27. 初めてを君に
頭を撫で続けるとシャルルはくすっと笑って言った。
「ディアも物好きなんだよ。僕と一緒だね。それに、僕の初めてをディアにたくさん捧げたよ。恋も、告白も、デートも、手を繋いだのも、キスも、抱きしめたのも・・・全部、ディアが初めてなんだ。僕の初めてを奪ったんだ。責任取ってよね。」
「・・・エロガキ。言葉選びが淫靡だわ。」
シャルルは、顔を上げた。そして私の目を見て微笑んだ。
「これからも僕の初めては全部ディアのものだよ。」
「・・・やっぱりエロガキね。私、告白されたのも、口説かれたのも、異性に抱きしめられたのも、デートしたのも、手を繋いだのも、キスをしたのも、全部シャル君が初めてなの。これからも私の初めてをシャル君が貰ってくれる?」
「・・・。」
シャルルはぎゅっと私を抱き締め、再び私の肩口に顔を埋めた。あら、耳が赤い。
「ディアの方が言い方が扇情的。僕の心をぎゅうって掴んで揺らして・・・僕を試してるの?」
「あらっ、試すなんてできないわ。男性経験皆無なのよ。シャル君を喜ばせる様なテクニックは持ち合わせていないわ。期待されても、できないわ。無理よ。」
「・・・ほら、ディアの方が言い方がえっちだよ。男性経験なんてなくていいよ。僕はこれ以上妬きたくない。」
「あらっ?妬くようなことあったかしら?」
「・・・ディアと話すカイル殿に少し、ね。」
「カイルは私の事情に巻き込まれた哀れな人よ。」
「・・・気心が知れた仲のいい二人に見えた。」
「ふふっ。どうしよう。なんだか嬉しい。」
「意地悪だね、ディア。」
「ふふ、そんな私がいいのよね?」
「そうなんだ。僕は物好きなんだ。」
「ふふ、ありがとう。」
シャルルは再び顔を上げ、私を真剣な顔で見つめた。
「ディアとずっと一緒に居たい。婚約してくれる?」
もう何度目だろう、こうして婚約を申し込まれるのは。諦めないでくれて、ありがとう。
「いいえ。今すぐには無理よ。ペタンコ靴がないもの。」
うう、また、素直じゃない。私のかわいげはどこに旅に出てるんだ。
そんな私に、シャルルは楽しそうに微笑んだ。
「はは、すぐに買いに行こう。僕からの初めての女性への贈り物だ。」
「あら、またシャル君の初めてを貰えるのね。でも、私も初めての好きになった人からの贈り物だわ。」
「僕もディアからの初めてを貰えるんだね。一緒だね。」
「そうね、一緒ね。一緒なの、嬉しいわ。」
おかえり、素直でかわいい私。
「僕もだよ。」
私をぎゅっと抱きしめ、シャルルの声が弾んだ。
それにしてもシャルルの腕の中はほんのり温かくって、いい香りで、居心地がいい。くせになりそうだ。
頬をシャルルの胸元に摺り寄せると、後ろからわざとらしい咳払いが聞こえた。
「あー、こほん。そろそろいいか?人が集まってきているよ。」
リオ君が真っ赤な顔をして、私たちのすぐそばに立っていた。
あっ、忘れてた。ここ公園だった。しかもリオ君も一緒だった。うわぁ、リオ君の顔が赤い。完全に見られてたわね。それにここは子供向けの展望台に続く道。ふと少し先を見渡すと、子供の目を隠し、私たちをガン見するお母さん、おばあちゃんたちがいるではないか!
うわぁ、恥ずかしい。いくら自分のことで手いっぱいだったからって、シャルルとの二人の世界に没入し過ぎ!
「リ、リオ君、見てたわよね・・・?」
「そりゃぁね。ここ公園だし、ここを教えたのも俺だしね。」
さっきのこそこそ話はこれかー!!
私はぱっとシャルルから離れ、両手で顔を覆った。穴があったら入りたいってこういう時に使うんだね。
するとシャルルは私の腰に腕を回しぎゅっと引き寄せた。
「逃げたらだめだよ、ディア。」
揶揄うように言うシャルルはとてもキラキラしている。やだ、キラキラで眩しい笑顔だわ。もう、これって、恋愛フィルターの効果?私、シャルルに溺れすぎぃ!恋に溺れる日が来るなんて・・・考えもしなかったわ。あっ、考えてできるモノじゃないか。やっかいね。気付いたらずぶずぶとハマっているんだもの。町中のバカップルを笑えない。それこそ金髪バカを多少見方を改めてやってもいいかも。
うーん。恋かぁ。恋ねぇ。
それにしても恋って厄介ね。でもいいか。溺れている私もまんざら悪くない。
そうこうと私が頭の中で ぐるぐると取り止めのないことを考えていると、シャルルが顔を覗き込んできた。
「どうしたの、ディア?」
「・・・シャル君がキラキラ素敵に見えるの。今までより笑顔が眩しいのよ。これって恋愛フィルターがかかっているからなのかなぁって。私どれだけ、シャル君に溺れているのかなぁって・・・そんな私に呆れているけど、嫌じゃないの。不思議ね。・・・そんなことをぐるぐる考えてたの。」
私は独り言のようにとつとつと言った。
シャルルは口元を押さえ、頬をほんのりと赤らめた。
「・・・ディアって、ディアの言う『ぐるぐる』と考えている時にどうしたのって聞くと、考えてること全部独り言のように言うよね。すごく素直なディアだよね。『ぐるぐる』なディアは僕を喜ばせる天才だよね。」
私は目を丸くして、シャルルを見た。やだ、私、全部言ってた。心の内をあけすけに恋愛対象であるシャルルに言ってた。そして相手から指摘されるまで気付いていなかった。恥ずかし過ぎぃ。私は両手で顔を覆った。見せる顔がない。
「なっちゃん、かわいいな。なっちゃんはさ、最初から兄ちゃんへの気持ちがダダ洩れだったよ。」
リオ君は楽しそうに笑った。
「あげないよ。」
シャルルも楽しげだ。
「いらないよ。なっちゃん、完全に兄ちゃんに夢中じゃん。」
「ははっ、そうだよね。」
何だ、二人のその余裕すら感じる会話は!
私がこんなに動揺してるというのに・・・落ち着け、落ち着け、さぁ、落ち着いてナディア。
ふぅっと息を吐くと少し動揺が収まった気がした。




