24. 頑張れ
ん、何でこんなに手馴れてるんだ。恋人つなぎってやつじゃないか。指が絡むって、なんだろう・・・相手を近くに感じるっていうより、触れられている感が半端ないというか・・・とにかく恥ずかしい。
それにしても、シャルルの流れるような動きは、誰とこんなことをして上手くなったんだ。私は、面白くない感情でいっぱいになった。
「はは、そんなにいやそうな顔しないでよ、ナディア。あっ、僕、ナディアのことをディアって呼んでいい?リオがなっちゃんって呼んでいるのがちょっと妬けるんだ。僕だけが呼ぶナディアの愛称が欲しいんだ。」
とても機嫌良さげにシャルルは笑った。
私はシャルルの眩しい笑顔にあてられて、頬を少し赤らめぼそっと言った。
「シャル君の好きにして・・・。」
シャルルは顔を赤らめて、口元を押さえた。
「なんかいいね、その言い方。すごく官能的・・・。」
「・・・エロガキ。」
「はは、ディアらしい反応だね。」
リオは他の三人を先に帰すと、私達と街を歩き始めた。
「リオ、ディアは初めての街歩きなんだ。王都を訪れた誰もが行くようなところを案内してくれないか。」
「うーん、それなら大聖堂とか旧市街とか行くか?」
「ああ、いいね。任せるよ。」
「じゃ、こっちだ。」
リオはにっこり笑って、通り過ぎる場所場所のちょっとした情報を話していった。あの親父はいつも店ではかみさんを怒鳴っているが、家ではかみさんに怒られてばかり、だとか、あの店の娘は出戻りだけど美人で三人の男がせっせと口説いている、とかだ。細かすぎて、一般的な情報ではないけど、却って面白かった。
この子は頭の良い子だなって思う。それが環境が悪くて、今日を生きるのに必死になっている。しかも他の三つの命を守ろうとしている。こんないい子が大変な思いをしているなんて、いい社会なわけがない。かといって、私に何ができるというのだろう。私には彼を助けるだけの知識も力もない。無力だ。
シャルルが心配げに私の顔を覗き込んできた。
「どうしたの?疲れた?」
あら、優しい子。私はその時感じた自分の無力さについて話した。シャルルは相槌を打ちながら、途中上手く言葉が出なくなる私の話を、根気強く聞いてくれた。リオも黙って聞いていた。
「という訳で、自分の無力さに、どうしようもない悲しさと情けなさを感じていたの。私、この年までそんなことを考えたこともなかったんだよね。子供が誰でも子供らしく笑える世の中って、それこそ当たり前って言うか、疑いもしなかったの。前の世界でいた国は子供がその日に食べるものに困ってるって多分ほとんどなくて、まぁ、遠い国ではあったけど、それは遠い国のことであって、そんな子がいるって実感がなかったんだ。
という訳で、自分の見識の狭さとか無力感に、落ち込んでいたんだ。
疲れたわけではないの。心配してくれてありがとう。」
「ねぇ、ディア、やっぱり僕と結婚しない?僕の妻として、僕と一緒にこの国の政治に関わっていこうよ。そうすれば少なくとも今よりは子供に優しい国が作れるよ。僕を利用すれば確実にディアの声は国政に届くよ。」
私はむっとした。
「それは嫌。シャル君を利用するのは嫌。」
シャルルは嬉しそうに微笑んだ。
「ディアなら、そう言うと思ったよ。じゃぁ、これならどう?僕はディアが好きでディアを喜ばせたいし笑顔が見たい。だから、ディアの為にディアの望みをかなえたい。ディアの望みが子供の幸福な生活なら、僕がそうなるよう頑張るよ。そんな僕を傍でディアが支える。ディアが隣にいてくれるなら僕はすごく頑張れるからね。どう?」
私は驚いてシャルルを見た。私を喜ばせるために頑張るって言ってくれた。笑顔が見たいって。何だろう、ドキドキする。うーん、この感情は何なんだろう。動悸が激しいし、そして嬉しい。すごく嬉しい。ああ、どうしたんだろう。どうしたいんだろう。
シャルルが私を見てにっこり微笑んでいる。えっと、何か言わなきゃ、だよね。
「・・・シャル君がすごくいい男に見える。キラキラだわ。」
あっ、いくら焦っていたとはいえ、なんてことを言っているんだ。落ち着け、私。
ほら、リオが呆れた顔してる。
シャル君は口元を押さえて頬が少し赤いわ。赤い?あれっ、照れてる?かわいいじゃない。あれ、耳も赤い。うわぁ、かわいい。かーわーいーいー!私はたまらずシャルルの耳を指先でつついた。
「赤いわ。かわいい。」
シャルルはプイっと顔を背けた。
「・・・見ないで。」
「ええ。」
やだ。本当にかわいい。
にこにこしてシャルルを見ていると、リオがじとぉっとした目で見てきた。
「なっちゃん結構酷いな。」
「ん、酷い?なんで?」
私は見たまんまを言っただけだ。しかも正直に、だ。
「男心は繊細なんだ。もう少し考えてやれよ。」
何だとぉ、14歳のくせに!
「思ったことをそのまま言っただけじゃない。しかも、かなり正直によ。」
リオははぁっと大きく息を吐いた。
「兄ちゃんが不憫に思えてきた。」
「リオ、分かってくれるか?」
シャルルがリオに向かって縋るように言った。
「ああ、兄ちゃんも大変だな。」
「そうなんだ。だけどそんなディアがいいと、思うんだよ。」
シャルルがはぁっと息を吐いた。リオは呆れ顔で言った。
「兄ちゃんも大概だな。でもなっちゃんがいい女って言うのは分かるよ。まぁ、頑張れ、兄ちゃん。」
「ああ、ありがとう。頑張るよ。」
何だ、このやり取りは。内容はともかく、シャルルトリオは馬が合うようだ。何よりリオと話すシャルルは、片から力が抜け、少年らしい。中々いいじゃないか。
「ふふふっ・・・。」
「何がおかしいの、ディア?」
「リオと話すシャル君が年相応に見えるわ。」
「それはちょっと複雑だね。僕はディアに男として見て欲しいんだけどな。」
「いいと思うのよ。たまには肩の力を抜きなさいよ。」
「はは、いつもそれを言うね。」
「シャル君はいつも気が張っていて、笑顔が嘘くさいのよ。でも今は、本音でしゃべって、心から笑って・・・とても素敵よ。キラキラしているわ。」
私がにっこり微笑むと、シャルルは目を丸くして、意外そうな顔をした。そしてふぅっと小さく息を吐くと、困ったように笑った。
「僕はそんなディアがいいと思ってしまうんだ。僕の方が分が悪いね。」
リオはシャルルの背をポンポンと叩き、首を横に振った。
「俺は応援しているよ。」
「ああ、ありがとう。」
二人は顔を見合わせはぁっと小さく息を吐いた。
あら、仲良し。私はにっこり微笑んで二人を見ていた。




