30. シャル君色
あっ、そう言えばシャル君はどうしたんだろう。
きょろきょろと辺りを見渡すと、シャルルは口元を押さえて、頬と耳を赤く染めて突っ立っていた。
どうしたんだろう。まぁ、いいや。
「シャル君、私この靴にしようと思うの。ちょっと隣に立ってくれない?」
シャルルははっとした顔をして、のろのろと動き、隣に立った。
鏡の中の私とシャルルはいい感じの身長差に見えた。私の目線がシャルルの口元より少し上くらいになって、たぶん7~8㎝くらいの身長差になったように思う。
「ねぇ、シャル君。このくらいの身長差だけど、いい感じだよね。」
私が鏡の中のシャルルに微笑みかけると、シャルルも優しく微笑んだ。
「そうだね。白が似合っている。今日の服にも似合うね。それについてる飾りの石が僕の瞳と同じ色だ。」
うわぁ、気付かれた。そう思ったとたんかぁっと頬が熱を持った。
鏡の中のシャルルと目が合うと彼はうっとりと目を細めた。
「あれ、その顔、ディアは分かっていてその靴にしたのかな?」
うう、意地悪だ。しかもかわいらしく首を傾げてやがる。かわいい。あざとい。あざとかわいい。私がぐっと悶えそうなのを耐えていると、シャルルは不敵な笑いを浮かべた。そんな彼もいい。ああ、ダメだ。
「ねぇ、ディア、気付いてる?今のディアのドレスやアクセサリーは僕の色を意識したコーディネイトだよ。君の所の侍女たちの気遣いだよね。その格好で歩いていると、ディアが僕に夢中って言っているようなものだよね。ほら、リオが俺でも分かるって言っていたでしょう。靴まで僕色なんて・・・しかもディアが選んだ僕色、いいね。」
はっ、そう言われればそうだ。私の全身がシャルル色。花畑の住人は頭の中だけじゃなくて見た目までお花畑。
うーん、恥ずかしい。けど嫌じゃない。うわぁ、お花畑化が進んでるよ。
「どうしたの、ディア。」
シャルルが私に顔を覗き込んだ。
「私ただでさえシャル君と靴を一緒に選んでいることに浮かれていて、今日はシャル君と靴を買った記念日ねっなんてお花畑なことを考えていたの。それだけじゃなくて、まさか自分の全身がシャル君色なんて、恥ずかし過ぎるって思ったの。でもそれ以上に嬉しくもあって・・・もうこの靴履かないで飾っておこうかしらってなことまで思っちゃって・・・自分の頭の中のふわふわ感にどうしていいか分からなくて戸惑っているの。」
私は独り言のようにブツブツと言った。
シャルルは口元を押さえて頬をほんのり赤くした。
「・・・この靴にしよう。僕、会計するから、この靴履いて帰ってくれる?」
「ええ。嬉しいわ。大切に使うわね。」
「うん。僕も嬉しい。贈らせてくれてありがとう、ディア。」
「ふふ、シャル君の初めてをありがとう。」
私はぐるぐるな思考から抜け出しニヤッと笑った。
シャルルも楽しそうに返してきた。
「どういたしまして。僕の初めてはディアに捧げるって決めているからね。もらってくれて嬉しいよ。」
「ふふ、相変わらずエロガキね。言い方に含みを感じるわ。」
「だめ?」
首を傾げて聞くシャルルはかわいい。こいつ自分の顔の使い方をよく知っている。あざといよ、シャル君。事実、私が落ちてる。
「だめよ。そう言うの聞いた女の子が勘違いするわ。」
「ディアにしか言わないよ。」
「それでもダメ。私が勘違いするわ。それに、とってもかわいく見えちゃうんだもん。」
「はは、勘違いしていいよ。ディアなら大歓迎だよ。」
「もう、シャル君がかわいいと女の子が群がっちゃうでしょう。そんなの嫌よ。」
私はプイっと顔を横に向けた。
この私のかわいい人を、他の女の子に見せてはいけないと思ってしまった。・・・やっぱり私はお花畑の住人だ。しかも心の中とはいえ、『私の』なんてちゃっかりするっと言っているのだ。・・・重症だよね。
シャルルは目を見開いていた。
「えっ、今なんて言った?えっ、それって・・・妬いてくれたの、ディアが?」
「・・・内緒。」
言えるわけない。恥ずかしくなってきて顔が熱い。
シャルルは目を見開いていたが、今度は目を細めて口元を緩めた。
「はは、かわいい、ディア。安心して僕はディアだけだよ。」
そしてシャルルは破顔した。うわぁ、きれい。男の子なのにきれいだよ。それにかわいい。私の一言でこんな笑顔を見せてくれるなんて・・・嬉しい。
「さぁ、帰ろうか。」
「・・・ええ。」
私はふわふわした気分のまま上機嫌なシャルルに連れられて、家路についた。
「全く、姉さんは、何をしに街に行ったの?」
アルフレッドの呆れた声が部屋に響いた。
そう帰宅してすぐに、アルフレッドと執事長のロイドにリオ君たちのことを話した。もちろんシャルルにも同席してもらった。
アルフレッドははぁっと分かり易くため息をついた。
「姉さんは殿下とデートに行ったんじゃないの?」
「ええ、そうよ。」
「それが、どうしてこういうことになっているの?」
「リオ君たちの事情を知ったら放っておけなくて、かな。」
「お人好し過ぎない?」
「シャル君にも言われたわ。」
「シャルル殿下はどうお考えですか?」
シャルルは苦笑いを浮かべた。
「僕は普通こういうことはしない、とディアには言ったよ。でもディアは納得しなかったんだ。それに、リオと短い時間だけど一緒に行動してみて、何年か後のリオを見てみたくなったんだ。他の三人はどうだか分からないけど、リオはかなり賢いよ。今は学がないから何もできていないけど、きちんと教育を受けたら、かなり伸び幅のあるやつだと思う。平民だけど、あのまま野垂れ死にさせるのはもったいないんじゃないか、と思わせる奴だよ。」
「アル君、私、あの子達をここで住み込みで働かして、読み書きとか教えたい。リオに関してはもっと高度なものまで学ばせてやりたいの。だめかな・・・。」
私は必死に訴えてみた。
アルフレッドははぁっと再びため息をつくと執事長のロイドに言った。
「ロイドはどう思う?」
ロイドはしばらく考えた後に口を開いた。
「確かに前例はありませんし、孤児ということでリスクもあります。しかしながら、お嬢様がこれだけ言うのです。受け入れる方向で考えてもよろしいかと。ただし、どんな子か分かりません。試用期間を設けてみたらいかがでしょう。そこで、その子達のひととなりを見定めては。もしその時に、我々が無理だと判断したならこの話は無しということで、お嬢様にも納得していただきます。どうでしょうか?」
「あらっ、それはいいわね。」
私はにっこりと微笑んだ。アルフレッドは私を見て諦めたように苦笑いを浮かべた。
「・・・姉さん、今回だけだよ。我が家だって、無制限に子供の面倒を見れるほどの余裕はないし、冒険はできないよ。今回だけ、その子達を受け入れよう。ロイドの言うように試用期間を設けさせてもらう。それで、ダメだと判断したら、姉さんもすっぱり諦める。いいね。すっぱりと切り捨ててね。」
「ええ、ありがとう。アル君、ロイド。」
シャルルもにっこり微笑んだ。
「良かったね、ディア。」
「ええ。」
私もにっこりと微笑みを返した。
アルフレッドは私たちのやり取りを見て、ニヤッと笑った。
「ところで今日は殿下とはどうだったの、姉さん。」




