13. 女友達
「ねぇ、カイル。ナディアに友人はいたのかしら。」
私は素朴な質問をカイルに投げてみた。ナディアは大人しい子だったみたいだけど友達の一人くらいいたんじゃないかなぁって、昨日の夜、思ったのよね。気付くのが遅くなっちゃった。
「ええ、確かいつも一緒に居た伯爵令嬢がいましたね。」
「その子に会いたいんだけど、どうすればいい?」
「そうですね。普通はお茶会にお誘いするんではないですか。すみません。女性同士の交流について詳しくないんですよ。」
「そうね。分かるわ。女慣れしていたらカイルはここに居ないでしょうね。そういう方面の期待はしていないわ。安心して。どうやって誘えばいいのかしら?」
「そうですねぇ、普通は手紙でお伺いを立てますね。」
「そう、その方に手紙を書くわ。ところで、手紙はどう書けばいいのかしら?」
「ああ、そうですね。そこからですね。この機会にちゃっちゃと手紙の書き方をマスターしてしまいましょう。」
そう言ってカイルは手紙の書き方や、マナーを教えてくれた。
うん、情緒はあるけど、面倒ね。メールや電話で、お茶しよう、OK、ってすぐ会えないのが不便。カイルに明日会えるかなって言ったら、普通は無理です、と軽くあしらわれてしまった。時間の流れがゆっくりね。電気がないんだから家電が電話がない。電気って素晴らしい発明だったのね。
ナディアの友人はソフィアと言い、ガルシア伯爵家の令嬢らしい。
二人が一緒にいるところをよく見かけたとカイルが言っていた。彼女以外には特に親しい友人はいないのではないかということだ。うん、ナディアは想像した通り、交流関係が狭かった。
ソフィアとはすぐに会うことができた。
「無事、婚約解消おめでとう!見ていてハラハラしちゃったけど、あのバカと縁が切れてよかったわね!」
そう言うと、ソフィアは私をぎゅっと抱きしめた。
あら、意外。てっきりナディアの友達だから大人しい子かと思っていたわ。思った以上に元気な子だった。
「ナディアが元気そうでよかった。あのバカが婚約破棄だ、って言いだした時はどうなるかと思ったのよ。助けたかったけど、一人で解決しちゃうんだもん。すごいわ。」
ソフィアも金髪バカをバカと呼んでいる。私の見立ては正しかった。
「あら、カイル様ではないですか。何故ここに?」
ソフィアが険のある物言いになった。
カイルは胸に手を当て、静かに頭を下げた。
「ガルシア伯爵令嬢、お久しぶりです。今日はナディア様にお茶会に同席するよう言われました。」
ソフィアが困惑してナディアを見た。私は不敵な笑みを浮かべ、楽しそうに言った。
「私が呼んだのよ。カイルはあの金髪バカと縁を切って、今は私に協力してくれているの。」
「ふーん、そう。でも、どうしちゃったの、ナディア。話し方もそうだけど、なんか違うわよね。あのパーティでのナディアなんてまるで知らない人みたいだったわ。」
ソフィアはそう言うと首をこてんと横に傾げた。ナディアとカイルは顔を見合わせ苦笑いをした。
「ねぇ、ソフィア。あなたから見たナディアってどんな子だったの?」
ソフィアはキョトンとした顔をした。それはそうね。当たり前の反応よ。ナディアがナディアについて聞いたんだもの。
「ふふ、おかしなナディア。まぁ、いいわ。答えてあげる。私の知るナディアは口数は少ないから大人しい子に見える子だったわ。実際は芯のしっかりとした負けず嫌いな気の強い子よ。バカな婚約者の婚約者はやっぱりバカだって言われないように、首席をキープしていたし、バカから何を言われても俯くことはなかったわ。そう、大人しく見えるだけで、言葉は結構辛辣だったわね。でも優しい子よ。お互い本が好きで、よく同じ恋愛小説を読んでは、感想を言い合ったりしていたの。バカと婚約を解消したいけど、家族や側妃様のことを考えると言い出せないってよく愚痴っていたわ。自分より、周りの人のことを考えちゃうのよね。優し過ぎるのよ。」
ソフィアは頬に人差し指を当てると、どこか遠くを見ながら話した。
この子は本当にナディアと仲が良かったみたい。いい子だわ。
ナディアが首席をキープしていたのは、やっぱり金髪バカが原因だったのね。金髪バカに自分の優秀さを見せつけるように分かり易くアピールしていたんだね。
ちょっと怖いわ、ナディアってば。大人しい女程、内面のドロドロさが半端ないわ。ん、ドロドロじゃないか、メラメラにしておこう。闘志がメラメラってことで。
「あなたとナディアの関係は?」
ソフィアはやはりキョトンとした顔でナディアを見た。
うんうん、その反応、当然よね。
「もう、今日はどうしたの?大丈夫?」
「お願い。教えて欲しいの。」
少し言葉を崩してナディアが言うと、ソフィアは苦笑いを浮かべた。
「おかしなナディア。私は王家主催のお茶会であなたと知り合って、学園に入るまではお手紙のやり取りを時々するぐらいだったわ。学園に入学して同じクラスになってからは、本が好きって言う共通の趣味もあって一番の友達になったのよ。ふふ、私の親友は私のことを忘れてしまったのかしら?」
茶目っ気たっぷりに話してくれるソフィアはとてもかわいい。
うん、これなら話しても大丈夫そう。私は決意を固めた。
「ソフィア、これから私は大事なことをあなたに話そうと思うの。」
そう言ってカイルとソフィアを庭の東屋に連れて行った。東屋にはお茶会用にお菓子や軽食が用意されていた。ハンナがお茶を入れてくれた。うん、いい香り。
さて、頑張りますかぁ。
「実は私はナディアではないの。」
「はぁ?」
「ああ、見た目というか体はナディアよ。でも中味というのかしら精神と言えばいいのかしら、それは全く違う世界で生きていた西城リカという全くの別人なの。」
困惑というかあっけにとられた顔のソフィアに包み隠さず、今まで起きたことをすべて話した。
カイルにも話してあり、この世界で生きるための知識を得ることに協力してもらっていることも話した。
「ええっと、カイル様はこの話を受け入れているのですか?」
「はい。まぁ、これだけ人が変わっちゃっているんで、この話がしっくりくるというか説得力があるというか、そんな感じで今は新ナディア様って思っています。」
カイルははっきりと意見を述べた。新って何?
「言われるとそうね。あのパーティのナディアは知らない人みたいだったもの。うん、きっちり理解したわけではないけど、納得はしたわ。うん、そうよね。」
ソフィアは強張った顔ながら私の話を受け入れてくれた。
ナディアの友達がいい子でよかった。
「受け入れてくれてありがとう。私とも仲良くしてくれると嬉しいのだけど・・・いいかな?」
私が恐る恐る聞くと、彼女はにっこり笑って言った。
「もちろんよ。改めてソフィア・ガルシアよ。ソフィアもしくはソフィって呼んでね。」
「いいの?こんな胡散臭い女なんだけど・・・。」
「ふふ、ここまで話してみてあなたのことを好きになったの。こんな言い辛い事、話してくれてありがとう。あなた、結構いい人よね。」
「えっ。」
「だって、そうでしょう。黙っていても何も困らないでしょうに。学園も卒業したんだし、ナディアの交遊範囲なんて狭いんだし、誰も中味が変わっているなんて気づかないわよ。なにも馬鹿正直に話さなくてもねぇ。カイル様もそう思いません。」
カイルもこくんと頷いて言った。
「そうですねぇ、その通りです。馬鹿正直、言い得て妙です。」
「ふっ、二人とも失礼ね!」
私が口をとがらせて言うと、ソフィアは楽しそうに笑った。
「ふふふ、あなたを何て呼べばいいかしら?ナディア?それともリカ?」
「・・・ナディアで。・・・ありがとうソフィ。」
「ふふ、ナディア。これからよろしくね。ついでにカイル様も。」
「はい、ソフィア嬢、こちらこそです。私のことはカイルと呼び捨てで、言葉ももっと砕けて頂けると嬉しいです。」
「ふふ、カイル。私もソフィと呼んでね。」
「ええ、ソフィ。」
何だか二人の間で話がまとまったらしい。
リカのいた世界や、学園でのナディアについて話していたら、あっという間に時間は過ぎていった。
そう言えばソフィにも聞いておかなければ。
「今週末、第三王子に会うのだけど、どんな人か知ってる?」
「第三王子?シャルル殿下ね。殿下はあなたの元婚約者よりずっと評判がいいわよ。学園に通われているんだけど、成績優秀で人当たりも良いし、誰にでも優しくて、人望もあるわ。それに何よりあのお顔でしょう。人気もかなりあるわね、特に女生徒のファンはたくさんいるわよ。」
誰にでも優しい?胡散臭さ100%ね。
「ふーん、カイルも似たようなこと言っていたわ。」
「そうですよ。殿下はまだ14歳ですが、14とは思えないほどの人格者であり、才覚をお持ちです。あなただけですよ。殿下を腹黒なんて言うのは。」
カイルは呆れたように言って、ナディアを見た。
「ええっ、腹黒だなんて、殿下はそんな方ではないと思うわよ。まぁ、直接話したことはないけど。」
ソフィアも意外そうに言って、ナディアを見た。
「そう?あの子かなり腹黒な坊ちゃんよ。」
「ふふ、ナディアは面白いことをいうのね。まぁ、直接会えば分かることじゃない。会うんでしょう?あれ、何で会うの?」
「・・・プロポーズされてるの。断ったけど、しつこく食い下がってきたから課題を課すと言ったのね。面倒くさいからと断ってくると思ったのに、意気揚々と受け入れてくれちゃって・・・嫌がると思っていたのに、あの子。今、思うと失敗したかも。」
「あの子って殿下は14歳だけどね。どんな課題なの?」
私は課題について細かく話すと、ソフィアはケタケタとお腹を抱えて笑い出した。
「あー、苦しい。何があったか絶対教えてね。」
こうしてソフィアとのお茶会は楽しく終了したのでした。




