25. ちょっとのズル
リオ君は大聖堂などを回った後に丘の上にある公園に連れて来てくれた。展望台からは街が一望できて、遠くの山並みも見えた。
「気持ちのいい所ね。」
「そうだね。」
私が展望デッキっぽいところで景色と心地の良い風を楽しんでいる間、少し離れたところでシャルルとリオは何やらひそひそと話していた。本当に仲良しさん。顔が自然と緩んだ。
彼らをぼんやり見ていると、振り向いたシャルルと目が合った。
するとシャルルは私の元の歩いてきて手を差し出して言った。
「あちらにいい所があるらしいんだ。行こう、ディア。」
私はなんだか手を乗せるのが当然の行為に思えてきて、自身の手をシャルルの手に乗せた。この世界になれてきたのかも、と、考えていたら、またもやするっとシャルルは手を滑らして恋人つなぎをしてきた。そして、ぎゅっとした。
やだ、やっぱり手馴れてる。誰とやって磨いた技術なんだろう。何だかムカつく。ん、ムカつく?なんで?ん-。
「どうしたの、ディア?難しい顔してるよ。」
シャルルが心配げに私の顔を覗き込んできた。
「んー、なんかシャル君手を繋ぐの手馴れてるなぁって、指も自然に絡めたり、ね。どこの令嬢と手を繋いで腕を磨いたのかなって思ったら、ちょっとムカついたのね。でもなんでムカつくのか分からなくて・・・だって、手慣れてるわよね、シャル君って。」
シャルルはキョトンとした顔になった。あれ、私、変なこと言っていないよね?あれっ、シャルルは嬉しそうだ。何で?
「こうやって手を繋いだのはディアが初めてだよ。他の女性と手を繋ぎたいと思ったことがないからね。」
あれっ、そうなんだ。私だけかぁ。ふふ、私だけね。嬉しい。えっ、嬉しい?何だ、嬉しいって。
うーん、分からない。うん、あとで考えよう。
「ねぇ、ディア。ディアの望む身長差ってこれくらいかな?」
シャルルは花壇の縁、多分5㎝くらいの所に乗って言った。
「少し違うわね。あまり今と変わらなく感じるわ。」
「そう。じゃぁ、これくらいかな?」
シャルルは小さい子用に作られた展望デッキへと向かう階段の一段目に立った。少し低めに作られた段差は10㎝くらいだろうか。
「あっ、こんな感じ。」
そうそう頭一個分とは言わないけれど、私の目の高さが相手の顎か首元くらいがいいなって思うのよね。シャルルを見上げるとばっちり目が合った。あっ、きれいな青色。シャルルはかすかに微笑んでいたが、すぐに切なそうな表情になり、切なそうなのに目の奥に熱がこもっていて、何でか目が離せなくなった。
じっと見つめていると、シャルルは優しい声で囁いた。
「ディア、背伸びできる?」
「ええ。」
私は操られるかのように、シャルルの片腕を掴み、背伸びをした。シャルルはもう片手を私の肩に置くと見つめる私の顔にシャルルの顔を近づけてきた。あと数cmというところで目を伏せながら、シャルルは言った。
「好きだよ、ディア。」
そして優しくシャルルは自身の唇を私の唇に重ねた。多分それはほんの数秒であったと思う。
ゆっくりと離れていきながらシャルルは目を開け、くすっと笑った。
「目を閉じて、ディア。」
また、まるで催眠術にでもかかったように言われるがまま、私は目を閉じた。あれ、何で私は目を閉じたんだろう。それにこの先に起こるであろうことを期待している?えっ、期待?何を?
先程より少しだけ長い間押し当てられた柔らかい何かは、私より少しだけ高い体温で、その温かさが離れていく時に少しだけ寂しいと思ってしまった。えっ、寂しいって何?
シャルルがどんな顔をしているのか気になって、目を開けると、まだまだ近くにシャルルの顔があった。半分伏せられた目がとても色っぽい。やだ、14歳でもこんな顔をするのね。すごく、男の顔。
「まつ毛長いのね。」
「ディアもね。」
「色っぽいわ。」
「ディアもね。」
「私にキスしたの?」
「うん。僕のファーストキスとセカンドキスをディアに捧げたんだ。」
「私のファーストキスとセカンドキスはシャル君のものになったのね。」
「うん。嫌だった?」
「そうね。・・・離れていくのが寂しくて嫌だったわ。」
私が顔を赤らめながらも、頑張って告げると、シャルルも頬を染めた。
「ディアとキスしたくて、少しズルをした。許してくれる?」
「そうね、ズルいわ。そんな顔されたら許すしかないじゃない。」
「ありがとう、ディア。僕、今、成長期だからあと数年したらこの身長差になるよ。ごめん。あと数年が、待てなかったんだ。」
あれっ、それって、私とずっとキスしたかったってこと?ええっと、それって、嬉しいかも・・・嬉しい?何だそれ?
「・・・私の理想を尊重してくれたのね。」
「うん。でもね、ディア。僕たちを外側から見ている者にしかこの身長差が絵になるって分からないよ。キスしている当事者が分かるのは、触れた唇の柔らかさとその体温や息遣い、そして自身の鼓動の速さだけじゃないかな?」
シャルルはかすかに微笑んで言った。
「言われてみればその通りね。どう見えるかなんて、当事者には分からないわね。かなり第三者からの視点で私は理想を語っていたのね。」
だって仕方がないじゃないか。男性経験が皆無なんだから。本やテレビドラマや映画で見たキスシーンが参考なんだ。某映画の最後なんて、いろんな映画のキスシーンだけが繋がれたフィルムが流されて、主人公が涙するんだ。私も号泣した。あれでも、キスシーンは男性のセクシーな顔と身長差が素敵だった。
「初めてのキスはどうだった?僕はとても幸せな気持ちと、ディアを愛しいという気持ちで満たされたよ。」
私は首まで赤くなるのを感じた。でもここまでシャルルが言ってくれたんだ。私も誠実に答えなければいけないだろう。
「ん、私もよ。」
「私も?」
「ん、私もドキドキして逃げ出したくなる以上に、幸せで離れていって欲しくないって思ったわ。それに・・・それにシャル君にキスされて、嬉しいと思ったわ。何故かしらね。」
「ディア、僕はあなたが好きだよ。会ってまだ短いけど、本気で好きだよ。キスで僕と同じ気持ちを感じてくれたなら、ディアも僕を好きって事じゃないかな。違う?」
ええっと、そう考えると辻褄が合うわね。手を繋いだのは私だけって聞いて嬉しいのも、キスされて嬉しいのも、令嬢A子を止めてしまったのも・・・なんだ、私がシャルルをいつの間にか好きになっていたからじゃないか。なんて答えはシンプル。でもいいのか、それで。
「ん-・・・。」
私が答えに詰まっていると、シャルルは階段から降りて私の両肩を掴んだ。
そして私の目を切なげにじっと見つめた。私もシャルルを静かに見つめた。
「嫌なら避けて。」
そう言うとシャルルは目を伏せ顔を近づけてきた。私も誰に何を言われるでもなく目を閉じた。三度目の私の唇に触れる、柔らかく少しだけ私よりも体温の高いそれは、二度目の時より少しだけ長い間私の唇に重ねられ、小さな吐息を残して離れていった。私は思わずシャルルの胸元のシャツをぎゅっと握りしめた。シャルルはくすっと笑った。
「どう?これが今の身長差。さっきのディアの理想の身長差の時と違っていたかな?」
「ええ、さっきよりも少しだけ長く感じたわ。」
シャルルはきまり悪そうな顔をし、頬を赤らめた。
「・・・離れがたくって。そうじゃなくて、嫌だった?」
「いいえ。避けなかったわよ。それに自然と目を閉じて、その・・・ええっと、シャル君からのキスを期待したわ。」
私は更に顔を赤く染めあげ、正直に答えた。シャルルが本気でぶつかって来てるんだ。私も本音で誠意をもって答えるべきだ。
シャルルは目を丸くして、口元を押さえた後、微笑んだ。
「それって、僕を好きだってことだよね。違う?」




