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「失礼ながら、ここはフォレストラー侯爵邸でしょうか?」
私は目の前に現れた男性に内心驚きつつも平静を装って尋ねる。
目の前の男性は、騎士服が似合いそうな雰囲気を醸し出しており、信頼におけそうだと判断したのだ。ブラウン色の短めの髪が彼の清潔感を漂わせている。
「お、お嬢様は、ふ、フォレストラー侯爵邸に行く途中だったんですか?」
フォレストラー侯爵という名前を出すと先程までの余裕たっぷりの笑みが急に凍りついた。
「ええ。気づいたらここにいて、馬も御者も消えていたんですの。てっきりフォレストラー侯爵邸に着いたのだと思ったのですが……その様子だと違うようですね。」
「はっはは……。お嬢様は、なぜフォレストラー侯爵邸へ行かれるのですか?」
男性は何故か敬礼をしながら、尋ねてきた。手先がピクピクと動いており、まるで落ち着きがない。
見た目だけなら騎士として一流なのだけど。
少し残念に思いながらも、
「フォレストラー侯爵に嫁いでまいりました。フィラーレと申します。」
ドレスの裾を摘んで、御辞儀をする。
すると、目の前の男性がぎょっと目を見開いた。
「あ、貴方様が、あのフィラーレ伯爵令嬢でしたか。わ、私はジャックと申します。」
ジャックさんの額の冷や汗が私の目にも見て取れる。
私が婚約破棄された噂の令嬢だと、ジャックさんも知っているらしい。バツが悪そうなジャックさんを見ながら私は小さくため息をついた。
「お嬢様の侍女のメアリーです。ジャック様、フィラーレお嬢様のどんな噂を聞いたのかはわかりませんが、お嬢様はとてもお優しくて美しくて聡明で行動力もある素敵なお方です。噂だけで判断しないでくださいませ。」
後ろに付き従っていたメアリーが一歩前に出て、ジャックさんに釘を差した。
「い、いや……違う。その噂じゃなくて……。いや……その……(おれ、どうしたらいいんだ。このままじゃフォレストラー侯爵に殺されちまう。)」
ジャックさんは急に焦りだして手を顔の前で振ったり、顔をおおったりしている。
赤くなった顔が青くなりさらには、青を通り越して白くなっていく姿を首を傾げながら見つめた。
「……そ、それは大変な目にあいましたね。え、えっと……今、すぐに侯爵家に連絡を入れますので、どうぞ家の中に入ってお待ちください。(こんなとこにいることがバレたらまずい。まずは安全な家の中へ……)」
ジャックさんは今にも倒れそうなほど真っ白な顔色で、私を家の中に案内しようとした。
彼の背中には冷たい汗が幾筋も流れている。
「その必要はない。」
私とジャックさんの会話を断ち切るように、地の底を這うような低い声が聞こえてきた。
「ひぃぃぃ。お、お助けをっ………。」
ジャックさんは、その声を聞くなり地面にひれ伏し許しを請い始めた。




