33. カイル
私はリオを呼んでもらった。
リオが来るまでの間、カイルにずっと聞きたかったことを口にした。
「ずっと聞きたかったことがあるんだけど聞いてもいい?」
カイルは訝しげな顔をした。
「改まってどうしました?いつものようにずけずけとどうぞお聞きください。」
おいおい、カイルの中の私の評価って・・・まぁ、いいや。そんなものよね。
「金髪バカがあんな色に狂わなかったら、金髪バカの側近としてカイルの能力を発揮していたかった?というか、あいつの側で国政に携わるような仕事をしていたかった?」
うん、あのバカの失脚のきっかけを作ったのは間違いなく私だ。つまり、カイルの将来を奪ったのも私ということだ。だから、原因の自覚のある私からこんなこと聞くのは、聞き辛かったのだ。
カイルは意外そうに目を見開き私を見た。そしてふっと小さく息を吐き出した。
「そうですね。俺はあの方を本気で支えていきたいと思っていました。あの方と初めてお会いしたのが、12歳の時。あの方は第二側妃の子と言う弱い立場にありながら、王子としてこの国を支える一人になるべく頑張っておられました。まぁ、こう言っては何ですがあの方は要領のいい方ではありません。それでもそのできない部分は努力で補うような方だったんです。不器用な方ですがそれを補う者がいれば、あの方の良さを活かした何かができるはずだと思いました。人は良かったんですよ。だからこそ支えていきたいと思っていました。それが学園に入ってから変わった。出会った頃のあの方だったら、婚約者になったナディア様をないがしろにすることはなかったはずです。勉強もあんな底辺に甘んじる方ではなかった。何があの方を変えたのか、今となってはもうどうでもいいことですが、あの方は変わった。少なくとも俺からの苦言を無視する方ではなかった。もう、ダメだなと思い卒業を機にあの方の傍を離れようと思っていました。だから、ナディア様のせいで今のような立場になったのではありませんよ。むしろ、ナディア様のとんでもない事情に巻き込まれて、楽しんでいますよ。」
あらっ、気にしていたこと悟られてる。頭のいい人。それに場の空気も読めるのよね。
「この後文官の試験を受けるの?前に言っていたわよね。家でお兄様の補佐とかは考えなかったの?」
「ええ、そのつもりです。兄には優秀な補佐が既におりますので、俺は必要ではありません。文官なら俺をうまく使ってくれる方に出会えるかな、と思いました。俺は人から能力はあると言われますが、トップに立つ器じゃないですよ。」
「そう。私はカイルはできる人だと思っているわよ。それに柔軟な思考を持ってるしね。」
私を受け入れてる時点で柔軟だ。
「はは、ありがとうございます。」
そうこう話しているとロイドがリオを連れてやってきた。
「カイル、この子が先程から話題のリオ君。リオ君、こちらカイル。第二王子の側近をやっていた過去を持つ人よ。」
「初めまして。執事見習いをしておりますリオと申します。」
うん、言葉が良くなってきてる。ロイド、さすがだわ。
「カイル・ボーンだ。ナディア様とは学園で同級生だった。」
「リオ君、今、庭の薔薇がきれいなの。カイルを案内してくれるかしら。」
リオは訝しげな顔をした。あらあら、顔に感情を出しているようじゃぁ、まだまだね。
カイルは外向きの微笑みを浮かべて言った。
「よろしく頼む。」
「・・・かしこまりました。こちらです。」
リオはカイルを連れて部屋を出て行った。
私はロイドを見て微笑んだ。
「ロイド、ありがとう。リオ君の言葉遣いや所作がどんどん良くなっているわ。」
「いえ、当然のことをしたまでです。リオは一生懸命で教え甲斐があります。」
ロイドは澄ました顔で言った。でも、その眼の奥は優しく温かかった。
「ふふ、リオ君は賢いし努力家なの。磨けば光る原石なのよ。」
「そのようですね。」
私達はお互い顔を見合わせ微笑みあった。
暫くしてカイルとリオは部屋に帰ってきた。
「おかえりなさい。リオ君、カイルにお茶をお願いできるかしら。」
「はい。すぐにお持ちします。」
リオは一礼して、部屋を出て行った。
カイルはソファに腰かけ微笑んだ。
「リオはいい子ですね。ナディア様が肩入れしたくなるのが分かる気がします。」
「でしょう。リオ君はいい子なの。それに、頭のいい子だったでしょう。」
「ええ。殿下とナディア様のデートの様子を聞きましたよ。公園で人目も気にせずいちゃいちゃとしていたとか。かなり殿下が頑張ったんですね。」
「・・・もう、何を話してるのかしら、リオ君たらっ・・・。」
私は赤くなった頬を両手で押さえた。
カイルは目を細めて私を見た。
「それに、ナディア様がリオ達にしたことも聞きました。・・・ナディア様はリオといい、俺といい、いろいろ拾ってきますね。」
「拾うって・・・。」
「そうでしょう。俺やリオの事、放っておけなくなったんでしょう。」
「ええ、まぁ、そうね。」
「はは、お人好しですよね。心配になるくらいに。」
「・・・自己満足よ。それに私はお人好しではないわ。カイルを便利なんて言う女よ。」
「はは、そういうことにしておきましょう。俺もリオが気に入りました。編入試験に合格できるかは分かりませんが、できるだけの教育をしてみましょう。俺も彼ならもしかして・・・と思いましたので。」
「ありがとう、カイル!カイルがついてくれれば百人力ね!」
ノック音がして、リオがお茶を乗せたワゴンと共に戻ってきた。
リオは私達の前にカップを置き紅茶を注いでくれた。中々様になってきている。
紅茶を一口飲むと私はにっこり笑顔になった。
「リオ君、紅茶、美味しいわ。」
「そうだろう。」
嬉しそうに笑って言ったリオはしまったという顔をした後、澄ました顔で言い直した。
「ありがとうございます。ナディア様。」
「ふふ、私と二人の時はラフな言葉遣いでかまわないわよ。でも、言葉もずいぶんきれいになってきたなって思っていたのよ。」
リオは呆れた顔で言った。
「なっちゃん、俺を甘やかしすぎだって。と、いう訳で、ナディア様、私にお気遣いいただきありがとうございます。」
「ふふ、いいわね。そうそう、これからの勉強はカイルに頼んだから。彼が家庭教師としてみっちり鍛えてくれるから、そのつもりでね。」
「カイル様、よろしくお願いします。」
リオはぺこりと頭を下げた。
「ああ、よろしく。手を抜くつもりはないから、そのつもりで。」
「はい!」
うん、リオの未来は一層明るくなったよね。




