31. リオへの提案
アルフレッドはニマニマしながら私を見た。
「ええっと・・・。」
私は顔が赤くなっていくのを感じた。
シャルルはにこっと微笑んで言った。
「もちろん合格だよね、ディアっ。」
うわぁ、圧を感じるよ。こんな時に王子力を発揮しなくてもいいのに。
恥ずかしいんだよ。初恋なんだよ。初彼氏なんだよ。
でも、正直に頑張るのだ。
「・・・ええ。私も、そのぅ・・・シャル君が好き、みたいな・・・。」
うわぁ、かっこ悪い。澄まして言えばいいのに・・・。顔をあげれない。恥ずかしい。あんなに拒否してたのに呆気なく落とされるなんて・・・ちょろ過ぎよ、私。前世からあんなに異性にアプローチされたことなんてなかったんだもん。仕方ないじゃない。焦り?心の中はぐちゃぐちゃだ。
シャルルはそんな私を見てくすりと笑った。だからその余裕は何?
「今度正式に文書で公爵殿に申し込むよ。それまでは婚約者ではなく、恋人ってことで。ねっ、ディア、いいよね。」
だから、何なの。その余裕の笑みは。
「・・・ええ。」
私達の様子を面白い物でも見るようにアルフレッドはにやにやして眺めていた。
「そう、落ち着くとこに落ち着いたんだと思うよ。良かったね、姉さん。」
「・・・ええ。ありがとう、アル君。」
「『ディア』なんて殿下が姉さんを呼んでるから、きっとうまく言ったんだろうなとは思っていたんだ。殿下、姉さんをよろしくお願いします。」
「ああ、大事にするよ。もう、ディアは放さないよ。ちょっとでも手を離すと逃げちゃうからね。」
シャルルは楽しそうに笑った。
数日後。
リオと再び会った。そして、試用期間付きだが、公爵家で住み込みで働きながら、文字などを学べるようにしていく、という環境を用意したことを説明した。そして、この話に同意したリオ君と他三人を連れて、公爵家へ戻った。
「改めまして、私はこの公爵家の長女でナディアよ。よろしくね。これからこの屋敷で働いている人たちを紹介していくから、その中で一番興味がある仕事についてほしいと思っているの。いいかな?」
リオを含め四人は屋敷の大きさに圧倒されたのか無言で頷いた。屋敷では執事長のロイドと侍女のハンナと私でいろいろな場所を訪れ、仕事を説明して言った。
6歳の男の子ロンと4歳の女の子ルルは庭師の老夫婦に懐き、庭仕事をしたいと言った。庭師の老夫婦は息子夫婦と共に住み込みで働いており、二人を引き受けてくれることになった。息子夫婦には8歳になる男の子がいるとのことで一緒に育てていくと言ってくれた。老夫婦も孫が増えたとにっこり言ってくれた。大人からの愛情を知らない彼らにはちょうどいいだろう。
5歳のリノはハンナのような侍女になりたいと言った。ハンナは無表情で妹分として仕込むと言って彼女を引き受けてくれた。ただ、ハンナは19歳と若いので、子育て経験もある未亡人で住み込みで働くベテランの侍女が一緒に面倒を見てくれることになった。
そして残るはリオ。
私はリオとソファに向かい合って座った。
「リオ君。私は一つあなたに提案があるの。ただ、先に聞きたいのだけど、今見た仕事の中にすごく興味のあった仕事はあったかしら?」
リオは真面目な顔で言った。
「俺はどんな仕事でもいい。あいつらが食うに困らないなら・・・どんな仕事でもやる。」
「大丈夫よ。あの子達のことはきちんと面倒を見てくれる人に委ねたから、安心してね。みんな、長年公爵家を支えてきてくれた信頼できる人達よ。最初のうちは、あの子達も戸惑うことがあるかもしれないけど、それは時間が解決すると思うわ。
今まで頑張ってきて、えらかったわね、リオ君。あの子たちの親代わりだったのよね。お疲れさま。これからは、自分の未来のことを考えてもいいのよ。私にリオ君自身の未来を創っていく手助けをさせて欲しいの。いいかな?」
「・・・ありがとう。俺、俺の未来なんて考えたことなかった。」
リオの顔は戸惑いつつも涙を必死にこらえているように見えた。
「余裕がなかったのも無理はないわ。でもこれからは、もっと自分を大事にしてね。でだ、ここで私からの提案があるの。」
「ああ、なっちゃん、何だ。」
「私、リオ君ってとても賢い子だと思うの。ただ環境が恵まれなかっただけで、それを整えてあげれば、あなたの能力はぐっと伸びていくと思うのよ。今リオ君って14歳でしょう。この前の兄ちゃん、シャル君も私の弟のアル君も14歳なのよ。彼らは学園に通っていて、今度2年生になるのね。私、リオ君とその二人はきっといい友人になれるかなって思ったの。できれば学友になれればいいなって。そこで、この屋敷で執事のロイドについて執事の仕事を学びつつ、勉強もして半年後に学園の編入試験を受けて合格して学園に通う。どう、チャレンジしてみない?」
私は考えたんだ。そう、このシャル君やアル君と同じ年にもかかわらず、一回り身体つきの小さい少年、リオの将来について、真剣に、考えたのです。この子は頭の回転もいいし、環境さえ整えてあげればピッカピカに光る宝石の原石に違いないと。シャル君とも仲良くて、この後アル君とも仲良くできれば、将来二人、もしくはどちらかを支えることができる、所謂ブレーンにも成り得るのではないかと。まぁ、リオ君が望めばだけど。ぶっちゃけ、私はリオを気に入っていて、すごく高くリオの才能をかっているのだ。
リオはかなり驚いて、明らかに戸惑っている。無理もない。無茶言ってるよね。
「本気で言っているのか?」
「ええ、本気よ。ただ、これから半年って言っても一から知識を身に着けるには短いし、大変だと思う。それにロイドは厳しいから、仕事を覚えつつ、勉強もしなさいって、かなり無理を言っているとは思うの。だから無理強いはできないと考えてもいるわ。でもね、リオ君に少しでもその可能性があるなら、チャレンジしてほしいの。リオ君の可能性を潰したくない。リオ君は優秀よ。学園で学べば、将来文官として働くもよし、貴族の家で働くもよし、市井で事業を起こすもよし、と沢山の選択肢を得られると思うのよ。リオ君がシャル君たちを支えてくれる未来だってあると思うの。」
「兄ちゃんたちを支える…?」
「ああ、言うの忘れてたわ。髪を染めていたけど、シャル君はこの国の第三王子シャルル殿下ね。」
「王子・・・様?」
「ええ、そうよ。あの子、あなたと同じ14歳よ。態度がでかくて大人びているから、実年齢より大きく見えるかもね。14歳のガキには見えなかったわよね。」
ロイドがこほんと咳払いをした。
あらあら、言葉遣いね。令嬢らしくって事ね。
「こほん、そうね、14歳のお子様なの。アル君もそうだけど、彼らはあなたより恵まれた環境にあるけど、あなたとは違った意味で早く大人になることを強制されたかわいそうな子達でもあるのよ。それは追々分かると思うわ。シャル君はかわいそうなことに、いい子の仮面というか理想の王子様の仮面かな、を被りっぱなしなのよ。この前、リオ君とシャル君のやり取りを見ていて、シャル君が気負わなくっていい相手がいるのはいいなって思ったのよ。あら、話がそれたわね。で、どうかな?チャレンジしてみない?」




