11. アルフレッド
弟の名はアルフレッドと言うらしい。ハンナが言うには容姿はナディアによく似ていて、性格は温厚で朗らか、学園の一年生で14歳、学業成績もよいとのことだ。ナディアとは可もなく不可もなくといった関係だそうだ。何だ、それ?
早めに会って、この世界で味方になってくれるのか知りたいところだ。
という訳でハンナに弟が帰ってきたらお茶に誘いたいと言うと、はい夕方、アルフレッドが部屋にやってきた。ハンナ、優秀だわ。
「来てくれて、ありがとう。ええっと、アルフレッド?」
きっと名前は呼び捨てよね。
「こっちに座ってちょうだい。」
私はアルフレッドにソファーに腰かけてもらった。他の部屋だと落ち着かない。まだ今のナディアの部屋の方がましだ。この部屋だって、リカの部屋とは違い広く豪華な家具が並んでいる。でも、まだ居た時間が長い分、何とか受け入れているに過ぎない。こんな豪華な部屋、旅行でも泊まったことはない。
ソファーに座るとハンナがお茶とお菓子を用意してくれた。
私はお茶を一口飲んでアルフレッドを見た。
赤茶の髪は短く切り揃えられ、つり目がちな目元はりりしく、すっと通った鼻筋、口元にほくろこそないが、男性版ナディアだ。うん、美少年ね。
「姉上、今日はどうしたんです。姉上からお茶に誘うなんて珍しいですね。それに、いつも以上に口数が少ないですね。」
あら、随分とよそよそしいしゃべり方ね。貴族の兄弟ってこんな感じなのかな?
「あなたとナディアはそっくりなのね。」
思ったことをそのまま言うと、アルフレッドはキョトンとした顔でナディアを見た。表情豊かな子ね。
「あなたとナディアの仲は良かったのかしら?」
今度はこいつ何言ってるんだって顔でこちらを見た。
もう、返事を聞かなくても彼の考えていることが手に取るように分かるのではないか。
「あなたから見たナディアについて教えて欲しいの。」
またまたこいつなんだ的な顔をして、アルフレッドは眉間にしわを寄せた。
「姉上、何があったのです?あの第二王子との婚約がなくなった件は聞きました。学園でかなり話題になっています。良かったですね。浮気王子と結婚しないで済んで。あの王子と結婚しても、姉上は幸せになれないと思っていました。」
あら、姉思いなのかな。
「ええ、あの金髪バカと縁が切れてよかったわ。」
アルフレッドは再びキョトンとした顔をした。
「金髪バカって・・・いつもの姉上とは思えない言葉ですね。どうしたのですか?」
うん、この子もいい子みたい。少なくとも姉への思いやりを感じる。
「そうね。あなたの姉上『ナディア』とあなたは仲が良かったのかしら?随分よそよそしい話し方のようだけど。」
やはり困惑顔でアルフレッドは言った。
「いつもこんな感じでしたよね。姉上はもともと口数の多い方ではなかった。それでも幼い頃は姉上に絵本を読んでもらったり、庭で遊んでもらいました。けど、姉上が第二王子と婚約されてからは王子妃教育で姉上は忙しくなり、ほとんど同じ家に住んでいるのに顔を合わせることがなくなりました。たまに会っても、一言二言挨拶をするぐらいでしたよね。お忘れですか?」
「ええ、知らないわ。そう、兄弟なのに交流がほとんどなかったのね。それでもあなたはナディアをそこそこ大事に思ってくれているように思うのだけど、合っているかしら?」
「そうですね。家族ですから。それより、姉上、先程からどうしました?何だか今日の姉上はおかしいです。」
「ええ、そうね。」
うーん。どうしようか。この子はいい子だ。こんな質問してもなんだかんだ言って答えてくれて、思いやってくれている。ナディアとして生きるしかない以上、家族とは良好な関係でいたい。できれば家族でありたい。一人で生きていくことを決意できるほど、私は強くない。そもそもよく知らない世界で一人で生きていけるとは思えない。お金の稼ぎ方も知らないのだ。
うん、賭けにはなるが、全部話してみよう。
「あのね、アル君。今から話すことを黙って聞いてくれるかしら。」
アルフレッドはこくんと頷いた。
やっぱり、いい子。
私はカイルに話したようにアルフレッドにも全てを話した。ついでにパーティで起きた?、ああ、起こしたことも話した。
話を終えると、私は一気にお茶を飲みほした。
すかさず、ハンナが新しくお茶を入れてくれた。
ハンナはやっぱり顔色一つ変えていない。聞こえてただろうに。
「と、いうわけなんだけど・・・受け入れてもらえるかな?アル君。」
「アル君って・・・そうですね。私の知る姉上とは違うと思ってはいたんですよ。パーティでの件も人伝に聞いていますが、とても私の知る姉上の行動とは思えなかった。今の話はその答えのように感じました。本気で言っているんですよね?」
「ええ、本気よ。嘘は一つもないわ。」
真っ直ぐアルフレッドの目を見て言った。アルフレッドの瞳が少し揺らいだ。
「そうですよね。こんな事冗談で言う姉上ではないですよね。あっ、姉上ではないのか。姉上でなければ尚更ですね。このことは誰が知っているのですか?」
「カイル・・・と、ハンナ?かな。」
「カイル殿って第二王子の側近のカイル・ボーン殿ですか?」
「ええ。」
「なぜ、彼が?」
「金髪バカと共倒れさせるには惜しい人材だから、パーティの最中に引き抜いたの。」
「へぇ、やりますね。私もなぜ彼のような優秀な方が、あの第二王子の側近をしているのか不思議だったんですよ。能力が高いだけにもったいないなぁと。それでカイル殿は姉上の話を聞いてなんと?」
「全てを納得の上受け入れてくれて、今は足りない知識を補うための勉強に付き合ってくれているわ。」
「そうですか。にわかに信じられない気もしますが、不思議と納得はしています。案外すんなりと受け入れている自分がいます。で、何とお呼びすればいいですか?見た目は姉上なのですが・・・。」
「何でもいいわ。好きに呼んで、アル君。」
「・・・それでは姉さんとお呼びします。姉上は幼い頃から知るナディア姉上に使います。リカさん入りナディアは姉さんとお呼びして使い分けさせてください。」
「姉さん、いいわね。あなたの姉になれて嬉しいわ。できれば言葉遣いをもっとラフにして欲しいわ。」
「そうですか。姉さんがそういうのであれば、俺もラフな言葉遣いにするよ。」
「ふふ、ありがとう。堅っ苦しい言葉遣いは肩が凝るものね。いつもあれって、貴族社会では普通なの?」
「さぁ、どうかな。あまり姉上と会えないようになってから、姉上は家族だけど王子妃として王族に名を連ねる、どこか遠い存在に感じていたんだよね。だから自然とあんな言葉遣いになったかな。」
「ふーん、金髪バカの弊害ね。これからはラフに話してラフに接してほしいわ。」
「はは、姉さんは口が悪いね。ラフにか。そうさせてもらうよ。」
「もう一つお願いがあるの。」
「んー、何?俺にできること?」
「ええ、多分。ご飯を一緒に食べてほしいのよ。」
「ごはん?」
「そう。リカの時は家族で食卓を囲むのは日常だったのね。だからね、一人でご飯って寂しいなぁって思ったの。だめかしら。」
アルフレッドはぽかんとした顔をした。




