5. 終わりにしましょう
「おいっ!お前ら、いい加減にしろ!俺の話を聞いているのか!不敬だぞ!!そんな陰険な奴だからチェルシーに嫌がらせをしたんだろう。」
金髪バカをガン無視していたら、わめき始めた。
あー、うるさい。
きっと次は桃色頭が言うんだわ。やめて、ナディア様がかわいそうよ、きっとナディア様も自身の行いを反省しているけど謝るのはプライドが許さないのよ、とかなんとか。相手をかばっているように見せかけて、自分を上げて相手を下げる。あれっ、そういう意味では賢いのかしら。他に活かせば大成したかもね。
バカの嫁の何がいいんだか。なぞ、ね。
桃色頭が金髪バカの胸元に頬を摺り寄せ、ウルウルお目目で言った。
「そんなに私の為に怒らないで。ナディア様がかわいそうだわ。ナディア様はあれでも女の子なのよ。大きな声で言われたら体がすくんでしまうわ。そうでしょう。か弱い私みたいな女の子なら。」
「チェルシーは優しいなぁ。あんな女に気を使えるなんて、なんて優しい女なんだ。おい、ナディア。お前も正直に罪を認めろ。優しいチェルシーのことだ、許してくれるだろう。早く、謝れ。」
うん、底抜けのバカだ。ここまでくると、あるある的にも珍しいのでは。
カイルがそっと耳打ちをしてきた。
「ナディア様。二階回廊に国王様、第二側妃様、第一王子、第三王子がいらっしゃいます。」
ふふ、ほうら、やっぱり。大抵居るものなのよ、この手の事件が起きる時には。
第二側妃がいるというってことは夫である国王と息子の晴れ姿を見に来たのかなぁ。あら、かわいそうに。ご愁傷様って事ではないか。どういう子育てしたらこんなバカに育つんだか。親として責任は取ってもらわなければね。
さて、金髪バカの相手もそろそろ終わりにしましょう。
「第二王子殿下、私には殿下の仰ることが何のことか分かりません。私は今日、初めてチェルシー様とお会いしたのですもの。お話ししたのも初めてです。存在は知っておりましたのよ。学園で常に殿下とご一緒でしたもの。でも親交はありませんわ。こう言っては何ですが、私のクラスとチェルシー様のクラスとでは扱う内容の難易度が違いますでしょう。私は他のクラスの方にかまっていられるほど、優秀ではございませんでしたの。まったく接点のない方にどうして嫌がらせなんてできましょう。それに、嫌がらせをする動機もございません。
ええ、賢明な第二王子のことですから、きちんとした証拠があるからおっしゃっているのですよね。そうですわ、証拠をお見せください。疑いようもない証拠であれば、私も認めざるおえないですよね。ふふ、何でこんな簡単なこと、思いつかなかったのでしょう。私ってばバカですねぇ。」
ははは、大根。仕方ないじゃない。今まで学芸会の村人Aしかやったことないんだから。まぁ、いいか。知り合いなんていないし。恥はかき捨てってことで。
「チェルシーが言ったんだ。かわいいチェルシーが嘘をつくわけないだろう!」
ぎゅっと桃色頭を抱き寄せ、腕を大きく振り回しわめき散らす金髪バカ。
「あら、チェルシー様が言っただけで何でも正しいと信じるのですか。仮にチェルシー様が私を殺人犯だと言ったら、殿下は私を処刑されるのですか。証拠も示さず、事の真偽を確かめもせずに。裏付けを取る、なんて、政治の初歩の初歩。帝王学を学ばれているはずの殿下がまさかそんなこと今更言われなくても分かっていらっしゃいますよね。さぁ、遠慮なさらずに証拠をお示しくださいませ。」
「チェルシーの言うことを疑うのか!」
「まさか、初めてお会いした方を信じろとおっしゃるのですか。私はチェルシー様とは初見です。殿下は婚約者ですが、ずっと私を冷遇してきた方に信頼を寄せるのは難しい話です。ですから裏付けとなる証拠の一つや二つ、出してくだされば、誰でもどちらが嘘をついていたか分かりますでしょう。まさか裏付けもなく私を一方的に責めるなんてことは、王族の一人としてできませんよね、お、う、じ、さ、ま。」
ああ、一度はやってみたかった悪役令嬢。扇子があれば完璧なのに!うん。くせになりそう。ほら、あの金髪バカの悔しそうな顔!ふふっ。
「お前は王家を侮辱するのか!!」
「いいえ。王家を侮辱なんかいたしませんわ。現国王様はその見事な手腕でこの国の平和を保ってくださっておりますわ。尊敬こそすれ、侮辱なんてありえませんわ。私が馬鹿にしておりますのはあなただけですわ。」
私がにっこり言うと、金髪バカが目を見開き顔を赤くして叫んだ。
「俺を馬鹿にするのか!」
その通り。
「ええ、バカにバカって言って何が悪いのです。」
「ふざけるな。何様のつもりだ!」
「ふざけているのはあなたの方でしょう。まだお分かりになりませんの?」
「何がだ!!!」
私は大げさに息を吐き出し、言ってやりますよ。ナディア劇場開幕です!って感じかな。
「まずあなたは婚約者である私に事あるごとに暴言を浴びせ、私を貶める発言をした。私は公爵家の者で、父はこの国の宰相ですのにね。そして学園ではその桃色頭のチェルシー様と堂々と浮気をした。学園内では堂々と腕を組み、体の関係まで持つ、深い仲。それだけではなく婚約者である私にドレス一つ贈ることなく、もちろんパーティでエスコートをしたこともない。あ、そうそう王子妃予算ってあるんですってねぇ。私が夜会や公務に出る際のドレスやアクセサリーに使われるものらしいけど、もらったことは一度もないのだから予算丸ごと残っているはずですわね。」
ふふ、当てずっぽうだけど、やっぱりナディアには何もしていなかったらしい。金髪バカの顔色が悪い。王子なのにそんなに顔に出していいのか。予算使っているのね。王子妃予算あったのね。よく物語にあるものね。そして大抵使いこんでいるんだ、嘘をついてね。
うん、続けよう。
「その上、私に婚約破棄だと言う。分かっています?あなたのお立場。なぜ、私とあなたが婚約することとなっているのか。」
あら、キョトンとした顔になっているわ。このバカは考えたこともなかったのか。この世界に一時間もいない私ですら想像できたのにね。
「あなた側妃様のお子でしょう。強い後ろ盾として我が公爵家を王家が望まれたのですよ。側妃様のご実家だけでは後ろ盾として弱いのですよ。だから、公爵家の娘である私があなたの相手として選ばれたのですよ。そこに私の意思はありません。完全な政略結婚です。ですから多少の気に入る気に入らないはありますわ。それらを静かに飲み込んでお互い国の為、夫婦としてすり寄る努力をするものですよね。そして家同士の結びつきで、国家のため尽くすものです。ですから私も意に染まぬ婚約ですが、受け入れました。そしてあなたをお支えしようと考えておりました。たとえ冷たくされようが、浮気を見せつけられようが、です。それが高位貴族、王家の在り方だと思いますのよ。
そんなことも分からないようなのでバカだと言っているのです。」
腰に手を当て高圧的に、そう悪役令嬢的に、ね。




