12. 弟
食事についてお願いをした私に、アルフレッドはにこりと微笑んで言った。
「いいよ。昼は学園に言っているから無理だけど、朝と夜は一緒に食事をしようか。朝は、俺は学園に行くから、少し早い時間だけどいいかな。」
「ええ、構わないわ。嬉しい。ありがとう。」
私がにっこり笑うと、アルフレッドはほっとしたように笑った。
「ねぇ、前の世界について話してよ。」
「いいわよ。アル君は何を聞きたい?」
「アル君って・・・まあ、いいや。そうだなぁ、こことの違いが知りたいな。」
「あら、違いだらけよ。さっきも言ったでしょう。ここは前の世界の小説か漫画か乙女ゲームといった架空の物語の世界だって。」
「ああ、それそれ。小説は分かるけど、漫画、乙女ゲームって何?」
ああ、忘れていた。この世界に漫画も乙女ゲームもなかったわね。ハンナに紙とペン(おお、万年筆だ!)を持ってきてもらい、イラストと共に説明をした。
「へぇ、面白いね。こんなの見たこともないよ。で、この世界がこれらの世界に似ているって言うんだね?」
「ええ。こういうのって、架空の話だから場が盛り上がるように色々イベントがあるのよ。パーティで婚約破棄とか、ね。娯楽だからね。現実感がない方が楽しいんじゃない。私みたいに物語の中に気が付いたらいるっていうのを、前の世界では異世界モノとか異世界転生モノとか呼ばれていた分野なの。結構人気があったのよ。」
「へぇ、それにしても乙女ゲームっていうのは聞く限り酷いね。そんなの何が面白いんだろうね。」
「ん-、プレイヤーは主人公、つまりヒロイン。攻略対象は顔よし、地位よし、性格はそれなりっていう所謂いい男じゃない?ヒロインになって言い男たちが甘い言葉を囁いてくるのだから、それはそれで楽しいんじゃない。」
「いや、俺にはヒロインって酷く嫌な女だと思うよ。婚約者のいる男を誘惑していくんだろう。自分の男を奪われているんだ。嫌がらせだってしたくもなるさ。原因は自分なのに嫌がらせされて断罪して悪役令嬢を排除して、自分は奪った男とハッピーエンド。何、それってくらいおかしいよね。ヒロインはしたたかで、自分勝手で、何も共感できない。」
「あらっ、いい事言うじゃない。私も同じように思ったの。現実でそんなことされたら嫌な女で、確実に女から嫌われているわよね。でもゲームだし、現実ではないのならアリなんでしょうね。それなりに人気のある分野だったし・・・。」
「ふーん、で、ここはそう言った世界なんだ。」
「ええ、多分。だけど私の読んだ物語の中にナディアという悪役令嬢はいなかったの。どんな話の中なのかは分からないけど、多分、ナディアは悪役令嬢ポジションだと思うの。たいてい悪役令嬢は婚約者が高位貴族か王子、きつめの美人、ピンク頭のかわいい系ヒロインに婚約者を取られて、パーティとかの公の場で言われ無き罪で断罪され婚約破棄される。しかもその後、国外追放とか処刑とか修道院送りとかお家取り潰しとかにあうの。ほらナディアってきつめ美人のナイスバディで婚約者はあのバカ王子。バカ王子の女はピンク頭のかわいい系。でもって、あのパーティでの断罪劇。完璧に材料が揃っているのよ。」
「確かに姉上は美人だよね。性格的に誰かに嫌がらせをするような人ではなかったけど。言われ無き罪で断罪ならありうるね。」
「でしょう。でもね、私はこの世界で生きているからには、長生きしたいのよ。天寿を全うしたい。だから王子なんてノーサンキュウよ。何の話に転生しているのか分からない以上、少しでもリスクは減らしたいわ。だから金髪バカとの婚約破棄は願ったりかなったりで、良かったの。でもね、今度は第三王子が婚約してくれって言ってきたのね。・・・迷惑極まりないわ。」
アルフレッドは紅茶を吹きそうになって、むせ込んでいた。
「あら、大丈夫?」
「ごほっ。えっ、シャルル殿下が姉さんに求婚してるの?」
「そう。腹黒ボンボンってば、しつこいの。速攻断ったのに食いついてきてね。仕方なく今週末に会うことになっているの。」
私はシャルルに課した課題について説明した。
「本気でそんなことやるの?相手は王族だよ。シャルル殿下も何考えてるんだろう。」
アルフレッドは、焦ったように言った。あら、常識人。
私は紅茶を一口飲み言った。
「ええ、本気よ。面倒な課題を課せば、断ってくると思ったのよ。そうしたら、あの王子、結構ノリ気で食いついてきちゃったのよねぇ。週末、必ず来るって言っていたわ。」
「へぇ、意外だな。シャルル殿下って同じクラスだけど、誰にでも公平で親切、いつも穏やかに微笑んでいるけど、特に親しい者を作ろうとはしない方だと思っていたよ。人に執着がないっていうの。でも、姉さんには執着されているんだね。」
「いや、違うわね。物珍しいおもちゃだから遊んでみたいだけよ。」
「ふうん、そういう見方も面白いね。」
「面白くなんかないわよ。腹黒ボンボンにはどうにか婚約なんて考えなおしてほしいの。諦めさせて、リスク回避をしたいのよ。」
「腹黒ボンボンって・・・シャルル殿下はあの第二王子よりずっと人としてできた方だと思うよ。相手としては申し分ないんじゃない。」
「さっきも言ったでしょう。王子ってだけでリスクが高いって。」
「でもさぁ、姉さんの話からいけば、もう断罪って終わっているんじゃない?ほらパーティでの婚約破棄って第二王子とピンク頭の令嬢とが起こしたんでしょう。ピンク頭はヒロインなんでしょう。」
「そう言われれば、そうかも。でも年下よ。実年齢で四つ。リカから見て六つも下よ。無い無い。絶対ないわ。私は年上派。」
「へぇ、そうなんだ。」
「ええ、そうよ。もう週末、面倒ね。カイルにも同席させるけど、そうね、アル君も来る?」
「えっ、いいの?」
「ええ、いいわよ。カイルもいるしね。」
「行く。面白そうだから、行くよ。」
「分かったわ。是非来て頂戴。」
うん、理解者、味方かな、一人ゲットだぜ。




