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スライムとミコの平和な日!!

異世界へ来て三日目。ミコは街にいた。石畳。

レンガの建物。露店から漂う焼き肉の匂い。

いかにもファンタジー。ただし。

通行人たちはみんな、妙に道を空けていた。

理由は単純。

ミコの腕の中で、スライムがぷるぷるしているからではない。そのスライムを抱えている少女の背後に、

「森が一直線に消えた」

「大型魔獣が跡形もなく蒸発した」

という噂が付属しているからである。

「プル、見て」

ミコは露店の前で立ち止まる。

串焼きがじゅうじゅう音を立てていた。

「食べる?」

困った。意思疎通がふわっとしている。

店主のおじさんが引きつった笑顔を向ける。

「お、お嬢ちゃん! よかったら一本サービスするぜ!」

「いいの?」

「ぜひ!!」

なぜか必死だった。ミコは串焼きを受け取る。

プルの前へ差し出す。先端をちょん、と触る。すると。

じわぁ……。串焼きがゆっくり溶けていった。

「あっ」

「えっ」

店主のおじさんも固まる。

肉がスライム内部へ吸収されていく。

プルは満足そうに震えた。ミコの目が少し丸くなる。

「食べた」

「かわいい」

「そっち!?」

店主のおじさんが驚く。ミコは真剣にプルを観察する。

「味どう?」

「おいしかったんだ」

なぜ分かるのか。店主にはまったく分からない。

ただ少女の機嫌が良いので、街の安全は守られた気がした。その時。広場の向こうで子供たちの声。

「スライムだー!」

三人くらいの子供が駆け寄ってくる。

ガルドが遠くから青ざめた。

「待てガキどもォ!!」

間に合わない。子供の一人がプルへ手を伸ばす。

ぺち。プルを軽く触った。

「わー! ぷにぷに!」

「ほんとだ!」

「冷たーい!」

ミコはじっとその様子を見る。周囲が固唾を飲む。

空気が止まる。子供たちは気づかない。

「お姉ちゃん! この子名前あるの?」

「プル」

「ぷる!」

「かわいいー!」

ミコは数秒黙ったあと、小さく頷いた。

「……優しく触ってくれてるから大丈夫」

街全体が安堵した。リナなんか膝から崩れ落ちている。

「寿命縮んだ……」

ガルドも真顔。

「俺いま“国家存亡イベント”見た気がする」

だが当のミコは平和だった。子供たちへ言う。

「プルは柔らかいから、強く引っ張っちゃだめだよ」

「はーい!」

「あと熱い鍋に入れちゃだめ」

「しないよ!?」

「よかった」

ぷるぷると揺れるプル。

子供たちは完全に遊び相手認定した。

そのうち一人の少女が言う。

「お姉ちゃん、プル好きなの?」

ミコは少し考える。

そして。

「うん」

即答だった。

「世界で一番大事」

あまりにも迷いがない。

子供たちは「へー!」くらいの反応だったが、周囲の大人は違った。ガルドが空を見る。重い。愛が重い。

物理法則みたいに重い。その時だった。

広場の端で、酔っ払いの男が笑った。

「ははっ、スライムなんかより俺を見ろよ姉ちゃん」

空気が凍る。

ガルド達

「終わった」

「南無」

「墓どこに建てます?」

だが。

ミコは怒らなかった。

ただ不思議そうに男を見る。

「なんで?」

「え?」

「プルかわいいのに」

純粋な疑問だった。男が言葉に詰まる。

ミコはさらに続ける。

「ぷるぷるしてるし」

ぷる。

「触るとひんやりするし」

ぷるる。

「あと見て」

ミコが指を出す。プルがその指に、ぴと、とくっついた。

「懐いてる」

周囲

「……」

なんか。ちょっと分かる気がしてきた。

酔っ払いの男ですら、

「……確かにかわいいな」

と呟いていた。ミコは満足そうに頷く。

「でしょ」

夕日が街を赤く染める。

プルはミコの腕の中で、安心したように揺れていた。

その平和な光景を見ながら、ガルドは遠い目をする。

「……このまま平和に暮らしてくれ」

リナが真顔で返した。

「無理でしょ」

そしてその予感は、だいたい当たる。

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