15. 内訳話
私はあのパーティの日に床に突っ伏している最中にナディアの中にいることに気付いたこと、自分は西城リカという、こことは全く違う世界に住んでいた20歳の学生であったこと、ナディアとしての記憶がないこと、この世界は前に居た世界で読まれていた小説か漫画、もしくは遊ばれていた乙女ゲームの世界っぽいこと、などすべてを飾りのない言葉で話した。
シャルルは呆気にとられたような顔でポカーンと私を見た。
まぁ、そうよね。
「はい、以上です。では、思うところをまとめて来てね。」
「ああ、はい。私を騙そうとしているわけでも、揶揄おうとしているわけでもないですよね?」
「ええ。」
「カイル殿は受け入れているんですよね。」
カイルはこくんと頷き言った。
「すべての辻褄が合うので。」
「アルフレッド殿は?」
「殿下、アルフレッドでいいですよ。私も私の知る姉上ではないと思います。ですから姉さんが別人というのは納得がいくんです。それに、姉さんの知識はここでの物とは異質です。」
アルフレッドは真っ直ぐシャルルを見て言い切った。
「記憶がないのに、あのパーティで大立ち回りをしたのですか?」
「ああ、先程も話した通り、前に居た世界でこういうのを題材にした小説や漫画がいっぱいあったのよ。私のいた世界では、異世界転生とか転生とか言われてたの。で、たいてい浮気しているくせに悪びれないバカ高位貴族が、頭の悪い女抱えて、公の場で、婚約破棄だぁとか言うの。で、それを言われている婚約者がたいていきつめの美人で、あることないことを言われるのよ。悪役令嬢とか言われて断罪されるのよね。悪役令嬢は見た目はきついけど、いい子が多かったかな。
ねっ、ここまで聞いてあの時のシチュエーションっぽくない?
でもね、ナディアとか金髪バカとか桃色頭の顔に記憶がないのね。だから、私の読んでいない本か遊んだことのないゲームの世界っぽいの。つまり私の知っている世界に転生したわけではないらしいの。でもね、転生を自覚した途端、破滅一直線、なんて嫌でしょう。だからね、その手の話によくあること、つまり『あるある』を適用させてみることにしたの。
例えばね、ヒロイン、主人公はピンク頭のかわいい系小柄女子で、誰から見てもいい子で秀才か、腹黒で利己的バカかの二択だったの。まぁ、今回の場合金髪バカにくっついていた時点で腹黒ヒロインだと判断したの。で、カマかけたらその通りだったわけ。
それから途中でカイルを引き入れてから、必要な知識を聞けて、それを参考に乗り越えたのよ。結果オーライってやつね。
私、死ぬのも嫌だったし、何よりあの訳分からないまま終わるの嫌だったんだよね。せめて、ここがどこだか、自分に何が起こっているのかぐらい知りたいじゃない。」
「カマかけて、あれですか。度胸ありますね。すごいですよ。ますます、あなたへの興味がわきました。」
「そう。でも女の相手は面倒なんでしょう。もう、やめたら?」
「ははは、そうですね。私の周りに来る女性には辟易しているのは確かです。下は0歳から上は25歳くらいまで、ひっきりなしに婚約話を持ち込まれる。お茶会でも夜会でも学園でも、まぁどこでも私を見て群がってくる。そして我先にと自己アピールです。あのエネルギーを他のことに使えばいいですのにね。でも、私は王子でしょう。面倒だから蹴散らしてしまいたいんだけど、それやっちゃうと、王族のくせにとミチミチ言われるんですよ。そうなると無下にはできませんよね。幼い頃から女性はか弱いのだから、優しくしなさい、と言われています。でもね、本当にか弱いんですかねぇ。疑問です。
でも、あなたは別です。面白いと女性に対して初めて思いました。」
「ああ、毛色の変わったオモチャだから?」
「最初はそう思いました。見たこともないびっくり箱のようなオモチャ。でも、今はあなた自身に興味があります。
私が何の鎧もつけず素で書いた『浮気について』を読んでも、そのまま受け取ってくれた。ただ普通に接してくれている。それってレアですよ。特に女性では初めてかも。たいてい王子らしくないとか、幻滅したとか言われるんですよ。結局、彼らは私じゃなく、王子を見ているんですよ。何でしょうね、王子様らしいって。私は私でしかないんですけどね。」
「ふふ、あなた、その方がずっといいじゃない。まぁ、立場的に王子の仮面を常時被らないといけないのでしょうね。でもね、私の前ではその仮面取っていいわよ。つくろう必要はないわ。最初から、あなたのこと腹黒ボンボンって言っているでしょう。
そのままじゃぁ、疲れるでしょう。自分を押さえて、いい子ちゃんの仮面を被りっぱなしじゃぁ。大変ね、王子様って言うのも。」
シャルルはポカーンとした顔で目をぱちくりとした後、またまた腹を抱えて笑い出した。
「ははは、ありがとうございます。そうさせて頂きます。」
「そう。言葉遣いも砕けたものにしては、どう?」
「ははは、分かった。次もまた書いてくるよ。週末まで待てないから、すぐにでも持ってきていい?」
「すぐっていつよ。」
「明日の朝にでも。だめ?」
シャルルは両手を後ろに回し、こてんと首を傾げた。
うわぁ、あざとい。自分の顔の使いどころをよく分かってらっしゃる。
「あなた、結構計算高いわよね。」
「はは、大抵これでみんなお願い事を聞いてくれるよ。」
「そうでしょうね。ちょっとかわいいとか思っちゃった。ガキらしくて。」
「ガキって・・・僕、あなたに求婚しているんだけど。」
「さっきも言ったでしょう。中味は20歳だって。あなた14歳でしょう。六つ下となればガキで充分じゃない?考えても見なさいよ。あなたから六つ下だと8歳よ。8歳の子に欲情しないでしょうし、そもそも恋愛対象ではないでしょう。そういうことよ。」
「まぁ、8歳の女の子に何の感情もないね。でもさ、もう僕は14歳だよ。お望みとあらば子供だって作れるんだ。大人の端くれに入れてくれてもいいんじゃない?」
「子供って、このエロガキが。まぁ、いいわ。明日ね。いいわよね、カイル、アル君。」
カイルは頷いて言った。
「そうですね。明日は歴史とダンスの予定ですが、どちらも私が担当するつもりだったので何とでもなります。」
アルフレッドもこくんと頷いた。
「あのさぁ、ずっと気になっていたんだけど、アルフレッドが弟だからいるのは分かるよ。でもカイル殿との関係は?」
シャルルが首を傾げて聞いてくると、カイルは慌てて言った。
「ああ、毒食らわば皿まで、と言ったところで、何でしょうねぇ、巻き込まれただけというか、そんな感じなのでナディア様とは何の関係もないのですよね。成り行きで家庭教師とかスケジュール管理みたいなことをしていますね。」
「そうね、歩く便利帳みたいな感じよね。私、この世界の知識ほとんどないから、助かるわぁ。便利よね、カイルって。」
「もう少し言い方があるでしょうに。でもその通りかと。」
「ふふ、これからもよろしくね。頼りにしているわよ。」
「あー、はいはい。こちらこそです。」
二人のやり取りを黙ってみていたシャルルは、何かをブツブツ言って、何かを呑み込んだ。
そして王子然とした顔で言った。
「何となく理解したよ。それではまた明日お願いします。」
「ええ、お待ちしていますわ。シャルル第三王子殿下。」
ナディアは立ち上がり、美しい礼をした。
シャルルは苦笑いをして言った。
「はは、ナディア、その呼び方は固いよね。僕のことはシャルって呼んでよ。」
「そう。分かったわ、シャル君。アル君とお揃いってことで。」
「シャル君かぁ、新鮮だね。」
「ふふ、いいでしょう。明日は王子の仮面をおうちに置いてらっしゃいな。」
「うん、そうするよ。」
爽やかに笑ったシャルルは機嫌よさそうにナディアの手を取り、その手の甲にチュッとキスをした。
ナディアは慌てて手を引っ込め、もう一方の手で押さえた。そして頬も耳も首も真っ赤に染め上げ、ナディアは明らかに狼狽えた顔でシャルルを見た。シャルルはキョトンとした顔でナディアを見ていたが、口元を押さえほんのり頬を赤らめ、顔を横に向け目を逸らした。
カイルとアルフレッドは顔を見合わせた。
「・・・落ちたな。」
「ええ、姉さんやりますねぇ。」
二人は生温かい視線で二人を見たのだった。




