34. 久々のソフィア
さて、次の日。
カイルに続いてソフィアが訪ねて来てくれた。
「ナディア、久しぶり。それと婚約おめでとう。また王子様と婚約なのね。」
ソフィアはにやにやしながら、私の背中を叩いた。
「久しぶり、ソフィ。元気そうね。ありがとう。シャル君と婚約することにしたの。また王子と婚約なんて私もびっくりよ。しかも年下よ。4っつも。」
私が正直な感想を言うと、ソフィアはケタケタと楽しそうに笑った。
「何、それ。OKしたのはナディアでしょう?」
「ええ。でもずっと断るつもりで行動していたのよ。シャル君いい子だし、私みたいなわけ分からない女と付き合うより、かわいい令嬢と付き合った方がいいと思っていたの。それに私から見たらシャル君は年下すぎるし、ガキにしか見えなかったのよ。お付き合いするなら年上がいいなって思っていたしね。でも、シャル君の押しにうっかりすっかり落とされっちゃったのよ・・・ちょろ過ぎでしょう。心行くまで笑ってちょうだい。」
「ははははは、何、その、うっかりすっかり落とされたって!殿下の粘り勝ちってこと?で、猛攻を受けてるうちにナディアも殿下を好きになっちゃったんだ。確かにちょろいわね!」
ソフィア・・・私あなたのこんなあけすけな性格が好きだわ。きっとナディアも、こんな彼女だからこそ仲よくしていたんだろうね。
「・・・うっかり、ね。だってあんなに男の子から口説かれたことなかったんだもん。それに・・・シャル君、14歳のくせにとても大人びた顔をするのよ。ドキッとするくらいにね。」
「はは、ごめん。バカにしてるわけじゃないの。ナディアの言い方がおかしかっただけ。シャルル殿下との婚約は良かったと本気で思っているのよ。前のと違って評判の良い方だもの。」
「ふふ、ありがとう。私もいい所に落ち着いたと思っているのよ。」
部屋に入ってくるなり、話し始めたソフィアにつき合ってここまで延々と立ち話をしてしまった。
何だか前世を思い出すわね。よく友達と一緒に帰ると、分かれ道で延々と立ち話をしたものだ。また次の日にすぐ会うのに、話すことが尽きなかったんだよね。この世界に来て、ソフィアのような友達ができてよかった。
「ふふ、立ち話もなんだから、まぁ座ってちょうだい。」
「あら、ずっと立ったままだったわね。」
私達がソファに座ると、ハンナがお茶とお菓子を用意してくれた。
「そうそう、相談って何?」
ソフィアが首を傾げた。私は用意していたスケッチを彼女の前に並べた。
「なぁに、これ?」
「下着よ。前世で使っていたのを絵にしてみたの。ねぇ、この世界の女性の下着って酷くない?」
そうなのだ。この世界の女性の下着事情は頂けないのだ。まず、ショーツ。パンツともいう代物は、膝丈まである所謂ズロース、ウエストと裾をゴムで縮めたもので、かぼちゃパンツのような感じだ。しかも麻素材。ちょっとごわつく。そして肌と生地の間に隙間が多いので足がノーパンのようなスカスカさがあって落ち着かない。
で、ブラジャーに相当するものがない。スリップのような薄い膝丈のワンピースのようなものだけ。こちらも麻素材。もう、 麻も涼しくて洗濯を重ねるとそれなりに滑らかだし、洗濯にも強い。まぁ、実用的選択ではあるよね。でも胸元が大きく開くドレスの時につけるものはない。だから屈むと胸の全てが見えるのではないかと冷や冷やする。そもそもノーブラで日中過ごすのが、心もとない。
何故かコルセットはある。よくある紐で絞める奴。えっ、これ拷問って言うくらい締められる。納得いかなくて、何でコルセットを使うのか聞いたら、ウエストを細く締めて、胸の大きさを誇張するためらしい。まぁ、姿勢は良くなるけどね。
もう、この世界が何の物語だか、ゲームだか知らないけど、ずさん過ぎな設定でしょう。そもそも下着まで設定してないかぁ。うん、きっとこの世界は男性の作者が作ったに違いない。まったく、男ならちょっとは見た時に楽しめるように配慮してほしかった。あっ、ということはR18モノではないのかな。それはいい情報かも。
まあ、こんな事情だから、薄手の服を着ると胸の凹凸が服の上からでも分かる。それをリボンやレースで何となく分からないようにしている。
足を見せる文化ではないようで、スカートはくるぶし丈が主流。だけど、かぼちゃパンツ系の下着だから、スカートもふんわりしたものが多い。マーメイドラインのドレスの時はノーパンで着るとのこと。そんなの耐えられない!
私はたまりにたまった下着に対する不満をソフィアにぶちまけた。
ソフィアは苦笑いしながらも、かわいらしく首を傾げて言った。
「うーん、ナディアの言いたいことは分かったわ。でも、私は小さい時からこの下着が普通だったから、ナディアの言うことを聞いても、あまりピンっとは来ていないのよ。だって、下着に疑問を持ったことがないのよ。ナディアの前世の下着事情が違うのね?」
「ええ。はっきり言って転生してこれが一番イヤ。形も素材も何もかも気に入らないのよ。何で麻?肌触り考えたら、綿か絹の方がいいじゃない。それにちっともかわいくない。レースやリボンをつけようよ。あと胸への配慮がなさすぎ。これって角度によっては全部見えちゃうでしょう。恥ずかしいじゃない。もう、ハッキリ言って不快!」
私の勢いに押されたソフィアは、ははっと乾いた笑いと共に言った。
「ええっと・・・ナディアが嫌がっていることは分かったわ。で、どうしたいの?」
「うん。そこで、これよ。この絵にあるみたいな下着を作りたいの。そういう場合どうすればいいのか分からなくて。カイルやアル君に聞こうと思ったんだけど、女性の下着だから、聞きづらくって。」
そう。私にだってそれくらいの気遣いはある。
「ああ、そういうこと。それなら仕立て屋に聞いてみればやってくれるんじゃない?公爵家だからお抱えのテーラーくらいあるでしょう。」
ハンナを見るとこくんと頷いて、部屋を出て行った。
しばらくして戻ってくると、ハンナは一時間程度で公爵家がいつも使っているテーラーが来てくれると報告してきた。さすが、高位貴族。こういうとこが、すごいよね。
一時間もしないうちにテーラーのオーナーとデザイナーがやってきた。
私がイラストを見せながらデザイナーに説明すると最初は首を傾げていたデザイナーが、だんだん話に乗ってきて、最後はこうしたらどうか的な提案までしてくれた。もう、白熱してきた私とデザイナーにソフィアとオーナーは黙って横に座って私たちを眺めていた。
いくつかデザインも決まったところで、ついでにベビードールも注文した。こちらもこんなナイトウエアはないとのことで、一からのデザイン起こしとなった。あのパーティで迷惑をかけたカップルたちの結婚式に贈りたいんだよね。ないなら、なおさら夜の盛り上げに一役買うに違いない。ドレス用にレースはふんだんにあるので、透け感とかかわいらしさとか狙い通りのものを選択できた。
早めに欲しいことを伝えると、乗りに乗ったデザイナーが三日で仕上げると、超特急なことを言ってきた。無理をしないように伝え、できたらまたソフィアと試着会をすることにした。そう、ソフィアとついでにハンナ、リノのサイズでも作ってもらうことにしたのだ。どうせなら感想や意見は多い方がいい。
ああ、楽しみだ。




