17. いい子にはいい子を
「あの、ナディア?読み終わっているよね。」
深く考えごとに沈んでいたところ、シャルルが声を掛けてきた。
私はカイル達のレポートの紙を渡し、読ませた。
「どうかな?僕は合格かな?」
「今ね、その事を考えていたの。このレポート、私的には結構嬉しかったのね。私の境遇はかなり信じ難いことだと思うの。それなのにそれを全面的に信じ、受け入れた上で、婚約したいって言ってくれるあなたは貴重だわ。しかも、ずっと素直に本音で書いてくれた。だからね、私も誠意をもって答えるべきだと思うの。」
私はお茶を一口、口に含んだ。
「ねぇ、カイルはそれ読んでどう思った?」
カイルはふぅっと小さく息を吐いて言った。
「シャルル殿下は実は結構やんちゃな方なんですね。俺の抱いていた印象より、ナディア様の腹黒ボンボンという方が合っていますね。でも、殿下が優良物件ということには変わりはありませんね。いや、より強く思いますよ。あなたの状況をすべて受け入れてくれているんです。希少ですよ。最優良物件ですよ。」
「ねぇ、アル君はどう?」
アルフレッドは口元に手を当てて言った。
「俺も同意見だね。姉さんが結婚したいなら、殿下からの求婚は悪くないよね。」
私もふぅっと小さく息を吐いた。
「そうよね。結構な優良物件よね。」
シャルルは立ち上がり、にっこり笑って言った。
「じゃあ、婚約してくれる?」
私はスンっと表情を消して答えた。
「いや、しない。」
シャルルは困惑しきった顔でナディアを見た。
「えっ、なんで?優良物件なんでしょう。」
「そうね。優良物件よ。金髪バカに言いたい放題言った女は嫁にしたいかわいい女ではないでしょう。あんな婚約破棄されるような女、この先まっとうな嫁ぎ先があるとは思えないわ。だから、本来ならシャル君からの求婚はありがたいのよね。
でもね、シャル君はいい子なのよ。あざとくて腹黒って言うのは、まぁ王子の持つ必須スキルかなって思うのね。それをマルっと含めてみても、あなたいい子なのよね。
昨日今日と三枚、ああ五枚か、読ましてもらったけど、それらからあなたの今までの努力とか伝わってきたわ。それにその手。剣も結構頑張っているわよね。シャル君は表で見える部分は、飄々と言うか余裕ぶっているというか、そんな感じだけど、実は努力家で真面目君よね。
だからね、そんないい子には私のような訳の分かんない女より、かわいらしいお嬢さんと幸せを掴んだ方がいいと思うのよ。どうかな?」
私はもう一口、お茶を飲んだ。
シャルルは椅子に座り、同じようにお茶を飲んだ。
「そう、やっぱりナディアは僕を幼子のように扱うんだね。僕はもう14歳だよ。ただでさえ王子という枷は自由がないんだ。僕はそのことに文句があるわけではないけど、一生を共にする伴侶くらいは自分で選びたい。普段外でも気を張っていて、家では政略婚で得た心の通じない伴侶に気を使ってって僕の安らげる場所がないじゃないか。確かに僕はまだ14年しか生きてはいないよ。でもその中で初めて僕は女性に惹かれたんだ。そうじゃなければ婚約してほしいなんて言わないよ。だから、かわいいいい子なんていらない。ナディアがいい。」
「そう。でもね、もうちょっと言うと前いた世界では二十歳の女が14歳の少年に手を出すって犯罪に近い行為だったの。その倫理観が残っているし、なんかね。カイルも分からない?あなたが12歳の子と結婚しろって言われたら、ロリコンみたいで背徳感を感じない?」
「そうですねぇ、背徳感はあるかもしれません。すぐに手を出すわけではないので、相手の子が16歳くらいになったら俺は22歳です。アリですよね。その頃なら堂々と手を出せるんじゃないですか?」
「あら、そう言われればそうね。16歳と22歳、ありね。」
「僕が16歳になると、ナディアは20歳。良くない?」
「体年齢的にはそうね。」
うん、今の年齢的には無しだけど、あと何年かしたら中坊もいっぱしの男になるんだよね。だからこそ、私じゃかわいそうよね。
「やっぱり、他のいいとこのお嬢さんを掴まえなさいよ。いいとこの、擦れていないかわいい子の一人や二人いるでしょう。ねぇ、カイル。」
「・・・まぁ、いるでしょうね。」
「だったらね。あなたみたいないい子、そういうかわいい子をお嫁さんもらって支えてもらって、幸せになりなさいよ。私みたいなのじゃなくて、ね。」
「僕が幸せを掴むならナディアとがいい。ナディアは充分かわいいよ。僕のことは迷惑だろうに、なんだかんだ言って相手してくれてるし、僕の幸せの為に助言までくれているんだ。お人好しだよね。それに、僕に素のままでいいなんて言ってくれたのはナディアだけだよ。素の僕は・・・決して誰もが望む王子様ではないよね。誰もががっかりするよね。
でも、ナディアは違うよね。最初から僕に期待していないからって言うのもあるけど、そのままの僕を受け入れてくれている。というより、素の僕しか知らない。僕はナディアにずっと傍にいて欲しいよ。」
「ああ、それは気の毒よね、王子様って言うのも。本性さらして生きていけないなんて。私の前では本性丸出しでいいわよ。今更よね。それにカイルやアル君の前でもね。王子って言うのも大変ね。まだ14でしょう。その年からそんな肩に力を入れていたら、早くにハゲるわよ。」
「ハゲ・・・ははは、あなたは本当に面白いですね。やっぱり僕はあなたがいい。」
シャルルは裏表ない笑顔を見せた。
かわいい・・・。
うーん、絆されては駄目よね。かわいい、は、結婚相手に望むものではないね。きっと・・・。
「私はあなたにとって優良物件ではないわ。むしろお荷物ね。」
「お荷物なんてありえないよ。ねぇ、ナディア。ナディアの婚約者に求める条件って何?僕はちゃんと課題に取り組んだよ。ナディアもそれを評価してくれているよね。」
シャルルは身を乗り出して聞いてきた。
うん、なかなか粘るよね。何でかなぁ。自分で言うのもなんだけど、私ってかなり胡散臭い女だと思うのにね。それがいいなんて、この子も変わりものなのかな。元のナディアならよかったのにね。彼女もいい子だったと思うから。
私はお茶をもう一口、飲んだ。あら、冷めてきているわ。
ハンナに視線を送ると、全員のお茶を取り換えてくれた。




