分の体があるとは限らない。多分、私は電車に轢かれたっぽいし、ね。
もう疲れたからそろそろ終わりにしたいな。
「私は国の為と思いあなたとの婚約を受け入れてきました。しかし、あなたがそれを望まないのであれば、話は別です。第二王子殿下のたっての希望ですので婚約破棄、謹んでお受けします。よろしいですよね、国王陛下。」
顔は知らないけどカイルが言った方に顔を向けて、よく漫画とかで見る礼を取ってみる。おおっと、体が覚えている。そして全員が私の見た方向に注目し、礼を取った。
「ち、父上・・・。」
ポカンと金髪バカが口を開けている。
「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありませんでした。また、お見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ありませんでした。重ねてお詫び申しあげます。」
陛下は片手を上げ言った。
「良い。皆、顔をあげよ。我が息子とナディアのショーを楽しませてもらった。いいだろう。二人の婚約はここに解消しよう。」
解消だとぉ。甘い!ふざけんなよぉ!!ここまで来たら怖いものなんてないぜ!
とんでもなく美しく見えると思われるスマイルを浮かべ、言った。
「あら、陛下。お戯れを。解消ではございませんわ。第二王子の瑕疵による破棄ですわ。わたくし、王子の行いにとても心が傷つきましたの。父と話し合い、正式に第二王子殿下に慰謝料の請求をさせて頂きます。」
陛下は少し驚いたような顔をしたが、すぐに大声で笑いだした。
「ははははは、ナディアの言うとおりだな。愚息が迷惑をかけた。どうだ、これを機にここに居る第三王子シャルルと新たに婚約してみないか。そこの愚息よりはいいと思うぞ。」
おおっと、そうきたか。でもノーサンキュー。
「ありがたきご提案ですが、わたくしには荷が重いことでございます。謹んでお断りさせていただきます。もう王子はこりごりですの。あら、失礼しました。本音が漏れてしまいましたわ。寛大なお心でお許しくださいませ。」
「こりごりか。だ、そうだ。どうする、シャルル。」
陛下が楽しそうに第三王子を見た。
第三王子シャルルはナディアを見て大きく手を振って言った。
「ナディア嬢、今からそちらに行くから待ていて。」
遠目に見るシャルルはまだ多少の幼さの残る顔だが、将来美男子になることが確約されたような整った顔つきに見える。そして王家特有なのか金髪。かわいらしく笑って、手を振る当たりウサギ系(そんな言葉があるか?)男子のようだ。
「ナディア嬢、王子に懲りているところ悪いが、少しだけシャルルと話してはくれまいか。シャルルがとても貴殿のことを気に入ったようなんだ。」
何だと。モノ好きな!しかも陛下に言われたら断れない。よね?
「・・・はい。仰せのままに。」
「よろしく頼む。さてトールクロスよ。めでたい席でこのような騒ぎを起こして何をしておる。お前たちは別室に来い。」
陛下がさっと手を挙げると騎士たちが金髪バカと桃色頭を連れて出て行った。




