10. 基礎知識
「週末にシャルル殿下とお会いになるのですね。」
「ええ、約束しちゃったからね。仕方ないわ。だからね、基礎的なことはみっちり詰め込めるだけ詰め込みたいの。あの腹黒にできるだけ隙を見せたくないのよ。」
「腹黒ですか・・・。そうは見えませんが。」
「いいえ、あれはかなり計算高い腹黒よ。あの金髪バカの方がそういった意味ではピュアね。バカなだけにね。まぁ、あいつの傍に居たら眼鏡も曇るはね。」
「そうですか。曇りましたか。ナディア様がそこまで言うなら何かあるのかもしれませんね。」
「ええ、あるある的にも私の勘的にもそう言っているわ。」
「はは、面白いですね。勘って、そんなの何の根拠にもならないのに、あなたが言うと何だかそのように思える。新生ナディア様は面白い。」
「面白いって、ねぇ。私、必死なの。だって、大抵きつめの美人は悪役令嬢って相場が決まっているのよ。で、必ずって言っていい程、婚約者が高位貴族か王子様で、ヒロインをいじめただの言って断罪されて処刑されたりするのよ。そんなの嫌でしょう。だから君子危うきに近寄らずっていうじゃない。ああ、ここでは言わないか。前の世界では誰もが知っている言葉だったの。腹黒王子に近づくのは、あるある的危険度大なのよ。」
「あるあるってよく仰いますけど、そんなに俺らのいるこの世界は、ナディア様の言う前世で読んだ本、漫画、ゲームの世界のようなんですか?漫画、ゲームって言うのはよく分かりませんが、まぁ、作られた物語ってことですよね。その中でよく起こることがナディア様の言う『あるある』ですよね。でも、きつめの美人って自分で言います?やっぱり面白いじゃないですか。」
「だって、中味的に前世の自分の容姿の感覚が残っているから、かなり客観的にナディアを見ちゃうのよ。まぁ、私的には美人でナイスバディでラッキーって思っているわ。」
「そうですね。ナディア様は美しいです。」
「ありがとう。カイルってちゃんと女性を褒めれるのね。」
「紳士の嗜みです。でも社交辞令ではなく、あなたは美しい。」
「あら、気分がいいわ。褒められるって大事ね。」
「はは、あなたは正直な方ですね。好感が持てます。」
「ありがとう。」
くだらないであろう雑談をしながら、私の今の学力などなどを検証していったところいくつかの事ははっきりとした。
まず、語学力はチート級。どこの言語の本も読んで理解でき、さらに会話もできるようだ。(カイルが話せる三カ国の言語については何ら問題がなかったので。多分だけど。)歴史、経済、国の仕組みは全く記憶にはない。算数的な物はかなり前世の方が進んでいたようで、この国は前世における中学二年生くらいまで押さえていれば、学園は卒業できたらしい。あとマナーは知識はないがそれっぽい動作を取ると体が勝手に動いた。そう、体が覚えていたというやつだ。ダンスも軽くカイルと試してみたけど、体が勝手に動いた。
「随分できるじゃないですか。これなら五日間でもなんとかなるんじゃないですか。」
「そう。良かった。腹黒王子と対決しなくてはならないもの。武器は多いに越したことはないわ。」
「武器って、シャルル殿下はいい方かと思いますよ。」
「いいえ、油断しては駄目よ。あるある的に微妙なポジションなのよ、私は。いわれない罪に問われて死ぬなんて嫌よ。幸せとまで言わなくてもせめて穏やかに、天寿を全うしたいわ。」
「ははは、老人のような達観したものいいですね。」
「ははは、じゃないわよ。達観もしたくなるわよ。昨日帰ってきて、自分の部屋はどこだか分からないし、服は脱がされ磨かれるし、部屋はお姫様の物のように豪華だし・・・私の部屋ってどこ?って聞く身にもなってよ。もう使用人の皆さんもはぁって顔してたし、完全アウエィで、一人立ち向かっているか弱いレディなのよ。」
「ははは、か弱い方は昨日のパーティのような場面では反論もできずに、泣き崩れていたんじゃないですか。あなたは逆にやり込めていた。」
「うぅ、だってあるある的金髪バカと色ボケピンクにやられるなんて、許せなかったんだもん。仕方ないじゃない。私は突然知らない体で知らない名前で呼ばれていて、知らない世界で責められていて・・・ストレス半端なかったのよ。発散しないと死んでたわ。」
「ははは、俺的には面白かったからいいんじゃないですか。シャルル殿下も釣れたし。」
「そうなのよ。金髪バカを追っ払ったら、今度は腹黒坊ちゃんよ。腹黒だし、年下だし、王子だし、ノーサンキューね。」
「いえいえ。結構殿下はお買い得ですよ。結婚したいなら最優良物件です。」
「はぁ、そんなこと言われてもねぇ。まぁ、いいわ。さあ、何から始めたらいいかしら。」
「そうですね。この国の概要からがよろしいかと。」
そう言ってカイルは話し始めた。カイルの説明は簡潔で分かり易い。うん、賢い。カイル、君がお買い得品だったよ。
カイルの話によるとこの国はクルドア王国。名前の示す通り、王を頂点とする貴族社会でそれぞれの爵位によって区分けされる。それぞれが自領を持ち経営していて、それぞれが一定の税率で税を課し、領内の法も制定できる。国全体の法もあり、領法より優先される。能力の高い貴族たちは国の運営にも関わり、王宮で働く。うん、日本で言えば江戸時代の幕府と藩、今でいえばアメリカ合衆国の連邦政府と州のようなものだろう。この世界に存在する国は文化の違いや歴史の違いがあれど、概ねこのような体制を取っているらしい。
軍事は騎士団があり、それとは別に辺境に特化した辺境伯家がある。ただ現在は政情が安定しており、諸外国との関係も良好とのことで、騎士団は要人の護衛と治安維持に重きを置いているとのこと。良かった、戦争のない世界で。
王家は国王と正妃、二人の側妃がいる。正妃との間には第一王子と第三王子が、第一側妃との間には第一王女が、第二側妃との間には第二王子と第二王女がいるとのこと。一夫多妻制は王のみ。基本一夫一妻制。うん、王は国政だけじゃなく子作りを頑張らなければならなくて大変ね。
で、我が家は公爵家。父は現宰相。母は社交界では一目置かれる存在らしい。兄は騎士で現在辺境伯家に出向中で不在。弟は学園の一年生でシャルルの同級生らしい。まだ家族の誰とも会っていないので、何とも言えないが、カイルいわく、家族仲は良好とのこと。領地経営も良好で、暮らし向きも豊かだそうだ。
それはなにより。
この国は農業が盛んで、四季があり、天候も安定しているので、様々な農産物に恵まれている。一部海にも面しているので海産物も流通している。鉱業はダイヤモンドと金、銀が取れるがそんなに多くはないらしい。工業は家内制手工業で布や工芸品、道具などを生産しているらしい。まだ馬車だもんね。そうだと思ったよ。ざっくり屋敷内を見て回ったけど、明かりはろうそく、呼び出しはベル、厨房のかまどは薪、オーブンも薪、洗濯は洗濯板とたらい、水は井戸、トイレだけはなぜか水洗。どういう仕組みなんだろう。こういうところで、物語の世界っぽさを感じるんだよね。ほら、都合よくってな感じで。
おお、大体掴めてきたぞ。
さて、ここまで来たら『ナディア』について知りたいものだ。




