18. 結婚の条件
淹れ直してもらったお茶をコクっと飲んだ。
うん、美味しい。
「ええ、そうね。あなたを認めたのは確かよ。だからこそ、婚約はできないわ。いい子なんだもん、シャル君は。」
「いい子ではダメなの?ナディアは結婚相手に何を求めているの?」
「それね。さっき考えて見たんだけど、どうしても結婚しなければならないのなら、最低条件は何かなって。ほら、あの金髪バカと結婚するかもしれなかったでしょう。夫婦となれば、それなりの触れ合いをしなければならなくなるわよね。で、金髪バカとそういったことをするって想像してみたんだけど、抱きしめられたら鳥肌立つし、キスをされたら吐くかもだし、その先となったら舌嚙んで殺人犯になったほうがましかもと思うのよ。だから、政略結婚で心が伴わないとしても、最低限キスが嫌じゃないといいなと思うのよ。吐かなければ、最後まで行けるかなって思うのよ。」
シャルルは目をぱちくりとさせた。
「随分現実的なんだね。それにハードルが低くない?」
シャルルはくすくす笑った。
「ねぇ、ナディア。僕と試してみない?」
「何を?」
「ん、キス。」
「・・・エロガキ。」
「エロガキ?・・・まぁ、いいや。どう、試してみる?」
シャルルは人差し指を自身の唇に当て、蠱惑的に微笑んだ。
「だめよ。私も夢見る乙女なの。ファーストキスは、私が少し背伸びして、背の高い彼が少し屈んでするのよ。絵になるでしょう。シャル君は私と同じか、シャル君が少し高いくらいの背でしょう。このシチュエーションは無理よね。」
私は言っていて頬が赤くなるのを止められなかった。
シャルルはキョトンとしてナディアを見た後、楽しそうに笑った。
「ははは、ナディアってかわいいよね。初心って言うの?顔、真っ赤だよ。」
私はぶすっくれて顔を背けて言った。
「仕方ないじゃない男性経験がないんだもの。」
「西条リカの時も?」
「そうよ。前に居た世界では結婚は30代前後だったの。それに女子高、女子大とずっと女ばかりの学校に行っていたのよ。男性と触れ合う機会もなければ、出会いもなかったの。彼氏もいなかったし、単なる耳年増なの、私は。」
「耳年増?」
「そういう男女間のアレコレは友人からたくさん聞いただけってこと。実体験はないのよ。初心でごめんね。」
私はやけくそ気味に答えた。
シャルルはくすっと笑って言った。
「僕は嬉しいかな?僕もそういった意味では耳年増だね。だって、そうでしょう。閨教育を受けているから男女間の行為は知っているよ。でもさぁ、女は香水臭いし、耳障りな甘い声ですぐまとわりつこうとしてきて、うざったいじゃないか。触れたいなんて思ったことが今までなかったんだ。僕の初めては全部これからなんだ。だから一緒だね。」
そう言って曇りない年相応の笑顔を浮かべたシャルルは目に優しくない程の眩しさだ。
かわいい・・・。やばい、すごくかわいい。もう絆されちゃってもいいかも。思えばリカの時もナディアになってからも、こんなに男の子に請われたことなんてなかったよね。うわぁ、どうしよう。・・・いやいや、ダメでしょう。おーい、私、落ち着いて。
こんないい子には、かわいい、いい子をよ。うん、そうだよ。この子の為にも私じゃだめだよ。
私はいざとなったらお一人様でも大丈夫。だって公爵家よ。金持ちよ。私一人くらい嫁かず後家でも食わしてくれるわよね。うん、大丈夫。
「そうね。一緒ね。だからこそ、大事になさい。未来のあなたの奥様の為にね。」
「うん、ナディアに全て捧げるよ。」
「そじゃないでしょう。シャル君にあった女の子を選びなさいって言っているのよ。それは私じゃないと。」
「ううん、僕が選んだのはナディアだよ。他はいらないよ。」
「もう、平行線ね。どうしたらいい、カイル、アル君?」
横に投げちゃえ。
カイルは顎に手を当て暫く考えた後、口を開いた。
「一度デートでもしてみてはいかがです?まだ知り合って間もないのですから、お互いよく知らないでしょう。一回デートしてお互いを知る努力をしてから、答えを出してはいかがですか?確か二番目の課題に合格したら、次はデートでしたよね。」
アルフレッドも頷いた。
「そうしなよ、姉さん。」
シャルルはパンっと手を叩いた。
「いいね。僕とデートしようよ。」
「ええっと・・・。」
私は思わぬ提案に狼狽えた。だって、デートなんてしたことないんだもの。
そんな私の心の内を知らないシャルルは私の顔を覗き込んで最上の笑顔で言った。
「僕とデートしよ、ナディア。」
「・・・ええ。」
しまった。思わずOKしちゃったよ。
「やったぁ。じゃぁ、僕、一度帰って着替えてくるね。また午後に迎えに来るよ。街歩きしようよ。そういう格好しておいてね、ナディア。」
嬉しそうに満面の笑みでシャルルは言った後、スンっと表情を無くして更に言った。
「あ、そうそう、デートだからカイルとアルフレッドはついてきちゃだめだよ。」
シャルルはそう言って家(ああ、城か!?)に帰って行った。
「カイル、アル君、どうしよう。思わずOKしちゃったよ。」
オロオロ狼狽える私を二人は興味深げに見てきた。
「へぇ、ナディア様でも狼狽えることもあるんですね。俺は殿下は優良物件だって言ったじゃないですか。殿下をある程度知ってから判断するのも悪くないですよ。それに、ナディア様、結構気に入っているでしょう、殿下のこと。」
カイルがそう言うと、アルフレッドも頷いた。
「気に入るって大事じゃない?それに行ってみてだめだなって思ったら断ればいいじゃないか。案外、楽しいかもよ。」
「うん。そうね。嫌だったら断ればいいのか。そう思うと気楽ね。で、街歩きって何するの?私が読んだ物語たちだと、屋台で食べ歩きして、アクセサリーとか買って、なんかのトラブル、ひったくりとか誘拐とかにあって、カフェでケーキ食べたりしてたと思うのよ。」
「まぁ、トラブルはそうないでしょうが、そんなものですよ。」
「ふーん、服は平民チックなのがいいのかなぁ?」
「そうですねぇ。侍女に相談したらいいでしょう。」
「ああ、執事長と侍女長に言ったらいいよ。俺が言うよ。」
アルフレッドが頷いて、言った。
「頼むわね、アル君。」
ああ、何とかなりそうだ。




