2. あるある知識でカマかけてみよ
うん。裏切らないなぁ。
大体バカやってのけるのは側妃の子で甘やかされていたか、出来の良い兄弟と比べられてきた劣等感満載の子なんだ。やっぱりねー。
となると、金髪バカに寄り添っている桃色女はこの場合ヒロイン、と言っても腹黒系だろうなぁ。
「金髪バカ・・・あら、失礼。王子殿下の横にいる桃色頭はどなた?」
公爵令嬢っぽく言葉遣いを少し変えてみよう。それっぽいって多分大事だ。
「桃色・・・いえ、チェルシー・バスク男爵令嬢です。」
ほら、やっぱり下位貴族。大抵男爵令嬢よね。
「そう、王子殿下との関係を教えて下さる?」
「・・・。」
「関係は?」
圧強めにカイルに問いかけていると、さんざん無視され続けた金髪バカが叫んだ。
「さっきからお前らは何をごちゃごちゃと言っているんだ。だから根暗なお前は嫌なんだ。それに比べてチェルシーは愛らしいなぁ。お前も少しはチェルシーを見習ったらどうだ!」
桃色頭の中味も桃色お花畑らしい。
「トールさまったらぁ、そんなこと言ったらいけませんわぁ。ナディア様も女の子なんですからぁ。」
うん。裏切らないクオリティ。
甘ったるいしゃべり方で上目遣いで金髪バカの腕に体を摺り寄せた。
「そうか。チェルシーは優しいなぁ。」
ほほう、胸元の広く開いたドレスを着た桃色頭。腕にぎゅっと押し当てると胸の谷間が強調されているらしく、それを見下ろし鼻の下を伸ばす金髪バカ。
おおっとこれはもしや・・・ふふ、いいもの見つけたかも。カマかけの価値あり。
「そちらの女性は王子殿下の浮気相手ということでよろしいですか。」
「浮気相手ではない!恋人だ!!」
やっぱりバカ。
「そうですか。婚約者が居ながら他の女性とお付き合いするなんて、しかも王子自ら恋人だと言う。随分この国は自由奔放な国なのですね。まぁ、まぁ、婚約者の前でそんなに体を密着させて、胸を押し当てて・・・婚前に肉体関係、あら、はしたないですね、深い男女関係もありなんですね。なんて自由なんでしょうね。」
金髪バカはみるみる顔が赤く染まっていく。ほうらね、あるある的によくあることだもんね。わっかり易ーい。
「何を言うんだ!俺とチェルシーはそんな関係ではない!」
あら、持ち直した。
「そ、そうよ。あるわけないでしょう!」
桃色頭も慌てて言った。
もういっちょカマかけてみようかな。
「あら、失礼。それなら問題ないですね。」
「何がだ!」
「あら、ご存じでしょう、王子殿下。王家に嫁ぐ女は婚前に乙女かどうか検査がありますでしょう。その桃色・・・いえチェルシー様が乙女なら何の問題もありませんね。」
「えっ、そうなのか?」
「当たり前でしょう。万が一王家以外の血が入ったらまずいことくらいお分かりでしょう。」
嘘です。はったりです。だってこの世界のこと何にも知らないのよね。でもよくある設定だから、さも知っているような顔で言ってみました。王子の婚約者だからそれなりにありそうに聞こえるよね。
ああ、分かり易い。二人とも青い顔して気まずそうにしているよ。
「あら、お二人とも顔が青いですわ。何か後ろめたいことでも?」
「あ、あるわけないじゃない。」
桃色頭はひくついた笑顔を浮かべていた。
「ごめん、チェルシー。俺、知らなかった。」
私も知らないわよ。やっぱりバカだけど、妙に素直ね。口元を押さえて金髪バカが言うと、焦った桃色頭がかぶせるように言った。
「な、何を言ってるのよ、トール様ったら。はは・・・。」
「あらっ、大事なことですよね。王家だけじゃなくても他の家に嫁ぐときには必要なステップですよね。乙女であることは大事なのですわ。初婚なら特にね。再婚なら別ですけどね。チェルシー様は初婚でしょう。ばれたらまずいですよね、王子以外の男とも関係を持っていたなんて・・・。」
「なんてことを言うのよ!!」
目をきぃっと釣り上げて私を睨む桃色頭。あら、かわいい顔でもこうなるとみにくいのね。
うわぁ、口で勝てなそうだと思ったのかなぁ。桃色頭は金髪バカに泣きながら抱きついた。いやぁ、いつでも泣けるってある意味チート能力よね。
「酷いわ、ナディア様ったらぁ。私にトール様を取られたからってぇ。私が男遊びをしているみたいに言うなんてぇ。私はトール様一筋なのにぃ。」
「チェルシー・・・。」
うーん、なんだかなぁ。芸がないって言うか、オリジナリティに欠けるというか・・・もう一押しいっちゃおうかな。
「えーと、そこのあなた。そう赤髪の。それからそこの茶髪の方。そうそう、あなたです。それからその白いスーツの方。はい、あなたです。お三方こちらに来ていただけます?ああ、婚約者もいらっしゃるならその方もご一緒にどうぞいらして。」
呼ばれた者は怪訝そうな顔をしているが、私の位の高さから断れないようで、渋々前に出てきた。
「何をやろうって言うんだ、ナディア!」
桃色チェルシーに抱きつかれた金髪色ボケは怒りマックスで怒鳴りつけてきた。チェルシーは見られていないと思ったらしくニヤッと口の端をあげた。
おおっ、これもあるある、だね。
でも、ナディア、トールクロス、チェルシー、カインという名前に心当たりがない。私の読んだ小説や漫画以外ということなのかなぁ。分からないけど、取り敢えず、よく分かってはいないがこの体の主『ナディア』が不当な扱いを受けているようなので、彼女(いや、私か)の名誉のために闘っておこう。
「いえ、チェルシー様が見て下さればすぐ分かりますわ。ねぇ、チェルシー様。」
ぐっと金髪バカの胸に顔を押し当てていた桃色頭は振り向いて三人の男たちを見た。
男たちは既に顔が青い。
彼らの婚約者の子達はいい子に違いない。みんな婚約者である男を心配している。
桃色頭は目を丸くして言った。
「えっ、なんで?」
「あらっ、覚えていらっしゃったのね。ああ、そこの、こそこそ出て行こうとしているあなた。あなたもこちらへいらして下さい。」
ひっそりと会場を出ようとしていたオールバックの男は、会場中の視線を集めていることに気付き、すごすごと前に出てきた。
四人の男たちは皆、顔が青い。当たり、だ。
「さて、彼らの共通点はお分かりかしら、チェルシー様。」
「し、知らない。」
「ふふ、お分かりかしら、とお尋ねしたのですけど、知らない、ですか。おかしいですね。一番分かっているはずですのに。まぁ、女性の一端にいらっしゃいますチェルシー様からは言い辛いですかね。いいわ。私から言いましょう。」
男たちは青く焦った顔でこちらを見た。




